死せる孔明、少女に抱かれながら思考する
【これまでのあらすじ】
猫の姿になって異世界に転生した、
三国志の諸葛亮 孔明。
ある日碁会所で、
主人である劉備の対局を見守る。
終局ののち、
対局相手が名乗ったその名は・・・
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
「へえ・・、
碁会所で そんな事があったんだ・・・」
「うん、
その張飛って碁打ちとの対局が盛り上がってさ」
「フニャ~・・・」
猫である私を腕に抱きながら、
妹君は主の話に耳をかたむけていた。
・・ちなみに、
夕食からずっと離してくれない。
「あの・・芙蓉、
そろそろ孔明を離したほうが・・・」
主がそれとなく注意しても、
「お兄ちゃんは、
昼間ずっと一緒だったでしょ」
と、こうなのだ・・・。
やはり私が今日一日、
主のほうに付いていったのが不満らしい。
『しかし芙蓉殿、
私の身体は一つしかないわけで・・・』
と、
私も言ってみるのだが、
残念ながら妹君には、
「ウニャ~・・・」
という、
猫の声でしか聴こえない・・・。
「――それで、
対局のあとは どうなったの?」
「ああ、うん・・・。
張飛が話してくれたんだ。
自分が入っている、
黄巾党の目的を・・・」
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
「俺たち黄巾党の目的は、
囲碁界の革命だ」
日も傾きかけた帰りの道中、
川沿いの道を主と並んで歩きながらガキ・・もとい、
張飛は言った。
「革命?」
「ニャ?」
主も私も、
その大仰な言葉に きょとんとしてしまった。
「肩書だけの【棋士】連中を追い出して、
国に俺たちの力を認めさせる・・・。
それが俺たちの最終目標だ」
「それは・・何と言うか、
壮大な目標だね」
と、
さすがに主も驚いている様子だ。
「その規模拡大のために、
あの碁会所を乗っ取ろうとしたんだが・・・。
あんたのせいでパアだぜ」
『にゃるほど・・・』
比類なき知性を持つ私には、
彼の・・黄巾党の狙いが解った。
主も、
「ああ」
と、
合点がいったようである。
「僕たちに圧勝して、
碁会所ごと従えようとしたって事?
それは残念だったね、
・・辛勝で」
「チッ・・・」
「ニャ~・・・」
『張飛』という名・・・。
前の世で、
劉備様の義兄弟だった男の名だ。
こと武においては、
並ぶものなしとされた豪傑だった・・・。
(それにしても・・・)
【棋士】・・・。
先ほども出てきたその言葉・・・。
すると主が、
「囲碁を打つ事を仕事にしている人たちの事だよ。
強い【棋士】は国から援助金も もらえるんだ」
と、
説明してくれた。
「フニャ」
そのやり取りを見ていた張飛が、
「何か本当に、
その猫と話しているみたいだな・・・」
と、
つぶやく。
そして、
「だがよ劉備、
今のあんたの説明は間違っているぜ」
と、
主を見て言った。
「え?」
「援助を受けられるのは、
強い【棋士】じゃない。
でかい道場を持つ【棋士】・・世渡り上手の連中だけさ」
吐き捨てるように張飛は言った。
「ニャ~・・・」
そう言えば前の世でも、
政治の腐敗により乱世が起こった。
その先駆けとなったのが、
【黄巾党】という集団だったのだ。
(偶然ではあるまい・・・)
前の世でそうだったように、
こちらの世でも【黄巾党】は革命を起こそうというのか。
(こちらの・・囲碁の世界で・・・)
「う~ん、
でもさあ・・・」
しばらくして、
主が口を開いた。
「そんなに目くじら立てる事ないんじゃない?
【棋士】は【棋士】で、
金儲けでも えこひいきでも勝手にやっていれば。
僕たち一般の碁打ちには、
関係のない事だと思うけど・・・」
「ニャ~」
無責任のようにも聞こえるが、
主の意見はもっともだ。
(こちらに実害があるわけでもなし・・・)
だが、
主の意見を聞いた張飛は、
少し怒った顔になり、
「何にも分かってねえな・・・」
と、言った。
「え?」
「あんた、
普段どうやって碁の勉強をしているんだ?」
そう訊いてくる張飛に、
主は、
「え・・と・・・」
と、
少し考えてから言った。
「仕事がある日は、
家で芙蓉・・妹と打つか、
棋譜を並べるか、かな。
休日は今日みたいに、
碁会所で皆と打ったりして・・・」
「・・それだけで、
あの【棋力】かよ・・・」
「え?」
「いや、
何でもねえ」
と、
張飛は首を振った。
ちなみに【棋譜】というのは、
碁打ちたちの対局の手順を記録したものである。
そして、
碁盤にその【棋譜】の手順に沿って、
黒・白の両石を並べていくのを【棋譜並べ】という。
それが、
普段 主がやっている囲碁の勉強法である。
「で、」
と、
話を続ける張飛。
「その【棋譜】はどこの誰のだ?
どこで手に入れたものだよ?
勉強になるほど立派な【棋譜】なら、
街まで行かなきゃ買えないだろう?」
「いや、
昔 私塾の先生からもらったものだよ。
最近の【棋譜】は知らないなぁ。
安く買えるならほしいけど・・・」
「チッ、
それでかよ。
この世間知らずが・・・」
張飛は吐き捨てるように言った。
「劉備、
あんた普段、
全然 街へ行かねえだろ?」
「え、うん」
(確かに・・・)
主の普段の行動範囲は、
家・仕事・近所と、
とても広いとは言い難い。
碁会所に来たのも、
私が主と暮らし始めて、
今日が初めてだ。
「なら、
一度行ってみるといいさ」
と、
張飛が言った。
「あんたなら きっと分かるさ。
今の囲碁界が、
どんな状況かをな・・・」
〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
【あとがき】
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