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絆のトレーニングノート After Six:走り出す未来  作者: たまに何かを書く人
第4章 芽吹きの予感、光さす方へ

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第五節 絆にとける甘い日、春を待つ空

二月十日の翌日。放課後のトレーニングに、いつもとは少し違う空気が流れていた。


「……来たみたいだね」


ユキが視線を向けた先には、昨日の体育館裏で想いを伝えた男子水泳部員の姿があった。やや緊張した面持ちで、彼はまっすぐ立っている。


「こんにちは。……あの、見に来てもいいって言ってたから」


「ええ。見に来たんだ。……なら、見ていくといいわ」


表情を変えず、ユキはすぐにトレーニングへ戻る。トレノの5人も、いつも通り黙々と身体を動かし始めた。


腕立て、スクワット、プランク、腹筋──お馴染みのメニューが静かに進んでいく。


男子生徒はしばらく黙って見つめていたが、やがて小さく手を挙げた。


「僕も……やってみてもいい?」


ユキが軽く頷く。


「いいわよ。一緒に、どう?」


「うん!」


そうして参加してみたものの──


「……はぁ、はぁ……これ、毎日やってるの……?」


息を切らして座り込む彼の姿に、ユキは淡々と答える。


「ええ。小学生の頃からずっとね。もう慣れちゃったけど」


その口調のまま、少しだけ口元を和らげるユキ。



そのとき、ストレッチを終えていた澪がふと思いついたように口を開いた。


「ねえ、そういえば……男子と女子でメドレーリレー対決、やってみたら面白いかもね」


「えっ、対決……?」


「いいですね、それ!」


まひろが嬉しそうに反応し、さちとリンも「やってみたい!」と声を上げる。


「先生に相談してみるよ。いつものトレーニングの成果も見せられるし」


「……その前に」


ぽつりと、まひろが言った。


「……バレンタイン、ありますよね」


一瞬にして場が静まる。男子生徒も固まった。


「え、でも……学校に持ち込んじゃダメなんじゃ……?」


「持ち込みは禁止。でも放課後に学校の外で渡すのは別」


ユキがあっさりと説明し、男子生徒の方へ目線を向けた。


「でも、見つめられても、あげないからね?」


一瞬赤くなって視線を落とす彼の仕草に、思わず笑いがこぼれる。



──そして、2月14日、日曜日。バレンタインデー。


澄んだ空の下、トレノの5人はリンの家に集まっていた。


広くて明るいキッチンに、まひろとリンが立ち、テーブルには材料がずらりと並ぶ。


「まずは下準備だね」


「はーい!」


レシピ本を見つめるユキは、真剣そのもの。


「……分量、きっちり計ってね。0.5グラムの誤差もだめ」


「う、うん……このくらい?」


「まだズレてる。ほら、見て」


ユキの細やかな指示のもと、ハルとさちは真剣に作業に取り組む。


「さすが冷静なリーダー……」とまひろが笑えば、


「まひろもリンも、包丁の使い方プロ級だね」とさちが感心する。


 

しっとりビターなチョコブラウニーと、可愛らしい型抜きクッキー。


香ばしい香りが部屋中に広がり、焼き上がったブラウニーを冷ます間に、ラッピング作業に取りかかる。


「よし、あとはカードだね!」


5人は小さなメッセージカードに想いを込めて、それぞれ包みを完成させていく。



──ラッピングが終わったあと。


テーブルに余ったお菓子を並べ、ホットミルクを片手に味見タイム。


そのとき、さちがそっと立ち上がった。


「ねえ……実は私、今日いちばんに渡したいの、みんななんだ」


差し出された手作りのブラウニーとクッキー。


「わたし、最初は不安だった。でも、ハルとユキが声をかけてくれて、リンとまひろも……。本当にありがとう」


照れくさそうに微笑むさちに、4人は笑顔を返す。


「……それ、私も思ってた!」


「私も!」


次々に、さちの手へチョコが渡されていく。


「うう……泣かせにきてるよね……」


「泣いても、いいよ?」


「やだー! 余ったのもう一個食べるー!」


「でも、全員同じ味だよ?」


ハルのひと言に、笑いが広がった。


寒さの残る午後。5人の間には、甘くあたたかな絆があった。



──そしてその夜。


さちは、真由美にチョコを手渡した。


「えっ、ママに?」


「うん。いつもありがとうって言いたくて」


真由美はそれを胸に抱きしめ、そっとさちを抱きしめ返す。


「……もう、こんなにしっかりして……ママの方が泣いちゃうよ」



ハルとユキは、それぞれたくみとあかねにチョコを渡した。


「はい、ありがとうのチョコ」


「……こういうの、弱いんだって。ありがとな」


「ママからはもらえないから、余計に嬉しいよ」


照れながら渡す双子に、あかねは穏やかに笑った。


「二人とも、いい顔してる。ほんと、成長したね」



リンは、キャサリンとビデオ通話をつないでいた。


「Mom、チョコ作ったよ! 明日渡すから楽しみにしてて!」


『Oh honey, that’s so sweet! I’ll be home soon. We’ll share it with Dad, okay?』


「うん! パパにも渡すんだ!」


画面越しの笑顔が、距離も時差も越えてつながっていた。

 


──こうして、バレンタインデーは静かに、あたたかく幕を閉じた。


贈り合ったのは、チョコだけじゃない。


言葉と、想いと、絆。


その甘さはきっと、春の少し手前の空に、ほんのりと溶け込んでいた。


挿絵(By みてみん)

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