第八節 ありがとう、三年生
三月。卒業式が近づくにつれ、校内にはどこか静かで、けれどあたたかな空気が流れ始めていた。
放課後の教室。部活までの少しの時間を使って、トレノの5人と澪は、机を並べて作業に取り組んでいた。
色とりどりのペン、折り紙、シール──
手元には、それぞれが心を込めて書いたメッセージカードが並ぶ。
「この寄せ書き、卒業式の前に渡すんだよね?」
「うん。三年生が引退してから、なんだかんだ会えてなかったから。最後にちゃんと伝えたくて」
そう言って、澪は完成した色紙の真ん中に、一枚ずつカードを丁寧に貼り付けていく。
「でも、もう卒業かぁ……」
リンがつぶやき、さちも小さく頷いた。
「先輩たちがいたころの練習、思い出すね。瑞希先輩、すごく明るくて引っ張ってくれてたなあ」
「練習のときも、最後まで声かけてくれて……頼れる先輩だった」
「私、いつか瑞希先輩みたいになりたいって、思ってた」
まひろがそう言うと、澪は一瞬手を止めて、ふっと微笑んだ。
「私も、あの人の背中を追いかけてきたんだよね」
──色紙が完成し、全員で仕上がりを眺める。
「……よし、これでバッチリ!」
ハルが元気よく声を上げると、ユキがぽつりと呟いた。
「……三年生が卒業しちゃうと、いよいよ新しい代って感じがするね」
「澪先輩は、もうすぐ三年生ですもんね」
まひろの言葉に、澪は少し照れくさそうに笑った。
「うん。なんか、自分が引っ張る立場って、まだ実感ないけどさ……」
「でも、もう引っ張ってますよ。今でも十分、頼れる部長ですから」
ユキの静かな声に、他の4人も頷く。
「うん、澪先輩がいるから、ここまで頑張れたんですよ!」
「ありがとう……ほんとに。みんながいてくれるから、私もやれてるのかも」
少し照れくさそうに、でも嬉しそうに、澪は言った。
──そして、ふと思いついたように、言葉を継ぐ。
「でもさ。三年生がいなくなったら、私たちだけで水泳部を守っていくってことなんだよね」
その言葉に、少しだけ空気が引き締まる。
「私たちも、何か考えなきゃだよね。春休み、どう過ごすかとか」
さちがふと提案するように言った。
「……ねえ、春休み、みんなで何かやりたいことない?」
「うーん……自主トレとか?」
澪が首をかしげながら応じると、ハルがぱっと顔を輝かせる。
「それなら、前にやった体力測定、またやってみたいな!」
「いいね! 小学校卒業前にやったきりだけど、今ならすごく伸びてると思う!」
リンが目を輝かせ、ユキも静かに頷く。
「筋力、柔軟性、持久力……今なら自分の成長がはっきり見えるわね。冬を越えた今だからこそ」
「よし、決まり! “第二回・自主体力テスト”開催だね!」
ハルが笑顔で拳を掲げると、皆がそれに手を重ねた。
「目指せ、過去の自分越え!」
笑い合いながら、彼女たちの春は、静かに芽吹こうとしていた。




