第七節 進む先、照らす光
夕暮れの影が長く伸びる頃、水泳部の練習は終盤を迎えていた。プールサイドでは、いつものように筋トレに励むチームトレノの5人と、それを見守る澪の姿があった。
「よし、今日の締めはプランク1分3セットでいくよー!」
澪の掛け声に、さちたちは息を整えながら動作を切り替えていく。
──そのとき、入り口のドアが開いた。
「みんな、今日も頑張ってるね! 感心感心!」
明るい声に一同が振り向くと、そこに立っていたのは、推薦入試を終えた瑞希だった。
「瑞希先輩!」
「お久しぶりです!」
「受験、どうでしたか!?」
一気に声が湧き上がる中、瑞希は笑って手を上げた。
「はいはい、落ち着いて。……実は今日、推薦入試の内定が出るかどうかの発表だったの」
「で、結果は……?」
澪が目を輝かせて尋ねると、瑞希はピースサインを見せながらにっこり笑った。
「無事、公立高校で内定でたよ。合格の発表は一般入試と一緒だから、あくまで内定だけどほぼ合格みたいなものね。もちろん水泳部もあるところ。これからも、泳ぎは続けるつもり!」
「おめでとうございます!」
「すごい……!」
歓声と拍手が沸き起こり、さちたちは一斉に瑞希のもとに駆け寄った。
少し離れたところで、澪はぽつりと呟いた。
「……私も、瑞希先輩のあとを追いかけて、同じ高校に進学できたらいいな」
その言葉に気づいた瑞希が、そっと澪の肩に手を置く。
「大丈夫。澪の実力なら、きっと行けるよ。でも、進路は“どこに行くか”より、“どう過ごすか”の方が大事。焦らず、自分にとっての“いちばん”を探してね」
「……はいっ」
澪の笑顔を見ながら、さちは少し離れた場所で思った。
(進路……まだ先のことだと思ってた。ちゃんと考え始めなきゃいけない時期が、私にも来るんだよね)
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──その日の帰り道。
制服姿の5人が並んで夕暮れの道を歩いていた。
「瑞希先輩、推薦で合格内定なんてすごいね」さちがぽつりと口にする。
「うん。私たちも、来年には考えなきゃだね」ユキが頷く。
「できれば……みんな一緒のところがいいな。ずっと水泳と、トレーニングを続けていきたい」
まひろの小さな声に、リンが続ける。
「私も。でも、もし進路がバラバラになっちゃったら……」
「それでも、トレノの絆は変わらないよ!」とハルが自信たっぷりに言った。「また集まってトレーニングすればいいだけ!」
「一番の理想は、みんな一緒。でも……たとえ離れても、トレノは繋がってる」
「そのためには……内申点、ちゃんと取らないとね」ユキが真顔で言うと、一瞬の沈黙。
「……」
「……」
「……うん、がんばろう」
微妙な空気のあとに、苦笑がじわりと広がった。
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──翌日。
この日は、地域の小学校の6年生たちが中学校を見学に来る日だった。
部活に向かう途中、見学先を相談する小学生の姿に気づいたさちは、ふと足を止める。
(……私も、あのときはワクワクしてたな)
水面を滑るように泳ぐ先輩の姿。それが、今の自分の出発点だった。
「今日は、あのときの気持ちを伝えよう」
小さく自分に言い聞かせ、両頬を軽く叩いて気合を入れる。
「よしっ!」
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プールでは、トレノの5人がストレッチを終え、見学者の前での泳ぎに備えていた。
そのとき──
「さち先生!」
元気な声に振り返ると、そこには小柄な少女が立っていた。夏合宿のあと、スイミングスクールで相談を受けた、あの少女だった。
「……あっ、あのときの!」
さちは驚きながらも、すぐに笑顔になる。
「覚えててくれたんだ!」
「もちろんです! あのときのおかげで、今も楽しく泳げてます! この前の県大会で、3位になれました!」
「ほんとに!? すごいじゃない! よかった……少しでも力になれて」
「さち先生、今日泳ぐんですよね? 私、さち先生みたいになりたいんです!」
そのまっすぐな瞳に、さちはしっかりと頷いた。
「ありがとう。今日は、泳ぐ楽しさをぜんぶ伝えるように、全力で泳ぐから!」
その言葉どおり、さちはしなやかに、そして力強く泳いだ。
チームトレノの面々も、それぞれが水の中で輝いていた。
見学に来た少女は、その光景を夢中で見つめていた。
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──部活が終わった帰り道。
「今日の見学……ちゃんと伝わったかな」
「私たちも、いよいよ“先輩”になるのね」ユキが応える。
「うーん……ちゃんとできるかな、私」ハルが頭をかく。
「大事なのは、楽しむこと。そして、目標は全員で大会上位!」
「私も、もっと鍛えたい。まだまだだし」まひろが真剣な表情で言う。
「うん。みんなで楽しく上を目指せる。それが、トレノだよね!」リンの明るい声が空に響いた。
5人の足取りは、まっすぐに前を向いていた。
──その夜、トレーニングノートの新しいページに。
それぞれの手で、新たな目標が、丁寧に記されていった。
進む先に、また新しい光が待っていると信じて。




