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絆のトレーニングノート After Six:走り出す未来  作者: たまに何かを書く人
第3章 翔ける絆、未来へのレーン

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第五節 絆の先に見えた景色

県新人戦から、数日が経った。

熱気に包まれた大会の記憶はまだ鮮明だが、校内には秋風が吹き込み、夏の余韻はすっか

り色褪せていた。

水泳部の部室には、先日の大会を振り返る声が飛び交っていた。

「ユキのターン、完璧だったよね」

「いやいや、まだまだ。でもハルのラストスパート、あれは痺れたよ」

「ありがと。さちの泳ぎも、瑞希先輩が“キレが出てきた” って褒めてたよ」

ユキとハルは笑顔を浮かべながらも、表情には引き締まった緊張感があった。

──県選抜強化大会への出場。

2人には再び大舞台が待っている。これは、新人戦の上位者を対象とした“次世代強化選

手” の育成大会であり、ここでのタイムが今後の強化指定にも関わってくる。

プレッシャーの影はあるが、その奥に揺るがぬ自信があった。

見据えているのは、さらにその先。まだ見ぬ自分たちの姿だった。

一方で、さち、リン、まひろは、それぞれの結果と静かに向き合っていた。

「悔しいっていうより……もっと泳ぎたかった、かな」

まひろがぽつりと漏らす。

「でも、まひろの平泳ぎ、タイム上がってたよ。隣で見てて分かったもん」

「さちの自由形も、ほんとに伸びやかだった」

リンの言葉に、さちは少し照れ笑いを浮かべた。

「ありがとう。でも……ハルとユキが先に進んでくの、嬉しいけど、ちょっとだけ悔しいな

って。私は、今は応援することしかできないから……」

その気持ちに、リンとまひろはまっすぐな目を向けて言った。

「さちが一緒じゃなかったら、ここまで来られなかったよ」

「そう。さちの努力、ちゃんと見てる人は見てるから」

さちは、ぽつんと小さくうなずいた。

放課後。プールの水音が消え、恒例となったプールサイドでのトレーニングが始まる。

体幹、ストレッチ、腕立て──いつものメニュー。

トレノの5人に加えて、先輩部員の姿も自然と増えていた。

「ユキ、その腹筋ほんとすごい。どうやったらああなるの?」

「いやいや、ハルの肩甲骨まわりも、明らかに変わってきてるよ」

「澪先輩、腕のラインめっちゃ綺麗になってませんか?」

笑い合いながらも、誰もがお互いの成長を真剣に認め合っていた。

この部活には今、確かな“変化” がある。

個々の努力だけではない。つながる意志と絆が、部全体を少しずつ押し上げていた。

そのとき──

……あ」

誰かの声に振り返ると、部室前の掲示板に人だかりができていた。

顧問の西園寺が、1枚の紙を貼り出していた。

>県選抜強化大会 出場選手・日程案内

そこに、出場者の名前が記されていた。

女子自由形:白水ハル

女子背泳ぎ:白水ユキ

……いよいよ、か」

ユキが小さく呟くと、ハルが隣で肩をポンと叩いた。

「よし、最高の泳ぎをしよう。トレノの名に恥じないようにね!」

「うん。一緒に頑張ろう」

2人が軽く拳を合わせたその姿を、さちは少し後ろから見つめていた。

わたしも──この背中を、支えられる存在でありたい

そう思いながら、手のひらを静かに握りしめた。

トレーニング後。夕焼けに染まる通学路を、4人で並んで歩く。

「ハルとユキ、選抜大会か……。なんだか、ちょっと遠くに行っちゃう感じするね」

さちのつぶやきに、ハルが振り返ってにっこり笑った。

「なに言ってんの。トレノでしょ? どこにいても、わたしたちはつながってるよ」

「うん。私たちが見てるのは、同じ“先” だよ」

ユキの穏やかな声に、さちは胸が少しだけ熱くなるのを感じた。

……ありがとう。私も、みんなと同じ景色を見続けられるように、頑張る」

夕焼けに照らされたさちの横顔は、ほんの少しだけ強くなっていた。

県選抜強化大会は、もうすぐそこに迫っている。

けれど彼女たちの視線は、さらにその先──未来の舞台へと向いていた。


挿絵(By みてみん)

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