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第13話 悪喰姫と右の山の魔女


「はぁ……まさか、私のファーストキスがあんな感じで終わっちゃうなんて……ムードもへったくれもなかったわ。 あの時のルーの顔……真っ赤になってて可愛かったなぁ……ふへへっ」


 記憶が朧げだけれど、私の恩寵が暴走して危険な所をルーのキスで正気を取り戻した、らしい。

 気づいた時に、やけに近い位置にルーの顔があったのと……唇に残る柔らかい感触……思わず恥ずかしくて部屋へ逃げ帰って来ちゃったけど……


 それにしても、アルテラめ……まさかお母様の形見を私に食べさせていたなんて! 

 そんな事をするなんて、やっぱり許せないわ! ……でも、アルテラの言う通りお母様と一緒になれたんだとポジティブに考えて行くしかないか……もう食べてしまったのだから……って思い出したらまた腹が立ってきた! 許せない許せない……


「姫様姫様! 恥じらうのかニヤけるのか怒るのかどれかにして下さい。 お顔が忙しそうで、大変な事になってますよ? 面白いですけど」


「ぬーん……ほっへをひっはふな」


 また一瞬闇落ちしそうになったけれど、エルマが私の顔をムニムニと引っ張るので我に帰る事が出来た……


 注意されてもエルマはにへらと笑うだけで反省する気配が全く無い……普通、王族にこんな無礼な事したらクビになるけどね。 私はエルマが居なくなったら専属の侍女が居なくなっちゃうから仕方なくクビにしないけど……。 

 ルーに言えばいくらでも新しい侍女を用意してくれるだろうけどねー。 ま〜た一から関係築くのも面倒だしね。 本当、仕方なくよ。 仕方なく。


「いふまへやっへふのほょ」


「姫様のお肌って本当に陶器みたいにツルツルピカピカでいいなぁ。 何食べたらこんな風になるんですかぁ?」


「陶器よ」


 エルマは私が食べた物の特性や特徴を一部引き継げる事を知っている。 私の肌がシミ一つなくスベスベで綺麗なのは一時期、特に美容に気を使っていた時に良く陶器を喰べていたからだ。 そのまんまバリバリむしゃむしゃと。


「えっと…………もっと牛乳とか飲んだらどうですか?」


「ぶっ飛ばすわよ!」


 エルマが私の胸に視線を落としながら失礼な事を言うもんだから1発殴っておいた。 口より先に手が出る系王女なのよね私って。


「いたたたぁ。 あっ、それよりも姫様が気持ち悪い顔してた時に皇帝が呼んでるって使いの人が来てましたよ〜」


「それ早く言いなさいよ! はぁ、急いでいくわよ…………気持ち悪い顔って何よ!!」


 コイツ、本当にクビにしてやろうかしら……




☆★☆★


「よく来たシェリム王女。 ルシオから話は聞いたが、身体は大丈夫か? 我が国は医療も進んでいる、もしも不調があればいつでも言ってくれ。 今なら大賢者マーリン様もいらっしゃるから彼に診てもらうのもいいだろう」


「ふぉふぉふぉ、では先ずは服を脱ごうか……」


「結構です」


 いつもの謁見の間ではなく、皇帝の執務室に通されると陛下の他にルーとマーリンお爺さんが待っていた。


「あの者、アルテラと言ったか? 一応他国の王族だしシェリム王女の異母妹と言うことで大事にするつもりはなかったが……我が国の大事な皇太子妃に対する非礼の数々。 俺としては徹底的に追い込んでやるつもりだが……もしシェリム王女が減刑を望むなら配慮するが?」


「ありがとうございます皇帝陛下。 ですが、私の心を王国に繋いでいた物が既に失われていた事が分かったので、今更、父や愚妹には興味も未練も何もありません。 ただ、あの国は農業や畜産だけが取り柄の長閑で穏やかな土地です。 どうか無駄な犠牲が出ないようお願い申し上げます」


「ふむ。 シェリム王女がそう言うなら、もう遠慮はすまい。 そうだな、例え指導者が愚劣蒙昧であったとしてもその地に住む国民に罪は無い、戦争という手段は取らずとも圧力をかければマール王国などすぐに降伏する事だろう」


 お母様の形見さえ取り返せれば直ぐにでも国を出るつもりではあった。 予想外の展開になったし、お母様の形見も失われてしまったけれど…………これで、少しは気も晴れるのだろうか……?


「……それと今回は大丈夫だったが恩寵の暴走など、また起こってしまうと大変だ。 そこで、シェリム王女にある者に会って貰いたいのだ」


「ある者……ですか?」


「ああ、『右の山の魔女』と呼ばれている者だ」


「『右の山の魔女』? 右の山?」


 右の山……なんだか変なネーミングだ。 右の山って何よ? 誰から見て、どっから見て右よ? そもそも山自体に名前はないの?


「ふむ、帝国民ならば皆知っているのだがな。 帝国には右の山があるのだ。 その名の通り、|どこから見ても右にある・・・・・・・・・・・・だ」


「どこから見ても右にある……?」


「ふぉふぉふぉ、それだけじゃ分からんじゃろう。 簡単に言うとな強力な空間誤認結界じゃ。 蜃気楼のようなモノで歩いても歩いても距離が縮まる事は無くいつまでも辿り着けず、常に右にある山じゃ。 この帝国全域に古くから張られている結界じゃ」


「なんでそんな結界が……」


「その山のふもとに住む奴が人見知りでのぅ……所謂いわゆる引き篭もりなんじゃよ。 知識や魔術の腕は天才的なんじゃが……偏屈で偏執で傲慢で頑固で悪辣で悪質でアホでバカでアンポンタンじゃ」


「最後の方はただの悪口じゃない?」


 マーリンお爺さんが山とそこに住む魔女について説明してくれるけど、段々と興奮してただの悪口になっていってる気がする。


「でも、そんな所に住んでたら誰も会った事がなくて知らない筈じゃないの?」


「ふぉふぉ、奴はなその結界を通ってくる人間としか会わない底意地の悪い奴なんじゃよ。 本当に性格が悪いのじゃ」


「あはは……マーリン様は会った事があるの?」


「ふぉふぉふぉ。 様なんて付けず今まで通りマーリンお爺ちゃんでいいんじゃよ? 儂は会った事がある……というか……」


 お爺ちゃんなんて呼んだ覚えはないけれど……マーリンお爺さんは少し歯切れ悪く苦い顔をする……


「というか?」


「……奴は儂の師匠なんじゃよ」


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