第五節 連休の裏で動く、わたしたちの証
大型連休の後半。部活動が休みとなったその日、さちたちはリンの家に集まっていた。
「せっかく部活が休みなんだから、器具を使ってしっかり鍛えておこうってことでしょ?」
ハルが笑顔で言いながら、トレーニングウェアの袖を軽くまくる。
「うん。普段は部活の後で時間が限られてるし、今日はメニューを丁寧にこなしたい」
ユキがストレッチを始めながら頷いた。
「今日は足腰中心にしようか。上半身はだいぶ仕上がってきてるしね」
リンの提案に、3人も素直に頷く。
ジムスペースには、ダンベル、バランスボール、スライドボードなどが整然と並び、まるで本格的なトレーニングジムのようだった。
さちは苦笑しながらスクワットの体勢に入る。
「最近、脚の筋肉もけっこう変わってきたよね」
「うん。前は細かったけど、今はしっかり力が入る感じがする」
ユキがさちのフォームを見ながら答える。
「女子って感じじゃないみたい……でも、嫌いじゃないかも」
さちがぽつりと言うと、
「ううん、それが“わたしたちのスタイル”でしょ」
ハルが頼もしく笑った。
誰かが疲れた表情を見せると、すぐに他の誰かが声をかける。その空気は、まさに「チーム」の証だった。
「いいペースだね。ちゃんと動けてる」
「前よりハードなメニューなのに、ちゃんとついていけてる」
「でも、疲れが抜けにくいって体が言ってる気もする……」
リンが汗を拭きながら微笑む。
「休むのもトレーニングの一部だからね。体に優しい日も大事」
「でも、体が勝手に動いちゃうんだよね」
さちが冗談めかして言うと、みんながふっと笑った。
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インターバルの時間。4人は床に車座になって、ペットボトルを手に会話を始める。
「そういえばさ、連休前の身体測定と内科検診、けっこう衝撃だったよね」
ユキが言うと、さちも頷いた。
「去年から、3センチ伸びてた……自分でもびっくりした」
「私も3センチ。先生がカルテを二度見してたよ」
「わたしは……5センチくらいだったかな?」
リンも照れくさそうに微笑む。
「ただ……ちょっとだけ恥ずかしかったな」
──あの日の内科検診。
保健室前に体操服姿で並ぶ女子たち。普段は制服で隠れている体のラインが、体操服になると一気に目立つ。
さちとハルの姿に、同じクラスの女子がちらちらと視線を向けていた。
「ねえ、あのふたり…なんかすごくない? 二の腕とか、腹筋とか……」
「なにかスポーツやってるのかな?」
そんな声が聞こえる中、一人の女子が意を決したように近づいてきた。
「さちちゃん、ハルちゃん……その、すごい体だね。どうしたら、こんなふうになるの?」
少し戸惑いながらも、さちは答えた。
「“チームトレノ”って言って、4人でトレーニングしてるの。小学校の頃からずっと」
「へえ……すごいなあ」
「ほんとにかっこいいよ!」
その反応に、ハルが「ありがとう」と明るく笑った。
やがて、検診の順番が回ってくる。内科医の前に座り、体操服の裾を上げると、鍛えられた腹筋と腕が自然とあらわになる。内科医の女性は少し驚いた表情を見せつつも、淡々と診察を進めた。
さちはその視線を意識しながら、少しだけ恥ずかしさを感じていた。
──
「うちのクラスでも似たようなことあったよ。男子の視線、ちょっと気になった」
「先生も“すごいね”って言ってたし」
「うちも。何人かに話しかけられたよ」
ユキやリンも、似たような体験を口にする。
「でも、それって……がんばってきた証なんだよね」
さちが言うと、みんなが自然とうなずいた。
「これからも、一緒に鍛えていこう」
ハルの言葉に、3人は自然と拳を合わせた。
そのとき、ジムのドアが開いた。キャサリンが顔をのぞかせる。
「Oh! みんな、今日もトレーニングがんばってるのね!」
「ママ、今日は早かったね!」
リンが駆け寄る。
「たまたま仕事がオフになったの。でね、せっかくの連休だし……連休の最終日に、庭でバーベキュー、どうかしら?」
「ほんとに? やりたい!」
「もちろん、3人のご家族も来てくれたらうれしいわ」
さちは真由美に、ハルとユキはあかねに、リンはマークに相談した。
「いいじゃない。行こうか」
「せっかくだし、料理も持ち寄ろうか」
「お祝い、ちゃんとしてなかったもんね」
マークは焼き網を手に、にこやかに言った。
「Good timingだな。みんなで祝えるの、嬉しいよ」
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そして連休最終日。軽めのトレーニングを終えた4人は、着替えて庭へ出た。
バーベキューグリルからは煙が上がり、香ばしい匂いが漂っている。キャサリンとマークが手際よく料理を進め、テーブルには色とりどりの料理が並んでいた。
「クリスマス以来のごちそうだね」
「ほんと、ありがとう!」
真由美、あかね、たくみの3人も到着し、それぞれ口をそろえる。
「少し遅くなったけど、中学校入学、おめでとう」
「いい機会ができてよかったね」
笑い声が響くテーブルの上、春の陽気が風に乗って、4人の未来をあたたかく照らしていた。




