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絆のトレーニングノート After Six:走り出す未来  作者: たまに何かを書く人
第4章 芽吹きの予感、光さす方へ

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第六節 挑戦のレーン、絆のタッチ

放課後、職員室の一角。


水泳部部長の澪は、書類を手にして西園寺先生の机へと向かった。ドアをノックし、小さな声で話しかける。


「先生、今、お時間よろしいですか?」


「おお、澪。どうした?」


「男子水泳部と、メドレーリレーで対決したいんです。女子チームと男子チームで、タイムを競う形で」


「へえ、面白いこと言うなぁ」


にやりと笑った西園寺が、隣の机をちらりと見る。そこには男子水泳部の顧問が座っていた。


「それはまた……いいですね。男子チームの刺激にもなりますし」


「まあ体格的に男子が有利だろうけど、やってみろ」


「負けたら……先生の奢りってことで?」


「よし、乗った!」


「ちょっと! 先生同士で賭け事しないでください!」


「いやいや、今のは冗談だ。な? 先生」


「……もちろんですとも」


笑い合うふたりの顧問に、澪は呆れながらも小さく笑った。



土曜日の朝。屋内プール。


めずらしく週末に集まった部員たちの間に、ほどよい緊張感が漂っていた。


今日は、男子水泳部との合同イベント。全レーンを使って、1・2年生それぞれの男女チームがメドレーリレーで直接対決する。


アップを終え、整列したメンバーの前に立つ西園寺が口を開いた。


「よし、お前ら。澪が男子に宣戦布告したらしいな。全力でいけ」


澪が前に出て、にこっと笑う。


「男子以上に、私たち鍛えてきたと思う。だから、負ける気はないよ! もちろん、楽しむことも忘れずにね。……先生の出費も、私たちで抑えてあげましょう!」


「……は?」


一斉に「?」が浮かぶ部員たち。


「澪ーっ! 余計なこと言うな! 賭けなんかしてないからな! な!?」


「先生、自白してます」


どっと笑いが広がった。



まずは1年生対決。


女子チームは、まひろ→リン→ユキ→さち→ハル。


男子チームも、同学年の実力者がそろい、ユキと同じ3番手には、あの男子水泳部員の姿があった。


ピッ──!


ホイッスルが鳴り響く。


1番手のまひろが迷いのないフォームで水を蹴る。


(男子に……負けない!)


力強く泳ぎ切り、男子とほぼ同時にリンへ。


リンはしなやかな動きで加速し、タッチへ向かう。


ユキがスタート台に立つ。隣には、あの男子生徒。


(体格は確かにいい。でも──絶対に負けない)


リンのタッチと同時に、ユキが水中へ飛び込む。


静かに、しかし着実に距離を詰め、リズムを崩さず冷静に泳ぐ。


リードをわずかに保ち、さちへタッチ。


「さち、お願い!」


ユキの声に、さちは思い切り飛び込む。


(泳ぐのって、やっぱり楽しい!)


全身の力を込め、スピードを上げる。その差を広げ、最後はハルへ。


ハルは迷いなく水をかき、トップでゴール!


「勝った……!」


歓声と拍手が響き、5人が肩を叩き合う。


男子顧問が腕を組んで呟いた。


「……いや、たいしたもんだ」



続く2年生対決。


男子がリードを奪う展開となるも──


アンカーの澪が怒涛の追い上げを見せ、タッチの差で女子が逆転勝利!


西園寺が、女子部員たちに笑顔を向ける。


「お前ら……本当によくやった。正直、ここまでとは思わなかった」


「へへっ、先生の財布を守りましたから!」


「……ありがとな」


一方、男子部では──


「お前ら、もうちょい鍛えろー!」


「明日から筋トレ倍な!」


どよめきと叫びが、プールに響いた。



練習後。ユキと男子生徒が、プールサイドを並んで歩いていた。


「今日は、ありがとう。やっぱり、白水さんってかっこいいな。泳ぎも……身体も」


「ふふ。褒められるのは嬉しいけど──あなたも、いい泳ぎだったわ」


ユキは足を止め、顔を上げる。


「それで、あのときの返事だけど……ごめん。やっぱり、あなたとは付き合えない」


男子は一瞬、黙り込んだが、やがて小さく頷いた。


「……理由、あるんだよね」


「ええ。今の私にとって一番大切なのは、部活と──」


はっきりと言い切る。


「──チームトレノの5人と過ごす時間。小学校からずっと一緒に頑張ってきた。その絆が、私のすべてなの」


男子はしばらく黙っていたが、やがて穏やかに笑った。


「……やっぱり、白水さんってすごいな。一緒に頑張れる仲間がいるって、素敵なことだよね」


「ありがとう。あなたも、頑張って」


 


「ユキー、そろそろ帰るよー!」


さちの声が響く。4人の姿が近づいてきた。


「じゃ、私は行くわ。また一緒にトレーニングしたくなったら、いつでも来て」


手を振りながら駆けていくユキ。


その背中を、男子生徒は静かに、そして少しだけ誇らしげに見送った。



帰り道。


「先に出て行っちゃうから、心配したよー?」


「ごめんごめん。ちょっと話してたの」


「で、どうだったの?」


「断ったわ。やっぱり、今はこの5人でいるのが一番楽しいから」


「それが一番!」


「今日の泳ぎも、すっごく楽しかった!」


「うん、私も!」


ユキは笑った。


「これが、チームトレノの絆ってやつね」


「でもさ……結局、相手に雪、降らせちゃったよね。冬に逆戻りじゃん?」


「……座布団どころか、気温も下がったわね。ハルに春が来るのは、まだ先かも」


「やかましい!」


5人の笑い声が、静かな午後の街にふわりと溶けていった。


挿絵(By みてみん)

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