意外と簡単そうな初任務
四話目です。前話の投稿から二日間も遅れてしまいました!申し訳ない。いつもの事ですが、なにぶんテンションで書いているところがあるので、誤字脱字、その他違和感等あれば指摘していただけると幸いです。
「それで、お前の初任務の話なんだがな。」
姐さんがサンドイッチを頬張りながら言った。カフェオレに合う甘いやつだ。勿論人数分用意されたので俺も食べているが…。いきなりそんなことを宣告されては緊張せざるを得ない。俺のサンドイッチを持つ手が強張る。結構誰から見てもわかり易く緊張していたのだろう、姐さんが笑みを浮かべて続ける。
「まあそんなに緊張してますってツラすんな。簡単なヤツだよ。探し物だ。子猫のな。」
「猫、ですか…?」
「ああ、ウチは国からの異能者とか魔術絡みの案件が多いとはいえ、探偵事務所として営業している。小金持ちからのちょっとした依頼がくる事もあるんだよ。流石にアタシも入って来たばかりの素人に対人だの護衛だのをやらせるつもりはねえからな。」
姐さん-鬼崎八千代の纏う雰囲気からか誤解していたが、よく考えなくともここは傭兵事務所でも戦闘狂の集まりでもない(後者はただの推測だが)のだから至って普通の探偵業らしいことがあるのは当然のことか…。しかしそう入っても俺に探偵業の心得などないのだ。どっちにしろ不安である事に変わりはない。
「でも、俺、動物探しの経験もあんまないんですけど…」不安は声に出すのが一番である。
「安心しろ、ウチは保険だろう。本命はもっとそういう実績がある事務所に頼んでるさ。失敗してもリスクが少ない、そういう仕事を新入りには任せるもんさ。気楽にやって慣れて行けばいい。」
俺は姐さんのことを誤解していたのかもしれない。なんか普通に良い人だ。初対面の時からそうではあったが、人の視線を惹きつける力強さの持ち主だ。ほんとに尊敬の意を込めて姐さん、と読んだほうがいいかもしれない、と言うかそうさせるカリスマを感じた。
「分かりました。出来るだけ上手くやれるように、尽力します。」これは本心からの言葉だった。
「よし、決まったらなら善は急げだ。資料と、身分証、経費をやろう。行ってこい。ウチは門限はないが、真っ暗になる前には帰ってこいよ。」
そう言って姐さんは俺に猫探しのポスターとポインセチア探偵事務所職員の証明書、どれくらい入っているのかわからないが黒革の財布を渡してくれた。あとこの街の地図も。
「なにか連絡がある時は身分証の裏にある電話番号に電話しろ。今日は暇だから多分出るだろう。」
俺は持っている鞄に貰ったものを入れ、席を立つ。俺がドアから出る直前、姐さんは俺の方に首だけ振り向き言った。
「忘れてたがな、経費で落としたいもんあるなら領収書か言質貰っとけよ。」
その言葉と共に送り出され、俺の初任務がスタートした。育は大きく、遊心さんは胸の前で手を降っていた。
探し始めてからおおよそ2時間ほど経っただろうか。正直言って手掛かりも何も掴めていない。姐さんは気楽にやれと言っていたが俺の心情的にはそうもいかない。初仕事なんだから成功させたい。しかし手がかりなどない。八方塞がりというヤツなのだろうか。
そしてどうしたものか…なんて考えながら近くのコンビニで買った肉まん(勿論自費だ)を頬張っていた時のこと。(俺は本来観察期間中なので一般の人間との接触は原則禁止だが、所属機関の許可証があれば例外的にokらしい)コンビニの裏路地に高速で走り抜ける影が見えた。サイズ感的に言うなら猫よりも大きかったと思う、俺にはその時のシルエットがまともな動物には見えなかった。だから気になった。
「追いかけるか…」
俺には周りに誰もいない時独り言を頻繁に発する癖がある。それに加えて焦っているときこそ非合理な手段を取ろうとするクセもある。俺はその謎の影を追いかけなければならないと思った。俺の身体を動かしたのは提案とか思案というよりは強迫観念に近い焦りだった。
街の特性というべきか再開発の悪しき影響と言うべきか、この街は裏路地が広く、入り組んでいる。不良の溜まり場や、数年前のとあるテロによって元の住処を失った浮浪者が住んでいたりもする。そんな場所を俺は走り抜けていた。影が向かった方向へ。と言っても育と違って運動慣れしているわけでもない俺は走り始めて数分…体感なので実際はもっと短いかもしれない…でバテて見失う。
「やっぱりダメか…。戻ろう」
そう決意し走った道を歩いて引き返そうとしたとき、威嚇音とも悲鳴ともつかない甲高い動物の叫び声が耳に付いた。おそらく猫のもの。もしかして俺が探している猫かもしれない。そう思って疲れた足を軽く叩き走り出す。割と聞こえた叫び声は遠かったので急がなければ手遅れになるかもしれない。そう思いはするものの既に疲れている足は中々早く走ってくれない。もっと日頃から運動しておけば良かった、今更になってそんなことを思ったが遅い。
しかし幸運とは思わぬタイミングで降ってくるものだ。裏路地の曲がり角から猫が飛び出して来た。ポスターで見たのと同じ柄の身体だ。
「っ!?」俺は驚きのあまりその子猫を逃してしまう。しかし本当に驚くべきはその一泊後だった。
