第十節 舞い降りる雪、輝く日々
月日は流れ、12月。冬休み目前の終業式を数日後に控えたある夕方。
吐く息が白く染まり、寒さが本格化する中、さちは帰宅するなり、母・真由美に話しかけ
た。
「お母さん。今年も、トレノでクリスマスパーティと記録会やろうと思ってるの」
夕食の準備をしていた真由美は、ふと手を止め、優しい笑みを浮かべた。
「そう、去年のあれね。もちろん、いいわよ。おかず、何か作って持っていこうか?」
「うん、嬉しい。ありがとう!」
「じゃあ今年は、ちょっと凝った煮込みでも作ってみようかな」
嬉しそうに話す母の姿に、さちも思わず頬をゆるめた。
同じ頃、ハルとユキの家でも。
夕食の席で、ハルが何気なく話題を切り出す。
「そういえばさ、今年もトレノでクリスマスやるよ。記録会も一緒にね」
父・たくみがすぐに反応した。
「それは楽しみだな。ワインでも持って行こうか?」
「また始まった……」と、あかねが苦笑いで眉をひそめる。
「ちょっとだけにしてよ。前みたいに飲み比べとか始めないでね?」
「わかってるよ~」とたくみが笑うと、食卓にはあたたかな笑いが広がった。
一方、リンは自室でタブレットを手に、母・キャサリンとテレビ電話をしていた。ふたり
にとって、英語での会話はいつものことだ。
「Mom、今年もみんなでクリスマスパーティするよ!トレノ記録会もやるの」
「That’s wonderful, honey! I’m so happy you have such great friends」
画面越しに微笑むキャサリンが続けて言った。
「今年の冬はね、パパも一緒よ。年末年始、家族みんなで過ごせるからね」
「本当?やったー!」
画面越しに跳ねるリンに、キャサリンも笑顔でうなずいた。
数日後の放課後。
さちたちはプールサイドのトレーニングスペースで、ストレッチと筋トレに励んでいた。
さちは汗をぬぐいながら、そばで一緒に体を動かしていた澪に声をかけた。
「ねえ、澪先輩。クリスマスの日、トレノ記録会とパーティやるんですけど……一緒にどう
ですか?」
思いがけない誘いに、澪は目を丸くした。
「えっ、私が……? いいの?」
「もちろん!先輩もトレノの仲間ですよ!」
ハルがにっこり笑い、ユキやまひろも「ぜひ来てください!」と続けた。
「
……ありがとう。嬉しい。行くね」
澪の頬に、ふんわりと笑みが浮かんだ。
その返事に、5人の顔にも自然と笑顔が咲いた。
──そして、クリスマス当日。
午前10時。澄み渡る冬空の下、リンの家のトレーニングルームには6人が集っていた。
トレノの恒例行事、「年末大記録会」が、今年も始まろうとしていた。
「じゃあまずは、リズム体幹チャレンジから!」
ハルの掛け声でスタートした記録会。
腕立て伏せ、スクワット、プランク、開脚、腹筋、そしてベンチフォーム──
それぞれが真剣に、自分の限界に挑みながらも、声を掛け合い、支え合っていく。
「さち、前より全然キレがある!」
「リン、開脚めっちゃ伸びてる!」
「まひろの腹筋、すごい持久力……!」
「ハルもユキも、動きが洗練されてきたよね」
「澪先輩、フォーム綺麗すぎてびっくりです!」
笑いと驚き、そして称賛の声が飛び交いながら、全員が充実した汗を流した。
そして午後。リビングに集まり、クリスマスパーティが始まった。
さちの母・真由美が持参した煮込み料理に、あかね手作りの野菜グラタン。
キャサリンは、日本のレシピを参考にチキンのローストに初挑戦。
たくみは予定通りワインを持参し、マークと乾杯を交わしていた。
「Good wine, Takumi! You have good taste」
「はは、Thanks, Mark!」
たくみがご機嫌で話し始めると、隣のあかねが「もう……」と小さくため息。
そのやりとりを、真由美とキャサリンが微笑ましそうに眺めていた。
リビングには、大人と子どもの笑い声が交差し、あたたかい空気が流れていた。
パーティの途中、ユキがふと窓の外に目をやった。
「
……雪、降ってきたよ」
みんなが一斉に窓の外を見た。
白い小さな雪片が、静かに、優しく舞い降りていた。
「ホワイトクリスマス、だね」
誰かが呟いたあと──
「うん、今年も……最高の締めくくりだね」
そう言ったのは、さちだった。
目の前に広がるこの時間。
仲間たちと過ごした日々。そして今、こうして寄り添う絆。
この先もずっと、変わらずに歩んでいけますように。
そんな静かな願いが、胸の奥に優しく灯っていた。
──こうして、トレノの一年は、あたたかな輝きの中で幕を閉じた。
けれど、彼女たちの物語は──まだまだ続いていく。




