三兄弟、奮起す
【これまでのあらすじ】
「来世はのんびり碁が打ちたい・・・!」
そんな三国志の諸葛亮 孔明が、
猫の姿になって異世界に転生。
だが、
どんな物事も たった一人によって進むものではない。
彼のあずかり知らないところでも、
物語は 着実に動いているのだ。
彼とは違う別の者たち、
別の視点によって・・・。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
とある山村の一軒家。
日当たりの悪いその部屋では、
三人の男が碁盤を囲んでいた。
その中で、
口元にヒゲのある年長らしい男が、
色褪せた書物を片手に、
盤に碁石を打っていく。
黒石、
白石・・、
黒、
白と順に・・・。
「これは・・、
こんな戦法があるのか・・・」
「そして、
既に攻略の手順もあるのですね。
ですが・・・」
「ああ・・、
知らぬ者からすれば、
対応のしようがない・・・」
そう言って、
年長の男は、
手に持った書物を二人に見せる。
そこには、
今 碁盤に並べた通りの碁石の手順が、
詳しく書かれていた。
「こんな定石が・・、
何年も前から・・・」
「我々、
一般の碁打ちには、
明かされる事のないまま・・・」
「そうだ。
この書は『奴ら』の一人でもあった、
師から譲り受けたものだが・・・」
年長の男の横には、
二人に見せたのと同じような書が、
数十冊と積まれている。
「『奴ら』が強いのは、
才能の差などではなかった。
長年の研究により編み出された最新の戦術・・定石を、
我々庶民に対し秘匿し続けてきたからなのだ」
「そんな・・・」
長い髪を三つ編みにまとめた青年が、
薄暗い部屋の中でも分かるほど、
顔に色を失う。
「くそっ!
そんな連中に俺たちは、
金を払って指導を受け続けてきたのかよ・・・」
もう一人の男、
辮髪の強面も、
これまで囲碁の研鑽に費やした金と時間を思い返して、
はらわたが煮えくり返りそうになる。
「『奴ら』は、
囲碁の力を買われ、
国からの援助を受ける身分。
それを維持するために、
こうして我々 一般の碁打ち達の成長を阻んでいたのだ」
「編み出した定石をすべて、
我々に明かさず独占して・・・」
「それこそが奴らの仕事だろうに・・・。
俺たちに新しい知識をくれるのが・・・。
だから国も金を払い、
俺たちも そのための税を納めているってのに・・・!」
「世の碁打ちたちは、
この事実を知らないまま、
過ごしてきた・・・。
おそらくこれからも・・・」
そう年長の男が締めくくると、
他の二人もうなだれてしまう。
そのまましばらくの間、
三人は無言で、
碁盤に目を落としていた・・・。
彼ら三人は、
ただの碁打ちとは違う。
幼少の頃に囲碁の魅力に取りつかれて以来、
それこそ、
朝から晩まで、
寝食以外の時間はすべて、
その研鑽に費やしてきたのだ。
師 亡きあとも、
彼の残した碁盤と共に・・・。
「・・師は、
その現状を憂えていた。
だからこそ、
棋士たちに追放された・・・」
「兄貴・・・」
「兄さん・・・」
「このままでは、
我々 碁打ちに未来はない。
誰かが正さなければ・・・」
年長の男・・長男の言葉に、
弟二人も うなずく。
「思い知らせてやるのだ・・・。
自身の地位を守るためだけに、
その知識を独占し続けてきた『奴ら』に・・・」
「ああ、
国からの援助目当てに、
俺たち碁打ちを ないがしろにしてきた『奴ら』に!」
「私腹を肥やし、
己が本分を忘れた『奴ら』に・・・!」
三人は、
その場で がっちりと手を組んだ。
「囲碁の棋士たちに・・・!」」」
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それから三人は、
手に入れた書物を使って、
徹底的にその力を磨きなおした。
もともと才能があり、
生活のすべてを囲碁に費やしてきただけあって、
その成長ぶりは目覚ましかった。
その上で、
三人は同志を募っていった。
そのほとんどが、
生活の大半を囲碁に費やしてきた者たちだった。
三人は、
そうして集まった世の碁打ち達に、
培った知識をすべて伝えていったのだ。
――そして、
彼らが憧れていた、
碁を生業とする【棋士】たちの真実を・・・。
村に集まった碁打ちたちは、
「棋士たちが、
俺たち碁打ちに情報の制限を?」
「自分たちの権威を守るために・・・?」
「そんな馬鹿な・・・」
と、
はじめは皆、
三兄弟の話を信じなかった。
だが、
三人が手に入れた数十冊の書を公開すると、
たちまち その内容が話の真実性を訴えた。
「こんな定石が、
昔からあったのかよ!」
「これを知っているのと知らないのとじゃ、
碁打ちにとって大きな差だな・・・」
「俺、
高い金払って棋士の指導を受けてきたけど、
こんなの一度も教えてもらった事ないぜ・・・」
「それって、
俺たち碁打ちが力をつけないために・・・?」
「これだけの知識を、
隠してきていたのかよ・・・」
「自分たちの利益のために・・・」
事実を知った彼らは、
しばし茫然自失となった。
「俺・・、
ただ楽しく打ってればそれでいいと思ってたけど・・・」
「ああ・・、
そういうぬるい気持ちが、
棋士たちをつけ上がらせてきたのかと思うと・・・」
やがて、
その棋士たちへの憤りは、
結束の怒りとなった。
「ふざけんな、
棋士たちの野郎・・・」
「俺たち碁打ちを馬鹿にしやがって・・・!」
「この定石さえあれば、
棋士たちなんか・・・」
「強くなってやる!
そうすれば・・・」
「奴らを倒して、
正しい碁界を取り戻すんだ!」
そんな彼らに、
三兄弟の長男は言った。
「そうだ。
囲碁の真理を極めるべきは、
断じて腐った棋士たちではない。
我々のような、
純粋に囲碁を愛する者たちこそ、
その資格がある!」
「おぉおーーーーーっ!!!!!」」」」」
その言葉に、
山村全体を揺るがすような歓声が上がる。
彼は両腕を広げ、
その声に応えた。
「共に行こう!
道は我が創ってやる!
――この張角が!!」
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【あとがき】
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