第七節 季節と、鼓動と、わたしたち
秋の風が、校舎のすき間を静かにすり抜けていく。
十月の終わり。日差しはまだ暖かいものの、朝夕には肌寒さを感じるようになっていた。
学校では、文化祭を前にした準備の雰囲気が徐々に色濃くなっていた。
この中学校では「芸術発表会」として、午前に劇団による演劇鑑賞、午後には学年別の合唱
コンクールが行われる。どちらも、全校生徒にとって大きな行事だった。
各クラスでは、音楽の授業に加えて昼休みや放課後の練習も始まり、誰もがどこか浮き足
立っていた。
さちのクラスでは、合唱曲が決まり、パート練習が始まっていた。
彼女はアルトのパートリーダーを任され、練習中は周囲を気遣いながら声を出していた。
昼休み、廊下の窓際に腰をかけながら、さちはプリントを読み返す。
「うちのクラス、意外とやる気あるかも……」
声をかけるつもりもなく漏れたその言葉に、通りかかったユキが足を止めた。
「それ、いい傾向じゃない? やるならしっかりやった方がいいもの」
「ユキのとこ、どう?」
「
……私は伴奏。ピアノ、緊張するよ」
「え、すごい! ユキの演奏、聴いてみたいな」
ユキは照れくさそうに笑いながら歩き去っていった。
午後、教室移動の合間。別の廊下では、まひろが照明係としてステージ構成の打ち合わせ
に呼ばれていた。
「ステージの転換タイミング、1分以内ってマジで言ってる……?」
「まひろ、がんばって!」
リンは大道具の運搬係で、汗を拭きながら声をかけていた。
その頃、ハルはクラスで指揮者に選ばれ、放課後の音取り練習を仕切っていた。
「はい、男子~! もう少し気持ち込めて歌ってくれないと、伝わらないってば~!」
どこか部活と似たその光景に、皆、どこかで懐かしさと誇らしさを感じていた。
放課後。
水泳部の練習を終えたあと、部員たちはプールサイドに残って、ストレッチや補強トレー
ニングに取り組んでいた。
「最近、背筋ついてきた気がするんだよね~」
そう言ってハルが腕を振りながら、プールサイドのマットに寝転がった。
「間違いなくね。ハルの肩周り、だいぶ変わってきてる」
ユキが淡々と返す。
「リンの柔軟性もすごい。あの体勢からキープできるの、普通できないよ……」
「えへへ、ありがとう。でもまひろの体幹も強くなってきたよね!」
「そ、そんな……!」
笑いながら続けるトレーニング。
気がつけば、それはもう「部活の延長」ではなく、自分たちの日常そのものになっていた。
「ねえ、みんな」
ふと、さちが声を上げた。
「なんか、最近すごくいい感じだよね。文化祭もあるし、トレーニングも毎日できて
て……」
「うん。なんか、走ってる感じがする」
ハルが頷く。
「止まらずに、進んでるって感じ」
「その感覚、わかる」
ユキも静かに同意した。
「いろいろあるけど、なんか全部がつながってる気がするんだ」
リンが優しく言葉を重ねた。
さちは、心の中でそっと思った。
私、いま、すごく充実してる。走って、泳いで、歌ってる……この時間の中で、みんなと
一緒に
体育館では、明かりの調整リハーサルが行われており、まひろは何度もブースとステージ
を行き来していた。
「まひろ、がんばって!」
さちが、教室の窓から手を振る。
振り返って笑うまひろ。その顔は少し汗ばんでいたけれど、いつもよりも凛としていた。
文化祭とトレーニングの両立。
この日々が、彼女たちをまた一歩、強くしていた。




