第一節 始まりの鐘、願いの空へ
元日──。
日付が変わって間もない深夜。澄んだ冬の空に星が浮かび、冷たい空気が街を包んでいた。
白い息を吐きながら、神社の前に5人の姿があった。さち、ハル、ユキ、リン、まひろ。そこへ、自転車を止めて駆けつけてきたのは、水泳部の部長・澪だった。
「ごめん、ちょっと遅れた!」
「大丈夫ですよ。私たちも今ちょうど着いたところなので」
「寒い〜。でも、やっぱり新年って感じがするね」
「うん、そうだね」
並んで鳥居をくぐり、静かな境内へと向かう。
薄暗い中、焚き火の明かりが揺れ、参拝に訪れた人たちの話し声が静かに響いていた。
6人は手を合わせ、心を込めて一礼する。
(今年も、みんなで頑張れますように──)
お参りを終えたあと、さちは手をこすりながらぽつりとつぶやいた。
「……いよいよ、また一年が始まるんだね」
「うん。去年はいろんなことがあったけど……今年はもっと頑張れたらいいな」
「私はもっと泳ぎが上手くなれますようにってお願いした」
「私は怪我しませんように……あと、筋肉のバランスが整いますようにって」
リンが真顔で答えると、全員がくすっと笑った。
「私は、練習のとき声を出す勇気が出ますようにって……」とまひろ。
「私は……秘密」
ユキが口元に指を当てて微笑む。
「えーっ、なんで秘密なの〜!」
「言ったら叶わなくなるって、言うでしょ?」
「それ、おみくじじゃない?」
「……ってことで、引こうか。おみくじ!」
全員で並び、おみくじを引いてそれぞれの紙を広げる。
「中吉!悪くない!」
「私は……大吉!」
「小吉……微妙?」
「でも書いてあることは結構良さげじゃん?」
笑いながら読み進める中、ユキがじっとおみくじを見つめていた。
「……“思わぬ出会いにより、心揺れることがあるでしょう”……?」
「それ、恋愛運のとこでしょ?」
「“静かに待つが吉”って書いてある」
「えっ、えっ、ユキに恋愛フラグ来てるってこと!?」
「……ふふ、どうだろうね」
少しだけ頬を赤らめて笑うユキ。その表情に、全員が微妙にざわついた。
「これは……波乱の年になるかも?」
「これは年内に進展ありと見た!」
「さち、どう思う?」
「えっ、えっと……ユキが誰かと……? でも、なんか、ちょっと楽しみかも」
冷たい空気の中、笑い声が弾ける。
彼女たちは、それぞれの願いと少しの期待を胸に、新しい年の始まりをかみしめていた。
──
そして、冬休みが終わり、3学期が始まった。
年が明けてからの最初のホームルーム。
西園寺先生は、いつも通り気だるげな表情で話しながらも、どこか新年らしい熱を帯びていた。
「配布物は後ろに回して〜、あと、廊下の掲示も見とけよー。部活の予定とか出てるからなー。……ってことで、3学期の、はじまりはじまり〜」
クラスのざわめきの中、さちはふと窓の外を見た。
まだ雪の残るグラウンド。その向こうには、再び走り出す毎日が待っている。
──
放課後、水泳部のトレーニングが再開されていた。
まだ下校時間が繰り上がっていることもあり、この時期は主に筋力と体力強化が中心のメニューだ。
トレーニング後、澪が全員に声をかけた。
「よし、せっかくだから、今年の目標……一言ずつ言ってみようか!」
まずはハルが、軽くストレッチをしながら口を開く。
「私は……やっぱりリレーで勝ちたい! あと、今年こそ背泳ぎでユキに勝つ!」
「ふふ、それなら私は、誰にも負けない泳ぎを目指すよ」
「私は……もっとフォームをきれいにしたい。速さよりも、まずは丁寧に」
まひろは小さくうなずいて、「練習のときに、自信を持って声を出せるように……がんばる」と静かに語った。
リンは「今年も筋肉に正直に生きます!」と真顔で言い、みんなが笑い出す。
最後にさちは、少し考えてから口を開いた。
「私は……誰かに追いつくとかじゃなくて、自分がちゃんと前を向いていけるようにしたい。今年も、全力で」
その言葉に、澪がやさしく頷く。
「うん、いい目標だね。じゃあ、私も言おうかな。今年は……もっと、後輩と一緒に走りたい。先輩だからじゃなくて、仲間として」
部室に差し込む冬の光が、ほんのりと6人の顔を照らしていた。
新しい年が、また始まった。
彼女たちはそれぞれの目標を胸に、春へ向かって、静かに走り出していた。




