孔明、夢の中で出逢う
【これまでのあらすじ】
「来世はのんびり碁が打ちたい・・・!」
猫になって異世界に転生した、
【三国志】の諸葛亮 孔明。
主の少年 劉備と共に、
棋士たちと関わるも、
その堕落ぶりに失望する・・・。
そして、
棋士をまとめる棋院が、
自分たちの囲碁の居場所を奪っていき・・・。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
――気が付くと、
私は夢の中にいた。
辺りは一面真っ白で、
蛍の様に淡く輝いている。
「はて?
ここは一体・・・。
確か私は、劉備様のそばで寝ていたはず・・・」
と、
ほんのわずか混乱もしたが、
そこは私。
比類なき知性により、
「もしや・・、
これは夢の中か?」
そう判断した。
その時、
『孔明よ』
「む・・・」
いきなり名前を呼ぶ声がした。
いつの間にか、
私の前に立つ者がいるではないか。
しかし、
そばにいるその人物は、
何故か姿がはっきりしない。
(いや・・)
夢の中ならば当然か。
だが、
『どうだ?
今の囲碁の世は?』
「なっ・・・!」
『楽しんでおるか?
【三国志】の諸葛亮 孔明よ』
「三・・国志?」
聴きなれない単語だった。
それ以上に、
この人物は私の事情を知っているかのようだ。
「いや、
これは私の夢の中・・・。
ならば、
夢の中の人物が私の事を知っているのも当然・・・」
『なるほど、
そう来たか・・・。
ーーまあ、
今はそれで良い』
目の前の人物・・光る者は、
何やら一人で納得しているようだ。
『孔明、
お前に言っておく事がある』
「む・・・」
『お前は、
これから新しい世で、
様々な困難に巻き込まれることになる。
それは、
前の世で最期に、
平穏な来世を願ったお前には、
酷なことやも知れん』
「・・・!」
これは・・光る者の言葉は、
確かに酷なことだった。
「また・・戦が始まるのか?
こちらの世でも、
また多くの者が血を流すことに・・・」
『いや、
そうではない』
「へ?」
『争いとは囲碁に関する話だ。
これから、
世の碁打ちたちが繰り広げる戦いに、
お前は飛び込むことになる』
「碁打ちたちの戦い・・・。
それは、
一体どのような・・・」
『利権や誇り・・・そして、
生活を賭けた戦いだ』
「生活とな?」
『そうだ。
現に今、
お前の主たちは、
棋院の者たちに生活をおびやかされているであろう』
「・・・・・・」
棋院・・・。
いわゆる、
囲碁界隈の元締め。
(その者たちに、
劉備様たち碁打ちは、
税を上げられ打つ場所を追われ・・・)
私はいつの間にか、
これが夢であることを忘れ、
光る者の話に聞き入っていた。
『それは、
まだ見ぬ大きな戦いへの布石・・・。
孔明よ、
その争いの【黒】に吞まれるな」
「【黒】に・・・」
『そうだ。
囲碁を楽しめ。
対局を楽しめ。
成長を楽しめ。
新しい出逢いを何より愛せ。
この先何があろうと、
【白】であり続けよ』
「・・・」
『この新しい世で、
囲碁の道を極めてみよ。
正しき仲間や家族と共に』
「応・・・!」
私は思わず応えていた。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
「フニャ・・・」
「あ、起きた?
コーメイちゃん」
目を開けると、
芙蓉殿が布団で丸くなっていた私を覗き込んでいる。
「よく寝てたね~。
もうすぐ、ご飯の時間だからね」
「ニャ~・・・」
窓の外を見れば、
いつの間にやら日が沈みかけている。
(夢・・・)
妙な夢だった。
あの光る者の言葉が、
いやに鮮明に思いだされる。
まるで、
現実だったように・・・。
「ただいま~」
そこへ、劉備様が戸を開けた。
「おかえり、お兄ちゃん」
と、
奥の台所から芙蓉殿が。
どうやら、
私が寝ている間、
どこかへ出かけていたようだ。
(気晴らし・・だろうか)
何しろ、
今日は散々だったのだから・・・。
「手紙、出せた?」
「うん、
ちょうど便がでるところだったよ」
(手紙・・【便】・・・)
こちらの世では、
庶民でも容易に手紙を送れるのか・・・。
「――お待たせ」
夕闇が深くなったところで、
芙蓉殿が夕餉の膳を運んできた。
米飯に香の物、
そして具沢山な鳥の汤。
猫の私には、
塩抜きの汤に米飯を落としたものだ。
『にゃんと贅沢な・・・!』
税も上がって、
私の食費も相当な負担であろうに・・・。
「いただきます」」
「ニャ」
私は、
猫の習性に抗いながら、
ゆっくりと咀嚼していった。
一口一口をじっくりと味わうように・・・。
「フニャ~」
「孔明が『とても美味しい』ってさ」
「そう?ふふ・・・」
幸せな家族、
幸せな空間・・・。
庶民にとって、
なによりも貴重なもの。
それを蝕む者たちがいる。
私利私欲や保身のために・・・。
(許せん・・・)
まだ見ぬ棋院に対する、
どす黒い感情が わき上がる・・・。
「あれ?」
「どうしたの、芙蓉?」
「何か・・コーメイちゃんの毛、
黒くなってない?」
「え?」
(な・・・)
芙蓉殿の言葉に、
私はハッとした。
と、
劉備様が床の私を抱えて、
首をかしげる。
「ん~・・、どこも汚れていないよ?
見間違いじゃない?」
「あれ、変だな・・・」
芙蓉殿も、
不思議そうな顔をしている。
「あ、ごめんね孔明。
食事の邪魔して」
(・・・・・・)
床に降ろされた私は、
残念ながら食事どころではなかった。
あの夢の中で、
光る者が言った言葉を思い出す。
『【黒】に吞まれるな。
【白】であり続けよ』・・・。
〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
【あとがき】
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