表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/25

第21話 悪喰姫と黒幕


 アルトエンドの皇城に戻った私とルーは、皇帝陛下と共に皇城の広い謁見の間にいた。

 重厚な石壁に囲まれ、天井から吊るされたシャンデリアが柔らかな光を放つ。 窓の外では、初夏の風が木々を揺らし、穏やかな風景が広がっている。

 

 けれど、私の心は不安と緊張でざわついていた。

 

 中央の玉座に陛下が座り、その隣にルーが座る。 私はルーの隣にちょこんと座っている。

 広間の左右には帝国の重鎮らしき人々が綺麗に整列して立っている。 

 たしか、凄く体格の良い鎧を着込んでいる人が騎士団長のシュテンさんだ。 兜じゃなくて顔の上半分を覆い隠す仮面を着けているから、その表情は読み取れない。 その隣にいる豪奢なローブを着ている目つきは鋭いけど、美しい顔立ちの人が魔法師団総長のウォルスさん。 それとマーリンお爺さんまでいる……

 どうして私はここに座っているのだろう……ルーの婚約者という立場ではあるけど、こんな明らかに"皇族です"みたいに並ぶと少し落ち着かないわ……

 まぁ実は私も生まれは王族だし、こっち側で間違いはないんだけれど……王国では殆ど人前に出る事なんてなかったから緊張するわ。


 やがて、大広間の扉が重々しく開き、ロス侯爵が姿を現した。 灰色の髪を整え、深紅のローブを纏った彼は、いつものようににこやかな笑みを浮かべている。


 ロス侯爵が玉座の前で膝をつき……


「陛下、ブライト・ロス、召集に応じ只今参上致しました。 ルシオ殿下、それにシェリム様もこの度はご無事でなによりでした」


 と挨拶する。 

 すると、陛下が低く響く声で言った。


「ロス侯爵、余計な挨拶は不要だ。お前に聞きたいことがある」


 ロス侯爵が一瞬顔を上げ、目を細めた。その表情に、私は一抹の不安を感じる。


「お前の領地にヒュドラが棲みついていたそうだが、なぜ討伐しなかった?」


「それについては申し訳ございません。 レルネーの沼はここ数年、危険な魔獣も目撃されておらず平和そのものだったために、ヒュドラのような魔獣が棲みついているとは夢にも思わなかったのです」


「ふむ、ではお前はあの森にヒュドラがいるとは知らなかったと?」


「はっ、勿論でございます! 知っていればすぐにでも討伐隊を組み討ち取っていたでしょう! 私の確認不足により殿下や私の孫達を危険に晒してしまい申し訳ありませんでした」


 アンネローズやベリオは確かにロス侯爵の孫にあたるけど、陛下の実子であり皇女と皇子だ。 それを、わざわざ私の孫と言うのが気にかかる。


「ロス侯爵、実はなヒュドラとの戦いで恩寵が発現したのだ。 そのおかげで今もこうして生きている」


 陛下の隣で黙っていたルーが話しかける。


「恩寵……ですか?」


「ああ。 大昔に帝国を築いたとされる始祖の恩寵と同じ【王命キングスオーダー】だ。 俺の命令を強制する事ができる。 そこでだ……誰が今回の黒幕なのか本人に聞いていけば簡単に見つかるんじゃないかと考えたんだ」


