死せる孔明、異世界に転生す?
【これまでのあらすじ】
三国志の諸葛亮 孔明、
五丈原にて死す。
静かに囲碁を打てる、平穏な来世を願って・・・。
――そして、次に目覚めた時、その身体は一匹の猫となっていた。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
私は猫である。
自覚はまだない・・・。
そう、こうして鏡の前で、
猫となった自分自身の姿を見せられても・・・・・・。
(わ、私は孔明・・・。
比類なき知性を誇る大軍師、
諸葛亮 孔明・・・。
性別は男・・・、
年齢は五十代・・・、
まぎれもなく人間だ!
それが何故・・・)
「ど、どうしたの、猫ちゃん?
いきなり大声で鳴いたりして・・・」
私を抱えた少女が、心配そうに尋ねてくる。
衝撃で声が出るようになった私は、
必死で事情を説明する。
『ああ、少女よ!
私は人間なのだ!
なのに何故か、
眠っている間に猫になってしまったらしい!
これは一体・・・』
――そうまくし立てたはずなのに、
私の口から出たのは
「ニャア、ニャーッ!」
という鳴き声だけだった。
(人の言葉が出ない・・・?
――そうか、身体が猫になったから・・・!)
比類なき知性により、
私は瞬時に理解する。
『にゃんてこったい・・・』
身体が思うように動かせないのもそのせいか・・・。
(――ならば、どうする?)
どうやって事情を説明したらいい!?
「何、今の声?」
少女の兄が、脱衣所を覗いてきた。
「あ、お兄ちゃん。
このコが鏡を見たら、
急に慌て出して・・・」
と、
少女はかかえている私の身体を、
兄である少年に向けた。
少年は私を見て、
いぶかし気な顔をしながら言った。
「何か、
『猫になっちゃったんだ』とか聴こえたけど・・・?」
(え・・・?)
私は、耳を疑った。
今、
この少年は何と言った・・・?
『少年よ・・・、
私の言葉が解るのか・・・?』
と、
猫の鳴き声で聞いてみる。
「え?
うん、何となくだけど。
でも、何でだろう・・・?」
『本当か!?
本当に解るのだな!?』
私は喜びのあまり、
少年の胸に飛びついた!
――身体を動かせたのだ・・・!
そして、
飛びついたのは、
猫ゆえの習性か・・・?
「おっと・・・よしよし」
少年は私の身体を受け止め、
そのまま背中をなでてくれた。
「フニャ~・・・」
猫になったせいか、
不思議と心地よい。
「ずるい・・・」
という、
少女の声が背後から聴こえた・・・。
――何はともあれ、
先ほど私が目覚めた土間に戻ると、
私たちは机に向かった。
飾り気のない木の机だ。
おそらく、
ここで食事だけでなく、
書き物など机上の作業も行うのだろう。
少年と少女は、
それぞれの椅子に座り、
私は・・・、
少女の腕に抱かれている・・・。
(むう・・・まことに遺憾だが、
心地良い・・・)
――そして、
私は話した。
人間だった時の名前、経歴、
そして、五丈原での最期の瞬間も・・・。
「国が、三つの勢力に分かれていた・・・?」
聴きながら、
少年は私の話に唖然としているようだった。
「それに乱世って何?
大勢の人が、ずっと殺し合いをしていたなんて・・・。
そんな怖い世界から、君は来たの?」
「ニャ?」
私は、思わず聞き返した。
(そんな怖い世界から・・・来た・・・?)
少年は言った。
「うん。
だって、
君の話が夢でも何でもないとすれば、
そう考えるしかないと思うよ。
君は、
別の世界から来たんだ。
きっと神様が、君の最期の願いをかなえてくれたんだよ」
その言葉に私はハッとした。
そうだ。
五丈原での最期の瞬間、
確かに私は願ったのだ。
『もし、次の生があるのならば・・・
願わくば・・・、
戦のない・・・平穏な世で・・・、
皆と碁を・・・打ちた・・・い』
と・・・。
(そうだったのか・・・)
こう見えて(?)信心深い私は、
いまだ見たこともない、
神と言うものに感謝した。
ただし、
猫に生まれ変わった事は別として・・・。
「――じゃあ、
さっそく君の願いをかなえてあげようか」
少年はそう言って席を立ち、
近くの棚から厚い木の盤を持ってきた。
「ニャ?」
机の上に置かれたその盤には、
見覚えのあるマス目が並んでいる・・・。
「一局打とうか、碁を・・・!」
〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
【あとがき】
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