孔明、主の気持ちに寄りそう
【これまでのあらすじ】
「来世はのんびり碁が打ちたい・・・!」
猫になって異世界に転生した、
【三国志】の諸葛亮 孔明。
主の少年 劉備と共に、
囲碁の棋士たちと関わるも、
その堕落ぶりに失望する・・・。
棋士をまとめる棋院にも、
疑惑の目を向けるが、
そこには劉備の師匠が所属しているらしく・・・。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
「囲碁の棋院には、
僕の師匠が所属しているんだ。
盧植って棋士なんだけど」
『にゃんと・・・』
芙蓉殿の腕に抱かれた私に、
劉備様は言った。
国の棋士たちをまとめる部門、棋院。
そこに、
劉備様のかつての師が・・・。
しかも、
名前が【盧植】・・・。
前の世の劉備様にも、
若いころ盧植という名の師がいたとか・・・。
やはり、
前の世と こちらの世は、
何かつながりがあるのか・・・。
「最近の棋院は、
確かにおかしいみたいだけど。
でも、
だったら盧植先生が、
それについて何も言わないはずがない・・・」
「フニャ・・・」
「今もきっと、
何か対策を・・・」
「でも、お兄ちゃん・・。
あの張飛って人も言っていたよね・・・」
言いづらそうに、
芙蓉殿が口をはさんだ。
「今の囲碁界は、
腐りきっているって・・・」
「それは・・・」
「それって、
棋士ひとりの力で、
何とかなるものなのかな・・・。
いくら盧植先生が立派な人でも・・・」
「いや、
棋院には他にも棋士がいる」
そう言って、
劉備様は芙蓉殿の懸念をさえぎった。
「盧植先生だけでなく、
他の棋院の棋士だって、
何とかしようとしているはずだよ。
きっと今も・・・」
「お兄ちゃん・・・」
「ニャ~・・・」
芙蓉殿も私も、
その言葉に賛成できなかった。
ならば、
今の状況はどう説明するのか。
街では無能で横暴な棋士が幅を利かせ、
それをまとめる棋院という部門は、
囲碁の書や碁盤の所持にも税を取る。
それに不満を持つ碁打ちたちが、
黄巾党という集団までに膨らむ始末。
とても棋院の棋士たちが、
歯止めをかけようとしているとは思えない。
(劉備様には申し訳ないが・・・)
むしろ、
棋院をあずかる棋士たちも、
それに加担しているのではないか・・・。
(その盧植という師も・・・)
それを劉備様に言おうとした時、
「おい、劉坊!
大変だ!」
と、
外から男の声と、
乱暴に戸を叩く音がした。
劉備様が戸を開けると、
何やら見覚えのある顔があった。
(確か、この男は・・・)
比類なき知性により、
以前 寄合の碁会所で見た碁打ちの一人だと思い出した。
(劉備様の囲碁仲間か・・・)
「どうしたんですか、一体?」
「大変だ劉備。
俺たちがいつも使っている碁会所が・・・」
「あの碁会所が何か?」
「あの碁会所が・・・、
棋院に取り上げられちまったんだ!」
「え?」
「フニャ?」
どういう事だ?
あそこは確か・・・、
「でも、
あそこは県の地域施設じゃ・・・。
それが取り上げられたって一体・・・」
「国中の囲碁の施設に対する、
税が大幅に上がったらしい。
税を払えない施設は接収すると・・・」
「つまり・・・」
「県は、その税を払えなかった。
だから、
あの碁会所は棋院に取り上げられたんだ・・・。
おそらく、
近くの囲碁施設は全部・・・」
「そんな・・・」
「お兄ちゃん・・・」
「ニャ~・・・」
劉備様は、
あっけにとられた様子。
芙蓉殿もまた、
衝撃を受けたように劉備様の服のそでをつかむ。
私も同様であった。
ついこの間まで、
平穏に囲碁を楽しんでいたのに、
まさか数日でこうまで変わるとは。
それも前の世ならばともかく、
戦や争いなどないと思っていたこちらの世で・・・。
「・・・それで、
あの碁会所はどうなるんですか?」
「これまで通り、
俺たちが利用する事はできるらしい。
ただ・・・」
「ただ?」
「これからは席料・・使用料を払わなきゃいけないそうだ。
それも安くない額を・・・」
「そう・・ですか・・・」
もはや劉備様の反応は鈍かった。
「・・・じゃ、またな」
気持ちを察したのか、
そのまま男は帰っていった。
「お兄ちゃん・・・」
「少し寝るね」
そう言って、
劉備様は靴を脱ぎ、
板の間に布団を敷いて寝転がった。
私や芙蓉殿に背を向けて・・・。
ふて寝だろうか?
だが・・・、
(無理もない・・・)
と、
私は思った。
こちらの世の囲碁事情は、
前の世とは違うのだ。
たかが碁、
たかが娯楽とはとても言えない。
こちらの世を生きる者たちは、
囲碁が生活の一部となっているのだ。
労働や家事の合間をぬって、
仲間と打ち、
家族と打ち、
皆で碁盤を取り囲む。
日々の食事と同じように、
囲碁は彼らにとって、
土台であり、
楽しみであり、
よりどころなのだ。
――それが今、
理不尽に崩されようとしている。
前の世で、
国の腐敗が民を苦しめたように・・・。
「ニャ~・・・」
私は、
静かに板の間に上がり、
劉備様の背中に寄り添った。
そして芙蓉殿も、
私をはさんで、
一緒に横になる。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
何も言わない。
ただ、
横になっているだけ。
せめて、
今だけは平穏に・・・。
〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
【あとがき】
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