死せる孔明、無礼な輩を威嚇する
【これまでのあらすじ】
「来世はのんびり碁が打ちたい・・・!」
猫になって異世界に転生した、
【三国志】の諸葛亮 孔明。
ある日、
主人である少年 劉備・妹の芙蓉と共に、
街へ行楽に。
偶然見つけた碁会所に入った劉備と孔明だが、
何やら席亭と棋士が言い争っているようで・・・。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
「いきなり指導料が倍額だなんて・・、
横暴ですよ!
この前も値上がりしたばかりなのに・・・」
「何を言うかね?
棋士の力が上がったのなら、
料金も上がるのは当然だろう?」
「ですが、
昇段1つで料金が倍というのは・・・。
明らかに相場から外れているというか・・・」
「何だと!?
貴様、
私がぼったくり扱いするのかね!?」
碁会所の奥で、
中年2人・・もとい、
席亭と棋士の言い合いが続いている。
対局後の碁盤を はさんで・・・。
ざわ・・ざわ・・と、
客の碁打ち達も、
対局の手を止め、
そちらに注目している。
・・これはどうも、
囲碁を楽しめる雰囲気ではない。
「ニャ~・・・」
「え?
あ~・・うん、
そうだね・・、
帰ろうか・・・」
私たちは、
きびすを返して部屋を出ようとした。
――が、
「おい、
待たんかね小僧」
棋士の男が、
劉備様を呼び止めた。
「え?
あ、はい」
「貴様、
随分と毛並みの良い猫を連れているではないかね」
『私?』
振り向けば、
男は いかにも尊大な態度で、
こちらへと近づいてくる。
「私は猫が好きでな。
どれ、
ちょっと貸してみないかね」
と、
乱暴に私の首根っこをつかみにきた。
「シャーッ!!」
「あ、すみません。
嫌がっているみたいなので」
私が思わず拒否反応を示すと、
劉備様が男との間に入ってくれた。
とたんに、
男が不愉快そうに顔をゆがめる。
「何だと?
小僧、貴様、
碁打ちのくせに、
棋士である私の頼みを断るのかね?」
「え~?
いや・・、
それ関係ないでしょう?」
男の言葉に、
至極もっともな意見を返す劉備様。
だが、
それがますます、
男の癇に障ったようで、
「ふざけるな!
貴様ら碁打ちが碁の勉強ができるのは、
誰のおかげだと思っているのかね!?」
と、
声を荒げた。
「我々棋士が日々、
新しい定石を研究し世に広めているからこそ、
お前たちはそのおこぼれにあずかれるのではないかね?」
「おこぼれ・・・」
「そうだ!
貴様ら素人どもなど、
我々の棋譜や研究成果がなければ、
ロクに学ぶこともできんではないかね」
「・・・」
「貴様らは、
我々棋士のおかげで碁が打てるのであるぞ!
身の程をわきまえないかね!!」
『何言ってだ、こいつ・・・』
今は猫である私も あきれ果てた。
隣を見上げれば、
劉備様も何とも複雑な顔をしている。
すると、
その やり取りを聴いていた客たちが、
「棋士さんよ・・、
それはちょっと言葉が過ぎませんかね?」
「そうだ そうだ!」
「何様のつもりだよ、
あんた!」
と、
抗議の声を上げ始めた。
「黙れ、
この木っ端どもが!!
人に教えを乞う分際で、
生意気ではないかね!!」
「何だぁテメエ・・・」
「くそっ、
言わせておけば!」
碁会所に一触即発の気配が漂う。
人の好さそうな席亭の男は、
「はわわ・・・」
と、
ただオロオロするばかりだ。
そこでいきなり、
パァン!
と、
音がした。
とたんに、
言い争う声がやむ。
「皆さん、
どうか落ち着いてください」
と、
手をたたいた劉備様が、
皆をいさめた。
そして、
「先生」
と、
棋士の男に向かって言った。
その呼び方に、
男のほうも、
「な、何かね?」
と、
毒気を抜かれたように言った。
「実は僕たちは今日、
田舎の村から来ました」
「あ~ん?
それがどうしたのかね?」
「辺鄙な土地なため、
普段なかなか この街へは来れません。
ましてや、
憧れの棋士の方と向き合える機会など、
この先 一生ないでしょう」
「ん?」
「なので、
どうか記念に一局お願いできないでしょうか?
旅の・・いえ、
一生の思い出にぜひ・・・」
そう言って、
劉備様は頭を下げた。
その態度に、
男のほうも、
「ほほお・・、
なるほどな・・・」
と、
まんざらでもないようだった。
たちまち態度を軟化させ、
「田舎のガキにしては、
なかなか道理をわきまえておる。
――よかろう、
相手になってやるかね」
そう言って、
ドカッ!と、空いている席に座った。
「座りたまえ」
「はい、
ありがとうございます」
お互い席に着き、
それぞれ碁石の入った入れ物・・碁笥の蓋を開ける。
ちなみに、
この蓋には対局中に相手から取った石・・【アゲハマ】を入れるのだ。
「置き石は二子か三子か・・・」
「いえ、
ぜひ互先で!」
「ふん、
生意気な・・・。
まあ、
記念にはなるかね」
そんな2人の周りに、
碁打ちたちも集まりだす。
だが、
中には面白くなさそうな顔をしている者たちもいる。
「何だよ、
棋士だからって偉そうに・・・」
「だよな。
大した指導もできないくせに、
料金だけは人一倍持っていこうってんだから・・・」
「近ごろ、
横暴な棋士が増えてきたよな・・・」
と、
それだけでなく、
「あの小僧も小僧だぜ」
「あんな奴にヘコヘコしやがって、
情けねえ・・・」
「まったく、
世渡り上手なガキだね」
などと、
劉備様まで悪く言う者たちまでいる。
「シャーッ!!」
「うわっ!
何だよ、この猫・・・」
私が威嚇してやると、
碁打ちたちは余計な口を閉じた。
だが、
今度はそれを見た棋士の男が、
「まったく、
何という凶暴な猫かね・・・。
品があるようなのは見た目だけで、
所詮は畜生であるな」
などと、
ほざきおった。
すると、
「・・孔明、おいで」
男と向きあって腰かけている劉備様が、
自分の太ももをポンポンと叩いてみせた。
「ニャ~」
言われるまま、
そこに跳び乗る。
劉備様の膝の上で、
共に男と対峙する形になった。
男はそれを見て、
「何だ、
ゲン担ぎかね?
まったく、
棋力に自信のない者ほど、
そういう下らん事をする。
そんな駄猫を・・・」
と、
さも馬鹿にした顔になった。
「はは・・・」
それに対して劉備様は、
ただ柔和な笑みを浮かべるのみ・・・。
周りの大人たちからも、
「まったく、
子供ってのは単純だな・・・」
「【棋士】ってだけで、
正義の味方みたいに見えるんだろうさ・・・」
と、
失望の声が聴こえてくる。
「ニャ・・・」
気づいたのは、
私だけだった。
眼鏡越しで分かりづらい劉備様の目が、
底意地悪く細められている事に・・・。
〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
【あとがき】
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