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絆のトレーニングノート After Six:走り出す未来  作者: たまに何かを書く人
第3章 翔ける絆、未来へのレーン

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第八節 響け、わたしたちのハーモニー

十月の終わり。秋の空気は日ごとに深まり、校舎の窓から見える木々も少しずつ色づいて

いた。

水泳部の練習は相変わらず熱を帯びていたが、教室では文化祭に向けた準備が本格化して

いた。

午後のホームルームが終わると、ハルは指揮棒を手に、小さくため息をついた。

……やっぱり、声が合わないなあ……」

クラスの合唱練習。指揮者であるハルは、全員の歌声をまとめる難しさに、日々頭を抱え

ていた。

ソプラノとアルトのハーモニーはようやく形になってきたものの、問題は男声──テノー

ルとバス。音の出し方やタイミングがそろわず、ハルの指揮にもなかなか反応が返ってこ

なかった。

放課後、パートリーダーのさちとともに残って、男声パートのリーダーたちと小声で打ち

合わせをする。

「リズムの入りがちょっとずれてるみたいで……」

「歌詞の語尾を合わせる練習、繰り返してみます」

男の子たちも一生懸命に協力しようとしてくれているのはわかる。だからこそ、まとめき

れないことへの悔しさと、自分の未熟さに、ハルはもどかしさを感じていた。

……私、全然うまくできてない」

「そんなことないよ。ハルがちゃんとみんなを見てるの、伝わってると思う。練習重ねれ

ば、きっと合ってくるよ」

さちはアルトパートのリーダーとしてクラスメイトを支えながら、ハルの努力もしっかり

見ていた。

最初は緊張していたさちも、今では自然に周囲と話せるようになっていた。

午後、教室移動の合間。別の廊下では、まひろが照明係としてステージ構成の打ち合わせ

に呼ばれていた。

「ステージの転換タイミング、1分以内ってマジで言ってる……?」

「まひろ、がんばって!」

リンは大道具の運搬係で、額の汗をぬぐいながら声をかける。

二人はクラスこそ違うが、文化祭の演劇鑑賞の運営委員として、学年合同の作業に取り組

んでいた。

放課後の水泳部では、練習を終えたあと、6人がいつものようにプールサイドでトレーニ

ングに励んでいた。

「もうすぐ文化祭だけど、練習は手を抜かないよ!」

「うん。筋肉は文化祭も見てるから!」

リンが真顔で言うと、全員が吹き出す。

「意味わかんないけど、なんか元気出た!」

「合唱の声も、体幹がしっかりしてると安定するって言うしね」

冗談を交えながらも、それぞれが学校生活の中で、新しい一面を見せていた。

そして文化祭当日。

午前中は、演劇鑑賞会。舞台では外部の劇団による感動的な演目が上演され、生徒たちは

静かに見入っていた。

まひろは照明席で緊張した表情を浮かべながらも、タイミングを正確に合わせて操作す

る。リンは幕の裏で、大道具の転換に全力で走り回っていた。

午後は、合唱コンクール。

さちたち1年生のクラスから順に、各クラスがステージに上がって歌声を披露していく。

ハルは壇上で指揮棒を構えると、静かに息を整えた。

落ち着いて……目線、リズム……ちゃんと見せる

手が動き、音が重なる。

さちはアルトパートをしっかりと支えながら、全体の響きを感じ取っていた。

テノールもバスも、ぎこちなさは残しつつも、昨日までの練習よりずっと息が合っている。

最後の音が響き終わると、客席から大きな拍手が湧いた。

他のクラスの合唱も、それぞれが工夫を凝らし、美しいハーモニーを響かせていた。

全ての発表が終わったあと、最後は教職員による合唱。

ステージ中央に立ったのは、水泳部顧問であり理科教師の西園寺先生だった。

気だるげな表情のままマイクを握ると、ぼそりと一言。

「えーと……それじゃあ、歌います」

ソロパートが始まった。けだるさはそのままだが、不思議と惹きつけられる声だった。会

場の空気がぴたりと止まり、やがて大きな拍手が巻き起こる。

「アンコール! アンコール!」

そんな声まで飛び交った。

そして、結果発表。

「一年生の金賞は──三組!」

大きな歓声が上がる。まひろのクラスだった。

「最優秀賞は……三年二組!」

歓声に混じって、さちはどこかで瑞希の名前を耳にした気がした。

「最優秀指揮者賞は──白水ハルさん!」

会場がどよめく。ハルは呆然としたまま、その場に立ち尽くした。

「す、すごいよハル!」

「やったね、ハル!」

ユキやさちが駆け寄る。ハルはようやく笑顔を見せて、小さく手を振った。

最優秀伴奏者賞には、二年生の澪のクラスでピアノを担当していた女子が選ばれた。

すべてのプログラムが終わり、夕暮れの校門前。

さち、ハル、ユキ、リン、まひろの5人が並んで歩いていた。

「緊張したけど、楽しかった!」

「照明、ミスらなくてよかった……」

「大道具、誰にもぶつからなかった!」

「ハル、ほんとにすごかったよ。ちゃんとまとめてた」

……うん。でも一番すごいのは、みんなが最後まで歌ってくれたことだと思う」

初めての文化祭。それぞれの場所で、自分の役目を果たした一日。

それは、胸に刻まれる大切な記憶となった。

──そして。

文化祭が終わったあとも、トレーニングの日々は続いていた。

「うん、文化祭も、広域大会も、全部やりきったよね」

ハルが、夕暮れのトレーニング後に笑顔で言う。

「これからも、やれるだけのことをしていこう」

「いつものトレノでね!」

5人の声が、秋の空に優しく溶けていった。


挿絵(By みてみん)

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