死せる孔明、家族と旅行の計画を立てる
【これまでのあらすじ】
「来世はのんびり碁が打ちたい・・・!」
猫になって異世界に転生した、
三国志の諸葛亮 孔明。
ある日碁会所で、
主人である少年 劉備が張飛と名乗るガキと対局。
その帰り道、
主は張飛と囲碁について話し合うが・・・。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
「ねえ芙蓉、
今度 街のほうに行ってみない?」
「え?」
ある夜、
土間の机で茶を飲みながら、
我が主である劉備様は、
妹君の芙蓉殿に言った。
膝に乗せた猫である私をなでる、
妹君の手が止まる。
「ニャ~・・・」
主がそう言ったのは、
先日出遭った張飛にそそのかされたせいか。
『街に行けば分かるさ。
今の囲碁界が どんな状況か』
という・・・。
そして、
「街かぁ・・・。
そういえば、
もう何年も行っていないよね」
と、
つぶやく妹君。
「そうだね。
近いようで、
結構距離もあるからね」
と、
主も請け負う。
「最後に行ったのは、
お母さんと三人で・・だったよね・・・」
「うん・・・。
なつかしいね・・・」
「ニャ~・・・」
二人の両親は既にない。
以前、
主から聴いたのだが、
父君は二人が幼い時に。
そして母君は・・、
二年ほど前に。
三人で街へ遊びに行って帰ってきた、
そのすぐ後の事だそうだ・・・。
――しんみりとした空気がただよう。
妹君は指先で、
私の背中の毛をねじり続ける。
「フニャ~・・・」
「あ、ごめんね、
コーメイちゃん」
と、
言って手を止めたあと、
「分かった。
行く」
妹君は、
主に向かって行った。
それを聴いた主は嬉しそうに、
「よし、
決まりだね!」
そう言ってパン!
と、手を叩いた。
「でも・・、
結構遠いよ?
一日で帰って来られるの?」
そういえば、
主の仕事は果樹園の手入れという内容上、
連続した休みがない。
妹君が、
その心配をすると、
「大丈夫、
乗合馬車を利用するから。
それくらいのお金はあるよ」
と、
主は請け負う。
そしてそこから、
当日の予定が練られていく。
「せっかくだから、
お昼はどこかお店で買ってみようか」
「え、いいよそんなの。
私 お弁当つくるよ?」
「それはありがたいけど・・、
芙蓉だって、
たまには外でご飯を食べてみたいだろう?」
「う、うん・・・」
と、
遠慮がちに認める妹君。
「だから、
お金の事なら心配しなくていいって。
うちの家計に手をつけるわけじゃないから」
「ん・・・」
「それに、
僕だって街で食事をしてみたいしね。
だから芙蓉も付き合ってよ、
ね?」
「うん・・、
ありがとう、
お兄ちゃん」
妹君も嬉しそうに微笑む。
どうやら主は、
張飛に言われたからだけでなく、
純粋に妹君を遊びに連れていってあげたいようだ。
「ニャォ~・・・」
ああ、
麗しき兄妹愛よ・・・。
「お兄ちゃん、
わたし衣料の店に寄ってみたい」
「衣料・・・?
ああ、
新しい服が欲しいの?」
「そうじゃなくて・・、
その・・、
下着が・・大きさが合わなくなってきたから・・・」
そう、
妹君は恥ずかしそうに言った。
膝に乗せた私の背中を、
わしゃわしゃといじりながら・・・。
「ニ・・ニャ~・・・」
「あ、ああ、
もちろん・・・」
これには主も、
返しに困っている様子。
「えっと、
それなら街の中心まで行ってみない?」
「中心?」
「うん、
繁華街とか。
色々なお店がありそうだし・・・」
「繁華街・・・」
主のその提案に、
何故か妹君は【ジト目】になる。
「もしかして お兄ちゃん・・、
いやらしい お店とかに行きたいんじゃ・・・」
「え?
い、いや、
違うよ!」
慌てて首を振る主。
「フニャ~・・・」
そんな風に、
二人は楽しく行楽の予定を立てていったのである・・・。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
そして、
行楽当日。
主と妹君の二人は、
外の広場に立つ馬車寄せの前で、
街へと向かう乗合馬車の到着を待っていた。
もちろん、
私も一緒だ。
「晴れて良かったね~、
コーメイちゃん」
と、
上機嫌な妹君。
例によって、
腕に抱えた私を撫でまわしてくる。
「ニャ~・・・」
待っている客は、
主たちの他に三人ほど。
いずれも、
ごく普通の身なりをした者たちだ。
前の世では、
民の利用できる馬車は、
はなはだ粗末なものであったが・・・。
(こちらの世では、
果たして・・・)
などと考えていると・・・、
「あ、
来たみたい」
と、
主が指さす方向を見ると、
屋根と幌の付いた馬車が二台、
こちらへと向かってくる。
(ほう・・、
簡素だが良い造りのようだ)
やはり、
こちらの世の【生活水準】は、
前の世よりもかなり高いと見える。
(これも戦の・・争いのない、
平穏ゆえ・・か)
複雑な想いが、
私の中にめぐる・・・。
すると主が、
「ん?
どうかした孔明?」
と、
不思議そうに私の顔を覗き込んでくる。
『いえ・・・』
私は、
周囲の穏やかな風景を見ながら答える。
『私は果報者だ、と、
そう思いまして・・・』
「あはは、
何それ?」
と、
主は笑って私の頭をなでる。
「フニャ~・・・」
ゴロゴロ・・・。
そして、
二台の馬車が私たちの前に止まった。
一台一台の席は、
四人の大人がつめて乗れるくらいか。
二台の御者は、
私たちを見て、
「え~と・・、
お客さんは全部で五人・・・」
「二人と三人だね?」
と、
提案してくる。
「はい、
僕たちはそれで結構です」
と、
主が私たち一家を代表して答える。
「ああ、
俺たちも」
他の三人も、
問題ないと言う。
一台に、
三人の客が乗り、
もう一台に私たち一家が、
という事になったその時、
「すまない。
まだ間に合うか?」
と、
新たにもう一人やって来た。
「ああ、
大丈夫だよ」
御者がそう言うと、
主が、
「それじゃ、
僕たちと一緒でいいですか?」
と、
訊いた。
やって来た客は、
私たち一家を見て、
「そうだな、
よろしく頼む」
と、
応えた。
「こちらこそ!」
「・・よろしくお願いします」
「ニャ~」
主に続いて、
妹君と私もあいさつする。
そして、
どうやら主だけ相席するのが嬉しそうだ。
その相手が、
美しい女子だったためか・・・。
『納得 納得・・・』
〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
【あとがき】
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