孔明、ガキと再会する
【これまでのあらすじ】
「来世はのんびり碁が打ちたい・・・!」
猫になって異世界に転生した、
【三国志】の諸葛亮 孔明。
街の碁会所で、
高慢な棋士の鼻をへし折った主の劉備・・・。
その後、
書店で棋士たちの棋譜を見つけるも、
その値段の高さと、
おそまつな対局内容に衝撃を受け・・・。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
「あ・・・」
「お前は・・・!」
馬車寄せの前で、
私たちは見覚えのある顔に遭遇した。
「確か・・、
張飛だったよね?」
「ああ、
お前は・・劉備だったな」
(張飛 翼徳・・・)
先日、
近所にある碁会所で、
劉備様と一局繰り広げた少年・・いや、
ガキだ。
(前の世では、
【前劉備様】の義兄弟だった男の名・・・。
そして・・・)
こちらの世では、
黄巾党の・・・。
「お兄ちゃん、
お友達・・・?」
そういえば、
芙蓉殿は初対面か。
「ああ、ほら、
この前 話した、
碁会所で対局した相手だよ。
――張飛、
このコは僕の妹で芙蓉」
そう言って、
劉備様は、
お互いを紹介した。
「は・・はじめまして」
「あ、ああ。
よろしくな・・・」
(おや・・・)
若干人見知りの芙蓉殿に対し、
鼻っ柱の強い張飛。
(てっきり、
憎まれ口の一つでも叩くかと思いきや・・・)
普通に あいさつを返すではないか。
「近所に同い年のコがいなくてさ。
仲良くしてやってよ」
という、
劉備様の言葉に、
「おう・・・」
と、
あいまいに返す張飛。
そこへ、
帰りの馬車がやってきた。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
「ふうん、
棋士と打ってきたのか」
「うん、
まあ、成り行きで」
案の定、
帰りの馬車はガキ・・もとい、
張飛と一緒だった。
「で、
どうだった?」
「・・君のほうが強かった」
「はっはっは!」
劉備様の言葉に、
笑い出す張飛。
「――それと、
書店で棋士たちの棋譜も見たよ」
「その表情は、
がっかりしたって顔だな」
と、
ニヤニヤしながら言う張飛。
「だから言っただろうが?
今の棋士たちは大半がヘボだって」
「う~ん・・・」
「何だよ?」
「僕の師匠も棋士だったから」
「・・・そうか」
「うん」
「・・・」
わずかな沈黙の後、
張飛は、
「・・お前の師匠なら、
棋士でもマシなほうなんだろうさ」
と、
バツが悪そうに言った。
「ニャ~」
悪い男ではないのだ。
芙蓉殿の膝の上で、
私は思った。
芙蓉殿は不思議そうに、
二人の様子を見つめる。
・・指先で私の背中をいじりながら。
「フニャ~・・・」
(【黄巾党】の一味と聴いて、
警戒しすぎたか・・・)
そうだ、
彼ら黄巾党が、
国全土に乱世を巻き起こしたのは、
前の世の話。
(ここは・・こちらの世は、
前の世とは違うのだ・・・)
すると、
今度は劉備様のほうから、
「張飛も、
街へは行楽で行ったの?」
と、
訊いてみる。
「あ~・・、
いや・・・」
だが、
なぜか張飛は、
返答をためらう。
「まあ、
仲間と会って来たんだよ」
(仲間・・・)
私は、
耳をそばだてた。
「仲間って、
囲碁の?」
「囲碁の革命の、だ」
(・・・)
やはり、
こちらの世でも何か、
やらかすつもりなのか。
劉備様も、
その言葉で眼鏡を正した。
「ねえ、張飛。
この前もその言葉を聴いたけど・・・」
「・・・」
「革命って、
何をする気なの・・・?」
「俺らの仲間になるなら、
教えてやるぜ?」
「ねえ・・、
何の話・・・?」
そう聴いたのは、
芙蓉殿だった。
膝に乗った私にも、
緊張が伝わる。
「ああ、
芙蓉・・だったか?」
張飛は、
目線だけ向けて答えた。
「要は、
俺たちと一緒に、
好き勝手やっている棋士どもをつぶそうぜ、
っていう話さ」
「そんな・・・」
普段聞きなれない強い言葉に、
衝撃を受けたようだ・・・。
「それって・・、
囲碁に携わる人たちに、
とても迷惑をかけるものでしょう?
そんな事に、
お兄・・兄を巻き込まないで・・・」
「あの・・芙蓉?」
「迷惑?
巻き込む?
はっ!
馬鹿言うな」
そう言って張飛は、
睨むように見据える。
「こっちは親切心で言ってやってんだぜ。
この革命が成功すれば、
間違いなく囲碁界隈は、
今よりずっと明るくなる。
ヘボな棋士どもは引っ込んで、
本当に強い碁打ちたちが、
報われるようになるんだからな」
「そんな・・・」
「劉備、
お前だって思い知ったはずだぜ」
「え?」
「棋士どもの横暴っぷりや怠慢さをな。
奴らは、
最新の定石を世間に隠して、
それで上に立った気でいる。
ただ、
自分がうまい汁を吸うためだけに、
囲碁全体の発展を止めていやがるんだ」
「それは・・・」
「だが、
お前ら碁打ちたちは、
それに気づかず、
能天気に棋士連中に憧れる。
だから奴らは、
ロクに棋力もないくせに、
いばりくさり続けるんだよ・・・!」
「・・・・・・」
「お兄ちゃん・・・」
芙蓉殿が、
不安げに袖に触れる。
だが、
劉備様は押し黙ったままだ。
「・・劉備、
一度だけ言うぜ」
そう言って、
張飛は手を差し出した。
「黄巾党に来いよ。
囲碁の革命に、
お前の力を貸してくれ」
「僕は・・・」
「お兄ちゃん・・・」
「ニャ~・・・」
――劉備様は、
その手を取らなかった。
そして張飛は、
一つ手前の馬車寄せで降りた。
「ふぬけ野郎が・・・」
去り際にそう言った張飛の表情は、
どこか悔しそうだった。
『ままにゃらぬものよ・・・』
その後ろ姿と、
見送る劉備様たちを見て、
私はつい口からこぼれた・・・。
〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
【あとがき】
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