ポインセチア探偵事務所、現着。
三話目ですね。まずは、このページを開いていただき感謝です。また、初心者ゆえ、誤字脱字等あれば(今回は特に夜遅くに書いたので)、御指摘いただけると幸いです。
幸い、病室には俺の荷物はそこまで置いていなかったため、退院の準備はその日の内に終わった。どうやら俺はまる2日目を覚まさなかったらしいので、入院3日目にして未だにほぼ初見の天井の下で眠る事になった。
幼い頃にも一度入院したことはあるが、おそらく何度経験しても病院の夜の雰囲気は慣れないだろうと直感する。夜の病院特有の不気味なほど静かなのに妙に騒がしい、そんな気配が苦手だ。だから俺は、院内コンビニで脳トレのようなものを買って興じていた。数ヶ月前に築いたことだが、夜は眠ることを意識の外に出して、自然と寝落ちした方が寝ようと努力してみるより早い。
今日もそんなことを考えていたら俺は自然と眠りに落ちていた。
翌日、起きたのは9時過ぎだった。昨日、育とは10時半頃病院に併設された喫茶店で待ち合わせする約束をしていた。俺的には直接病室に来てくれても良かったのだが、落ち着ける雰囲気の場所で話したい事があるらしい。あいつは思ったことはすぐに言う性格なのに珍しいと思ったが、人の気分はその時々だ。特に追求すべきことでもないだろうと思って承諾した。
昨日のうちに準備を殆ど終わらせたのが良かったのか、10時前には既に準備が整ってしまった。少し待ってから行くか迷ったが、先に行って待っておく事にした。柄ではないが、向こうだって柄ではないことをしているのだ。それくらいでおあいこだ。
煩雑な手続きはもう済ませてあるらしいので俺は受付で幾つかの簡単な手続きだけ終えて喫茶店に向かう。30分も早いのだから俺が先だろうと思って店内に入ったが、一番奥の席には既に育が座っていた。少し前からいたらしく、コップのカフェオレは半分ほどしか入っていなかった。
「おはよう!随分と早く来たんだね。」テーブルから身を乗り出して育が言う。
「ああ、おはよう。お前も随分早いな。少し前からいたんだろ?」
「勿論。退院祝い…と私の同僚になるお祝い…みたいな、ね?」
「う〜ん。わかったようなわからないような…?」
俺は元来口数の多い方ではないけれど…育と一緒にいるとついつい喋りすぎてしまう。そのまましばらく軽口を続け、俺は本題を聞こうと問いかける。
「それで、昨日言ってた話したいことってのは?」
「ああ、それはその…え〜っと…昨日は大事な話だと思ってたけど、よくよく考えたらそうでもなかった…と言うか何というか…」
やっぱり昨日からなにか調子がおかしい。問い詰めた方がいいのだろうか、しかしもし気分を害してしまえば俺のほぼ唯一の親しい友人を逃してしまうかもしれない…。そんな風に迷っているうちに育が再び口を開いてしまった。
「あの…ほら、今から向かう…ところ、みんな個性があるというか…灰汁が強いというか、だから、そんな驚かないでねって話。」
今急遽考えた建前なのは明らかだったが、そう言い切られてしまった以上こちらがさらに追求するのは不躾なような気がして、俺は結局聞けずじまいのままポインセチア探偵事務所に向かう事になった。
ポインセチア探偵事務所は駅前の外れ…病院からなら徒歩でおよそ30分ほどの位置にあるらしい。道中、無言なままも気まずいので育に変わった名前の探偵事務所だなと話を振った。その結果分かったのはポインセチアとは花の名前である事だったが、あの所長-鬼崎八千代が花に詳しいようにはあまり思えなかった。素直に思ったことを育に言うと、思い入れがある花らしい、とのことだった。俺は植物は好きである。特に詳しいわけでもないしだからなんだと言う感じだが、あんなカタギじゃなさそうな人でも思い入れの或る花とかがあるってのが意外に感じた。それだけだ。
