死せる孔明、新たな主と過ごす一日
【これまでのあらすじ】
「来世は平穏に碁を打ちたい」
三国志の諸葛亮 孔明、
猫の姿になって異世界に転生。
そんなネコ―メイを拾ったのは、
碁の打てる二人暮らしの兄妹だった。
妹の名は芙蓉、
そして兄の名は・・・
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(今、この少年は何と言った・・・?)
目の前で、猫である私のために、
少女と共に家具の配置換えをしようとしている少年。
「僕の名前は劉備 玄徳」
確かに、彼はそう言った。
(劉備 玄徳・・・、劉備様・・・)
それは、
前の世で私が仕えた主の名・・・。
そして今、
生まれ変わった こちらの世で、
同姓同名同字の人物と出逢った。
しかも、
彼は猫になった自分の言葉を解するという・・・。
(偶然・・と言うにはあまりにも・・・)
そう思った。
比類なき知性に加え、
前の世では神仏を尊び、
占いや運勢を信じてきた私である。
(これは、運命なのではないか・・・?)
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かくして、
私の新しい人生が始まった。
少年と少女・・・もとい、
主と妹君の両親は既に亡く、
二人暮らしだそうだ。
一歩外へと出て見れば、
簡素な家が川伝いに並び、
合間を縫うように木々の生えた土地。
(平凡な街はずれ、
といったところか・・・)
早朝、
日の出前にこの家の一日は始まる。
台所から漂う朝餉の良いにおいが、
主にとっては起きる合図だ。
「おはようお兄ちゃん。
コーメイちゃんも」
「ん~・・・おはよう・・・」
「にゃ~・・・」
主が浴室で顔を洗って身支度をしている間に、
妹君が土間の机に、
つくり終えた食事を並べる。
朝は、
たいてい汁物だ。
良く煮えた野菜や わずかな鳥肉などの中に、
小麦粉を練った餅も入れた、
腹持ちの良さそうな汤が出る。
猫である私には塩抜きのものが、
土間の床に皿に盛られて置かれる。
「いただきます」」
「ニャ」
私は皿に顔を近づけ犬食い・・・もとい、
猫食いで ぴちゃぴちゃと食す。
(美味い・・・)
前の世では、
庶民には もったいないくらいの贅沢な食事だ・・・。
――食事のあと一息ついたところで、
主は出かける。
「はい、お兄ちゃん。
お弁当」
「ありがとう芙蓉。
じゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
「フニャ~・・・」
こうやって、
妹君に見送られ仕事に出かける主。
川沿いに並ぶ家々の前を通る道中、
近隣の住人たちに声をかけられる事もある。
「よお、劉坊。
お前もこれから仕事か?」
「ええ、おはようございます。
お互い今日も一日、
頑張りましょうね!」
「おう!
今度、
休みの日が合った時、
じっくり打とうぜ」
「はい、ぜひ!」
とか。
「おはよう、劉ちゃん。
朝早くから偉いわねえ」
「おはようございます。
おばさんこそ、
朝早くからお疲れ様です」
「ええ、ええ。
近いうち妹さんといらっしゃい。
子供たちが、
あなた達と打ちたがっているのよ」
とか。
それにしても、
(皆、
囲碁が好きなのだなぁ・・・)
いや結構結構・・・。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
主の仕事は、
樹々の手入れだ。
早朝から昼すぎにかけて、
近くの果樹園で働いているのだ。
私も主についていって見たのだが、
剪定した枝で出来た柵を越えた瞬間、
『ほう、これは見事な・・・』
と、
その先に広がる樹々の たたずまいに、
思わず猫だましを・・もとい、
柏手を打ちかけた。
「ニャ~」
主はここの手入れを、
園の持ち主から任されているそうだ。
樹への水やり・肥料巻き、
枝や実の選定、
害虫の駆除、
掃除等々・・・。
実にまじめに、
黙々と仕事に打ち込んでいる。
作業には よく、
前の世にはなかった道具が使われる。
比類なき知性を持つ私としては、
実に興味深いものだ。
(あれが枝を切る【ハサミ】というものか。
なるほど、
便利な道具よの。
ただ、
武器としては使いにくそうだが・・・)
集中していると、
陽が高くなるのも早い。
「ふ~っ・・・」
真昼に差し掛かる頃、
主はいったん作業の手を止め、
妹君に渡された【ベントー】とやらの包みを開ける。
中は塩ゆでした芋などの簡単な・・・もとい、
食べやすい食事だ。
私がそばでじっと見ていると、
主は「ん?」とこちらへ顔を向け、
「孔明も食べる?」
と、訊いてくる。
「ニャ」
「ひと口だけだよ。
塩味が付いているから」
「ニャ~・・・」
そうやって私は、
主の手から直に食事を頂く。
それを嬉しく感じるのは、
猫の身体ゆえか・・・。
――芋を食べ終え、
主は竹筒の【スイトー】に入った水を飲むと、
「ふぅ・・・」と、一息つく。
木漏れ日さす樹々の下、
心地よい そよ風を受けながら、
「フニャ~・・・」
「うん、
いい風だね~・・・」
などと、
過ごす主と私。
労働の時間にすら、
こうして平穏な時間を設けられるとは・・・。
『にゃんと贅沢な・・・』
と、
思わずつぶやいてしまう。
主は、
周りの樹々を眺めながら、
「この果樹園はさ・・・」
と、話し出す。
「果実を育てるだけじゃなくて、
開花時期には宴席にも使われたりするんだ」
「ニャ・・・」
「うん、
桃の樹がつぼんできているね」
見上げれば、
ちらほらと淡い赤色の つぼみが見える。
あれが一斉に咲き乱れたら・・、
さぞかし華やかな事だろう・・・。
「宴席、やりたいね。
桃の花が咲いたら」
「ニャ~」
〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
【あとがき】
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