 ルーが凄く悪い顔をしながらロス侯爵を見ている……ロス侯爵が分かりやすく動揺しちゃってるけど……


「そ、それは……良い……お、お考えでございますね……」


「フッ、そこでだ。 長年、帝国に忠義を尽くしてくれているロス侯爵の意見を聞きたくてね。 最初は誰(・・・・)に聞いたらいいと思う?」


 ロス侯爵が目を泳がせ、脂汗を浮かべながら答える。


「そ、そうですね……そう言う事なら、先ずは……シュ……ウォルス卿からではどうでしょうか?」


 シュテンがギロリと睨むと、ロス侯爵は慌てて隣のウォルスさんに矛先を変えたみたいだ。 ウォルスさんが美しい声で応じた。


「ほぅ? ロス侯爵は私を疑っておいでですか? この"翠雨のウォルス"を?」


 恐ろしいほど端正な顔立ちのウォルスさんが、甘美な声で囁く。 ウォルスさんは男性らしいけど見た目は完全に美女であり女性の様な声だ。 

 その切れ長の目が更に鋭さを増してロス侯爵を睨む……

 大賢者マーリンにも引けを取らないと言われる大魔術師、その威圧を受けたロス侯爵は脂汗を流して慌てて弁明をしはじめる。


「あ…………いやいやいやいや……ご、誤解ですぞ! わ、私はただ……順番に……そう、順番に……」


「フッ、もういい。 面倒だ……ロス侯爵、貴様から質問だ」


「は!? 殿下? ちょっ、ちょっとお待ちを!!」


 慌てるロス侯爵を見てルーは笑みを浮かべる。 きっと、最初から試すつもりだっただけだろう。


『命令だ! ロス侯爵、ヒュドラやジルベールを使い俺たちを襲わせたのは貴様? 正直に話せ!!』


 その言葉が広間に響き渡った瞬間、空気が張り詰めた。 ロス侯爵の顔が歪み、額の汗が流れる。 


「ぐっ、殿下……それは……」 

 

 ロス侯爵の体がビクリと震えた。 目は見開かれ、口元は引きつる。 彼の意思とは無関係に、喉の奥から言葉がこぼれ始める──やがて、彼の口から真実が零れ落ちた。


「くっ、ヒュドラの事件は……私が仕組んだ。 ジ、ジルベールに命じて邪魔な悪喰姫を殺させ、殿下にもう一度呪いをかけるつもりだった……そして、10年前……殿下に呪いをかけたのも私だ」


 その告白に、私は息を呑む。 ルーの苦しみを思うと、怒りが全身を駆け巡り、立ち上がって喰いついてやりたくなった! けれどルーは静かに私を手で制するとロス侯爵を見下ろし、「なぜだ」と一言だけ尋ねる。 ロス侯爵は苦しげに笑いながら答えた。


「フンッ、知れたことを……帝国の力を我が手に……皇帝の座を奪うためだ。 ルシオ殿下が呪いで亡き者になれば、ベリオを皇帝とし私が摂政として支配できた。 だが! そこの悪喰姫が現れ、全てが狂い始めた……」


 ルーを苦しめ、私を殺そうとした理由が、ただの権力欲だなんて…….

 

「残念だ、ブライト・ロス。 お前はミシェルの父でもあるし、疑いたくなかったのだが……帝国の忠臣だと思っていたのだがな……」


 陛下が目を瞑り静かに呟く。


 すると、ロス侯爵が突然笑い声を上げた。


「その通りだ! 私は帝国の為に誠心誠意、粉骨砕身働いて来た! 帝国の威を世界に知らしめる為に! 帝国の問題を解決し、帝国の版図を広げ、やがては大陸を! 世界を統一する為に! だが! だが、陛下は平和を掲げ、戦争を是としない! だから次代の皇帝をベリオに就かせようとしたのだ!! 私が帝国を世界一にしてみせる!! その為にっ!! まだ終われんッ!」


 彼が懐から黒い水晶を取り出し、床に叩きつけると、暗い霧が広がった。 広間にいた兵士達が突然呻き声をあげると、その身体が禁断の呪術によって変形し始めた。 変異した兵士たちの肉が裂け、爪が伸びる。 骨がボキボキと鳴る音が響き、口からは獣じみた唸り声が漏れた。赤黒く光る瞳が、まるで獲物を狙う猛獣のように私たちを捉える——その姿はまるで地獄から這い出てきたようだった。 無事な衛兵たちが慌てて剣を構える中、ロス侯爵は混乱に乗じて出口へと走り出した。


「シェリー、気をつけろ!」


 ルシオが私を庇うように前に立つと、王命で「止まれ」と命じ、数体の魔物を硬直させる。

 そこに衛兵たちも応戦し、剣と魔法が飛び交う中、広間は戦場と化した。


 視界の端でロス侯爵が扉に近づくのが見えた。 このまま逃げられたら、また何かを企むかもしれない。


「ルー、ロス侯爵がっ!」


「分かってる!」


 ルシオが王命を再び発動させようとしたその瞬間、ロス侯爵が振り返り、嘲るような笑みを浮かべた。


「フハハハハ! 陛下! ルシオ殿下! また会う日まで!」


 彼が扉の向こうに消えた瞬間、入れ替わるように新たな魔物が広間へと雪崩れ込んでくる。 

 このロス侯爵の逃亡が新たな危機を招く予感がする…………



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