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第11話 悪喰姫と因果応報


「ほう。 この方が君がよく話していたお姉さんの第一王女様かい? ふ〜ん……」


 ただでさえアルテラに見つかって辟易へきえきしてるってのにアルテラの後ろから現れた貴族が私の事をジロジロと見てくる。


(アルテラと一緒にいるって事はこの人がコッパー伯爵? ……なんかいやらしい顔してるわ)


「へぇ、いいじゃないか。 嫁ぎ先がないならお姉さんも俺が貰ってあげよう」


「はぁ!?」


 この男とんでもない事を言い出したせいで思わず変な声が漏れてしまう。


「コッパー様、何を言ってらっしゃるの? 帝国に嫁いでまでお姉様と一緒なんて嫌だわ! 何でもかんでも食べる獣のような人なのよ!」


 けれど私よりも先にアルテラが抗議の声を上げる。 うん、私もアルテラと一緒に嫁ぐとか絶対に嫌よ。 そこだけは完全に同意ね。


「うーん、君たち姉妹の関係は知らないが見た目だけは良いじゃないか。 君がそんなに毛嫌いするなら俺が楽しんだ後は好きにすれば良いさ」


 隠す気があるのか無いのかアルテラとのヒソヒソ話しも丸聞こえだし……


「ほら、お姉さんもウチは伯爵家だが帝国内でも有数の名家だ、不自由はさせないよ」


 はぁ、本当ウンザリするわ……何でこの手の男って相手に断られるって発想が無いのかしら……

 

「ふぉふぉふぉ。 お主コッパー伯爵の倅か、たしかにどことなく似ておるのぉ。 しかしのぉ、このお嬢さんとコッパー伯爵家では釣り合いが取れんのじゃないかのぉ?」


 私のイライラが限界に達してしまう前にマーリンお爺さんが話に入ってくる。 


「あぁ? ……なんだこの爺さんは? 親父の知り合いなのか? 上級貴族家の顔は全部覚えているがアンタみたいな爺さん見た事ないぞ。 どこの者だ?」


「ふぉふぉふぉ、どこの者も何も儂は貴族でも何でもないぞ」


「はぁ? なんでこんなジジイが入り込んでんだ!? オイそこの騎士、はやく摘み出せ」


 コッパー伯爵が少し離れた位置でやり取りを見ていたダムエルにマーリンさんを摘み出すように言うと、ダムエルはゆっくりと近づいてきて……


「……大賢者マーリン様、お久しぶりでございます」


 ダムエルは膝をついてマーリンさんに挨拶をする。


「だ、だだだだ大賢者マーリン!?」


「ふぉふぉふぉ、久しぶりじゃなダムエル。 しばらく見ないうちに随分と立派になったのぅ」


「ありがとうございます。 マーリン様、命じて頂ければこの不敬な輩を連行致しますが?」


 ダムエルは立ち上がると冷たい視線をコッパー伯爵へと向ける。


「ひぃ! す、すいません!! 申し訳ありませんでした! だ、大賢者マーリン様とは知らず失礼を……どうかお許しを!」


 睨まれたコッパー伯爵は物凄い速さで平伏し許しを乞う。 伯爵がここまで萎縮するって大賢者って帝国だとどれくらいの地位なのだろう? 変質者とか言ってしまってたけど大丈夫だろうか……


「かまわんかまわん。 儂はそれぐらいで怒る程狭量じゃあないぞ。 しかしのぉ、シェリムのお嬢ちゃんに対する非礼は許せんのぉ」


 そう言ってニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべこっちを見るマーリンさん……絶対面白がってるだけだこのお爺さん……


「だ、大賢者って何よ!? コッパー様より偉い人なの? 何でそんな人がお姉様の肩を持つのよ!」


「よ、よせ! 大賢者マーリン様といえば皇帝陛下でも頭が上がらない人なんだぞ!!」


「ふぉふぉ、儂はこのお嬢ちゃんに一つ借りがあってのう。 お主等が心からお嬢ちゃんに謝ると言うなら許してやらんこともない」


「な、何で私が謝らなきゃならないのよ! 何も失礼な事なんてしてないわ! だって、こんな食べるしか能の無いような女がこんな所にいる方が間違ってるんだからっ!!」


 アルテラが取り乱して叫んだ瞬間……周囲の喧騒が止み静寂が辺りを包む。


「な、何よ……」


 アルテラに周囲の視線が集まっている事に気付いて身をたじろがせる。


「ほぅ、食べるしか能の無い女だと……?」


「ルー……」


「……っつ!? ル、ルシオ殿下!?」


 不意に背後から掛けられたルーの冷たい声に振り返ったアルテラはようやく側に立つルーに気付く。


「お前、シェリーの妹と言うから我が帝国貴族達に対する無作法も許容してやったのに……今のシェリーに対する暴言は到底許せん」


 (あちゃ〜……アルテラと父にはもっと大きなサプライズで驚かせて、その悔しがる顔を見たかったけれど……まぁここでバレてもいいか、十分驚いてるみたいだし。 ルーにはこのままアルテラとコッパー伯爵を懲らしめて貰おうかしら)


「そ、そんな……なんで殿下まであの女の事を……はっ!? わかったわ!! 身体ね! 少しばかり見た目が良いからって身体を使って殿下や大賢者様を籠絡したのね! それしか無いじゃない! 食べる事以外は何にも出来ない無能なんだから!  とうとう男まで喰い散らかすビッチになったのね!」


 オイオイ……今度は私をビッチ扱いしはじめたよ……アルテラの暴言には慣れている私でもこれは流石に頭にくるなぁ……


「殿下! 殿下は騙されてるんです! きっとこの女は誰にでも股を開く……ッ!?」


 パシィィィ!!


 甲高い音が鳴る。必死にルーに取り入ろうとするアルテラに、ルーの平手打ちが飛んだのだ。


「シェリーは俺の呪いを解いてくれたのだ! そして俺の正式な婚約者でもある! それを侮辱するなど決して許さん!」


 ルーの綺麗な顔が怒りに震えている。 でもルーはまだ優しい所があるからな……


「ルー!!」


「…….分かっている。 アルテラと言ったな? シェリーはとても優しい女神のような女性だ。 たとえ侮辱されても妹であるお前の減刑を望んでいる……」


 あれ? 私の呼びかけがアルテラを罰しないでとお願いしてるように捉えられた? イヤイヤ、ルーの中でどれだけ私はお人好しに思われているのだろう……


「ルー!! (モットヤレ!)」


「シェリー……分かってる。 こんな救いようの無い女でも実の妹……そう、シェリーはこう望んでいる……モット……ヤレ!?……えっ!? もっと!?」


 ヨシヨシ、再度の呼びかけに口パクとジェスチャーで私の真意が伝わったようだ。


「くくく、あははは! まったくシェリーにここまで嫌われているとは……一体今まで何してきたんだ? お前等には追って沙汰を出す。 衛兵! この2人を皇族に対する不敬罪で牢へ繋いでおけ!」


「そ、そんなぁ! 私もですか!?」


 コッパー伯爵が絶望した表情で衛兵に連行されていく。


 アルテラはルーに平手打ちされたのが余程ショックだったのか呆然としたまま連行されて行った。

 

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