そんな風に雑談をしながらしばらく歩くと時間はあっと言う間に過ぎて、ポインセチア探偵事務所に到着する。
所長の服装が派手だったからか派手な建物を思い浮かべていたが、意外とそうでもなくレトロな雰囲気のビルだった。何階にあるのか聞いたが、どうやらビル全体が事務所らしい。しかし応接室や所長室などは二階にあるそうだ。
緊張しながら階段を登る。ドアの前で数回深呼吸をする。いきなり新しい環境に放り込まれるのだから緊張するのは仕方がない。分かっていても冷静ではいられない。しかしいつまでもそうしているわけにはいかない。最後に一回大きく深呼吸をして応接室のドアを開けた瞬間…
俺は勢い余って虚空に躓きすっ転んだ。顔を打ち付けたがそれよりも羞恥で顔が痛い。後ろで驚いて固まっている育の視線がいまの俺には痛い。
そうして俺にとっては果てし無く長い数秒が流れ…誰かが駆け寄ってきて俺を起こそうとする気配がした。手を借りて起き上がる。自分を起こしてくれた人を見ると、優しそうな顔をしている美青年だった。黒髪、眼鏡、細身…。所長と正反対のような人だ、と思った。
「大丈夫?」彼が話しかけてくる。想像通り声色も優しい人だった。
「はい…ありがとうございます…。」羞恥で声から力が抜ける。言葉が続かなくなってしまう。それを察したのか彼は笑顔でこちらの目を見て自己紹介した。
「雛菱遊心と言います。この事務所の副所長だよ。よろしくね。」
その言葉でようやく俺は正気に戻った。「えっと…!俺は、神谷蓮…です。よろしくおねがい…します…。」勢いだけで紡いだ俺の言葉はすぐ減速してしまった。
そんなこんなでどもりながら自己紹介を終えると目の前にぬっと影が現れる。何事かと思って顔を上げると、ソファーに座って居た鬼崎八千代が目の前まで来ていた。彼女は笑みを浮かべながら俺の背をべシベし叩き言う、「いやあ、昨日はそうでもないかと思ったが案外面白いやつだな、お前!」
「改めて、鬼崎八千代だ、姐さんでもなんでも好きに呼べ!これからよろしく頼む!」
そう言う間も俺の背は叩かれ続けていた。正直痛かった。俺が痛がってる事に気付いているのかいないのか、彼女は背を最期に一回さらに強く叩き続ける。
「すまんが昨日あれから案件が一つ出来てな。みんな出払っててあと一人しか居ないんだ。正式な挨拶はまた今度になるだろうな。その時はこけないようにしないとな?」
俺は再び羞恥で顔を赤くしながら言う。「それで…あと一人の方はどこに…」
そこまで言ったところで所長-改め姐さんが俺のすぐ横を指差す。俺がそっちを向くと、そこには黒いレインコートを被った少女が立って居た。さっきまで気配も感じなかったのだ。俺は驚きのあまり悲鳴をあげそうになった。何とか声を抑えると、その少女がこちらに手を差し出している事に気付いたので握手をし返す。少女は小さい声で言う。
「四辻美影です…。よろしく…。」
小さいけれど通る声だった。顔も俯いているので気付きにくいがかなり美形である。と思う。何故言い切れなかったかと言うと彼女が言い終わった時には既に俺のそばからソファーへと移動して居たからだ。育もいつの間にかソファーへと移動している。姐さんもだ。
俺はどうするべきかと悩みかけたところ、遊心さんが人数分のカフェオレを盆に乗せてやって来た。その機会に俺もソファーに座ることにした。
結果は良いのかわからないが、とりあいず1回目の自己紹介はそうして終わったのだった。
如何でしたか。本当は初任務受諾まで行きたかったんですがもしかして区切りが悪くなるかも…?と思いここまでです。次は初任務から始まるかな。次回も読んでいただければ狂喜乱舞します。よろしくお願いします。