猫を追いかけるように不定形に見えるソレが飛び出してくる。色は…灰色が近いだろうか。特に体毛があるようにも見えないのにそんな色なのは不気味だがそれ以上に端的に表すなら「肉塊」とするのが近いそれにしっかりと牙のついた口があることも衝撃だった。ついでに言うならなんかぬらっとした粘液も分泌されていた。だが、何だかキミの悪いそれが猫を捕食しようとしているのは確実だった。何か連絡がある時は電話しろ、そう言われていたが、そうする余裕もなかっただろう。ソレの移動速度は割と速い。俺は地面に落ちていたコンクリートの塊らしき物体をソレに向かって投げる。距離が近いからか外す事はなかったが、同時にソレに対して有効な攻撃を加える事も出来なかったらしい。その肉塊は怯み、威嚇した後、俺がそれ以上何もしないと分かると反対方向に逃げて行った。
そこで俺は我に帰る。攻撃を加えるより、猫を保護した方が良かっただろうな、そう思うが後の祭り。しかし、異常なものを見たのは確かなので姐さんに連絡はしておいた方が良いだろう。そう思い俺はスマホの電話機能をONにする。
「おお、何かあったか?」
「裏路地を探していたら変なものを見かけまして…。なんか、灰色の肉塊、みたいな。」
「…毛がなくて、牙のついた口があるヤツか?」
「え?何でわかったんでs…」言い終わる前に姐さんが言葉を紡ぐ。
「ソイツがどこに行ったか、今どこにいるか、共有しろ。もう一つの探し物だ。」冷静な声だった。獲物の痕跡を見つけた狩人のような、そんな感じだ。しかし俺も詳しい現在地などわからない。俺が答えあぐねているのを察したのだろうか、姐さんが続ける。
「場所の写真とソイツが向かった方角の写真、撮って育に送れ、通話は繋いだまま、追いかけて続けろ。わかったな?」
「はいっ!わかりました!」
そう答えるしかない雰囲気を感じたものの実際指示は分かり易かった。流石所長職。なんて考える暇はなかったので手早く撮って送り、再び走る。時々いまの場所の写真を要求されるのでそのたびに写真を撮って送って走る。なにも考えていなかった。ただ必死に、言われるがままに走り続けていた。
もうかなり走り続けたと思う。正直足が痛い。今の自分を客観視したらお世辞にも走ってるとか言うスピードは出ていないはずだ。それでも走るしかないのだ。改めて一呼吸し、足を動かそうとしたとき、小石に躓きかけた。幸い転びはしなかったものの、砂利の地面にモロに手を付いたので鈍い痛みが俺の手に届く。
しかし、それが逆に俺を冷静のさせたのかもしれない。さっきまで下を向いて無我夢中に走っていたせいで気がつかなかったが、目の前には俺が通っている学校の旧校舎があった。もう十数年前から使われておらず、中の貴重品も既に新校舎に移されている。元々は再開発の対象だったが、通っていた世代から反対の声が続出しそのまま残っている。退廃的な雰囲気漂う木製の建物だ。
俺は手と足の痛みを堪え、走りながら携帯に向かって掠れかけの声で吹き込む。
「旧校舎、っです。そこに…」それ以上の言葉は続かない。後から考えれば、旧校舎だけでなぜ伝わったのか疑問だが、俺の通っている学校はそこそこの進学校なのでわかったか、育に聞いたのか、「ああ、わかった。そこに向かう!」とだけ帰ってくる。
指示は変更されていない。だから追い続けなければ。俺はまた走る。身体が痛いはずなのに今までのどんな時より身体が軽く感じる。吸う息が短く、吐く息が長くなる。俺は安全柵のフェンスをよじ登り飛び降りる。普段なら絶対にできない事だ(体力的にも倫理的にも)。俺はその勢いのままに鍵の撤廃された正面玄関から旧校舎に入る。廊下と階段に黒い粘液が点々としているのでソレがどこに行ったかは分かる。階段を登る。1階から二階へ、2階から三階へ。3階の廊下にソレは居た。あまり動きを見せないがここが根城なのか逃げ道をなくして困惑しているのかはわからない。ふと、鉄錆のような香りがした。普段ならあまり心地よい匂いとは思はないはずだが、今は不思議と良い匂いに感じる。匂いの元は俺の左腕だった。
左腕の花が、満開だった。形は桜に似ている。だが色はあまりに紅い。そのままその肉塊と俺は数十秒睨み合っていた。
だが、一瞬、再び正面玄関が乱暴に開けられた音で状況は変わる。その肉塊が動き出す。空いている窓から外に飛び降りるつもりだろう。それと同時に姐さんが俺の後ろから飛び出す。どんな身体能力をしていると言うのかそのまま壁に両足を付けて。腰を屈める。
姐さんが言う。「アレの動きを止めろ!」
俺は動かなかった。だが、その刹那、いや、その言葉を聞くコンマ数秒前から、俺の左腕の蔦が木造校舎の床に伸びていた。
床と蔦が接触した瞬間、その肉塊の周りを覆うように蔦が生える。草の檻、あるいは縄のように縛り上げる。
それが行われたのを見計らったように、姐さんが飛ぶ。その勢いで壁にヒビが入る。姐さんの壁を利用したドロップキックは正確な狙いでその肉塊に命中する。
グシャっ。小気味良いが君の悪い音がする。その肉塊に姐さんの蹴りがめり込んで潰れた音だ。当然蔦は勢いで千切れている。俺は息を漏らす。それは安堵による物だったかもしれないし、疲労からくるものかもしれない。
直後、身体に激痛が走った。一泊、強い衝撃、続いて、身体中の筋繊維が音を立てて千切れるような感覚。油断している所にこれは相当効いた。
俺はそのまま気絶することとなった。
如何でしたか。次の話は閑話休題的なので、なるべく早く投稿したいです。できるかはわかりません。次の話も読んで頂けると、私の長期休暇開けの活力になります。




