焼肉パーティとその日二度目の事務所挨拶
今回はリラックス回、みたいな感じです。いつも言っていることですが誤字脱字疑問点等ありましたら指摘していただけると幸いです。
「なかなか起きねえな。どうしたもんか。」
意識の彼方から声が聞こえる。
「水っ…掛ける」
「叩けば起きるんじゃないか。」
「もっと穏便にさ?私じゃないんだから何をしても良いわけじゃないでしょ!」
知らない声と聞き覚えのある声が混ざっている。だが内容は聞き取れるのに幕がかかっているように不鮮明だ。
「困りましたね。主役が起きてくれないと行くにも行きようが…。」
主役、何の話だ。まだ不明瞭なままの意識で考えるが、思考が散り散りになってよくわからない。
「お前が運命の王子様としてキスでもしてやればいいんじゃないか幼馴染ちゃんー?」
「んなっ…!なにバカな事言ってるの!そんなので起きるわけないでしょ!第一女だよ私!」
「まあ仕方ねえな。あとちっと待って起きねえなら今日の焼肉はキャンセルして…」
急に意識が明瞭になった。幕をぶち破って焼肉という単語が入ってきた。思い返すと入院中はほとんど点滴だったわけだし退院した今日もサンドイッチと肉饅しか食べていない。身体が飢えていた。
「そんなあ…。にしても、初任務で気絶だなんて…気でも張りすぎたかなあ。昔からそういうとこあるし。」
育が俺に顔を近づける。俺は焼肉という言葉に反応して身を起こす。必然、頭同士で衝突する。
「っ〜!」俺は声にならない悲鳴をあげる。思わぬタイミングでぶつかったら痛いよりも先も驚愕が来る。一瞬後から痛みもじんわりと来た。育はと言うと、一瞬顔に驚きを浮かべたかと思えば、顔を逸らしながらニヤけたように笑う。そしてそこから俺が何かを思うよりも先に、今日の昼間のように姐さんが俺の背をバンバンと叩く。
「ようやく起きたな!いやあ、死んでないかヒヤヒヤしたよ」そう言いながら豪快に笑う姐さんにいつのまにか表情が心配になっている育が続ける。
「ホントに、もう一回入院するのかもしれないとか思ったんだからね!?」
「ごめんって。お詫びに今度コンビニでスイーツでも奢るからさ。それで…焼肉って聞こえたんですが…?」
「なんだ、聞こえてたのか!そうだ。今夜は焼肉の店に行く予定なんだ。お前が主役でな!」
「俺が…主役…ですか?」意識が朧げな時にも聞こえた気がするが何で俺なんだ?
「なんで…俺が主役、なんですか?」
姐さんが意外そうな顔で言う
「なんでってそりゃ、猫も見つけたしここに振られた厄介な仕事を片付ける足がかりになってくれたからな。ほら、あの灰色の肉の塊みたいなの。特にステルスとかあるわけじゃねえけど小さいし警戒心が強いから見つかりにくかったんだよな。いやあほんとお手柄だったな!」
そう言われても正直俺には自分が役だったかどうかの確信が持てない。あの時は無我夢中で…自分でもよくわからない状態だった。だが褒められて悪気はしなかった。何度か言ったことだと思うが、姐さんはそういう方面において、人について行かせたいと思わせるカリスマがある。
「えっと…ありがとう、ございます?」
「別に礼を言う必要もねえんだが…そういえば遊心、今何時だ?」
「6時10分過ぎ。大体予約まであと15分だね。」
「じゃあそろそろここ出ねえとな、立てるか?」
そこで俺はまだ上半身しか起こして無かったことを今更再び知覚した。
「あ、はい!」
そうして俺たちは7人で(俺含め)事務所を出た。
焼肉屋に到着した俺たちは、到着早々「値段なんか気にせずに好きなの食え」と言われた。異能者という未だ国にとってもデリケートな者を扱う都合上、かなり貰ってはいるらしい。しかし、値段なんか気にするなと言われても気にしてしまうのが大体の人間だろう。俺もそうだ。飲み物と普通の値段の肉(多分普通の値段だとは思うがわからない)を頼んで届くのを待っていると、姐さんが、「そういや紹介、全員にはしてないよな。」そう言って俺を顎で示した。
「えっと…俺は、神谷蓮です!特に取り柄もないですがよろしくお願いします!、」
これが俺に言える精一杯だった。我ながら情けないと思うがしょうがない。俺が言ったっきり萎縮していると俺と初対面の二人が顔を見合わせた。どうやらどっちが先に自己紹介するかアイコンタクトをとっているらしい。
「俺は蜂須賀蒼だ。よろしく。初日で成果出すやつなんてそうそういないから自信持てよ。」
「ああ、そうだ。むしろ誇っても良いくらいだな。僕は園灯也という。よろしく頼むよ。」
俺が優しさに感動していると、ちょうど良いタイミングで始めに各々が注文した肉が届き始めた。
そこからは割とどんちゃん騒ぎだった。かくいう俺も途中から楽しくなっていたから。もしかすると初任務が大成功だったので気が大きなっていたのかもしれないが少なくともそれは許されていたようだった。
探偵事務所に戻った後は各々が自由行動だ。それぞれの部屋はあるとは言え、一つ屋根の下であることは間違いない。俺は自分の部屋ではなく応接間のソファに座って携帯をいじったり本を読んだりしていた。まだ個室というものが落ち着かないのもあったが、それ以前にこっちの方が落ち着くのだ。そんな感じで一人の時間を満喫していると、育が顔を出した。
「よお、どうかしたのか?」
「いや、なんでもないんだけどさ。今日、今度スイーツ奢るって言ったじゃん。」
「ああ、言ったな。まさかもう決まったのか」
「そうじゃなくて!…別に良いってこと、でも、代わりと言っちゃなんだけど…今度、デパートで買い物行く時、ついてきてくれない?」
俺は面食らった。まさかそんなことをいきなり言われるとは思っていなかった。いくら幼馴染とは言え、そういう感覚で見れない相手とは言え育はかなり顔もいいし、意識してしまってもしょうがない気もする。育も同じなのかこっちからは若干顔を逸らしていた。暫くそんな沈黙が続いた後、育が話を終わらせて去ろうとする。
「それだけ、じゃあ、おやすみ。」
部屋から出る直前、振り向きざまにここ暫くみた中で一番いい笑顔な気がする顔で言葉が続いた。
「今日、誇らしかったよ。私は現場は見てないけど、きっとかっこよかったんだろうなって」
それだけ言って育は自分の部屋に去っていく。
俺は脳裏にその笑顔が焼きつき眠れぬ夜を過ごすことになった。
いかがでしたか。今回は感覚長めの投稿になっています。学校が始まり再び忙しくはなりますがなるべく2日に一回は投稿できるようにしたいです。次の話も読んでいただけると嬉しさで爆発します。




