エピローグ
あれから一ヶ月。
陽介達はすっかりもとどおりの生活に戻っていた。授業は退屈だし、先生は相変らず意地悪だ。
でも。陽介は思う。
でもみんな変わったよね。
休み時間、陽介は改めてみんなの顔を見まわした。
斉木はお喋りになった。セイジとのテンポのいいやり取りがまるで漫才を見ているようで、陽介と裕太をいつも笑わせてくれる。今度みんなで斉木の家へ遊びに行くことにもなっている。とても楽しみだ。
セイジは、以前にも増してお喋りになった――手に負えない――でも、あんまりキツイことは言わなくなったかもしれない。
そして、いつのまにかシャツの袖口のボタンが付いていた。陽介が見ていたら、オヤジへたくそだよな、セイジはそのボタンをいじりながら恥ずかしそうに言っていた。どうやら上手くやっているらしい。
裕太はというと、初めはちょっとぎこちなかった。
でも、片隅にヒマワリが咲くという公園に連れて行ってくれた。
もちろん今は何も咲いてなかったけど、ヒマワリが咲くという辺りにみんなで水をあげた。そして、その脇に一緒にチューリップの球根を植えてきた。 ヒマワリもいいけど、別の花を僕達と植えたかったんだそうだ。やっぱり裕太は素晴らしい。
そして僕は…。
これまで裕太のことを一方的に"親友"だなんて思ってたけど、とんだ押し付けの友情だったって分かった。
でも今は違う。
それどころか裕太と僕だけじゃなく、みんながみんなにとって大切な存在だ。友達とか親友とか、そういう区別は意味がない。うまく説明できないけど、そう言い切れる。
それと…陽介はふと後ろから視線を感じて振り返った。
そう、やっぱり真紀子だ。
ニッコリと笑ってやると、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
僕は真紀子のこと好きになっちゃった訳じゃないと思うけど、どうやら真紀子は僕のことが気になっているらしい。ちょっと前なら、照れくさくてカッコ悪くて、本人の前でオエッてやってたと思う。
でも今の僕にはそんなこととても出来ない。真紀子も一人の人間なのだから。だから、もし真紀子と二人きりで話す機会があったら、正直に話すんだ。
僕は今、裕太や斉木、セイジが大切だ、それと同じように、人にそう思わせるいいところが真紀子にもきっとあるだろう。今の僕は、それをちょっとしか知らない。でももう少し時間をかければきっと…、もう少しできっと、何? あれ、顔が熱いや。
陽介は窓の外に視線をやった。温かい日差しがやわらかく教室に降り注いでいる――どうりで暑いはずだ。教室の外では、どこまでも青い空に小さな雲がひとつふたつ、遥か上空に浮かんでいた。
そういえば、あれは良いキリコと悪いキリコ、どっちのキリコだったんだろう。
陽介はふと考えた。
もしかしたら、キリコには良いも悪いもないのかもしれない。
初めは悪いキリコに思えても、それに出会った人の行動次第で、結果的に悪いキリコにも良いキリコにもなる。
陽介はみんなの笑い声を聞きながら微笑んだ。
そう、結局、それを決めるのは本人とその周りの人達なんだ。
仲間達の輪に加わった肩に包帯を巻いている少年のひときわ高い笑い声が、暖かい初冬の教室に響き渡った。
お読み頂きありがとうございました。
これで完結です。いかがでしたか?
少しでも楽しんで頂いていれば嬉しく思います。




