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絆のトレーニングノート After Six:走り出す未来  作者: たまに何かを書く人
第2章 きらめきの絆、夏を越えて

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17/21

第六節 苦手と向き合う夏

お盆の時期に入り、街の玄関先にはきゅうりやなすの精霊馬が並び始めた。

夏の陽射しはいつも通り照りつけているのに、どこか背筋が伸びるような静けさが街に漂

う。

その空気は、慎ましくも穏やかだった。

そんな中でも、女子水泳部の午前中練習は続いていた。

部活を終えた部員たちはプールサイドに集まり、部長の澪と顧問・西園寺の前に整列する。

「さて、今日はお盆明けに予定している夏合宿について、詳しく説明します」

一歩前に出た澪の声に、部員たちの表情が引き締まった。

「お盆明け、私たちは隣の市の中学校と合同で合宿を行います。一泊二日、向こうの学校の

プールと宿泊施設を使わせてもらう予定です」

「練習では、全種目のタイムを計測します。それぞれの得意・不得意を確認し、課題を洗い

出すのが目的です」

「そして最後には――同学年同士による、学校対抗のメドレーリレーを行います」

その言葉に場が一瞬静まり、それからざわめきが広がった。

横に立っていた西園寺が、穏やかに口を開く。

「秋の新人戦でも対戦する相手だ。大会を意識して、集中して臨もう」

「はい!」

部員たちの声が、プールに響いた。

解散後も、いつものように――いや、今では6人になったチーム・トレノのメンバーは、

プール脇のトレーニングスペースに集まっていた。

腕立て、体幹トレーニング、ストレッチ。

それぞれの動きには無駄がなく、すでに習慣が“技” になっていた。

「ねえ、合宿……ちょっと楽しみじゃない?」

ハルの声に、ユキが静かに頷く。

「他校の人たちと一緒に練習するの、初めてだしね。きっといい刺激になる」

「うん。でも……」

ぽつりと、さちが呟いた。目線はマットの隅に落ちていた。

「わたし……自由形以外、自信ないんだ。スイミングスクールの頃からずっとクロールばか

りで……」

「バタフライや平泳ぎも練習はしたけど、タイムは出ないし、最後まで泳ぎきれるかも分か

らない」

その言葉に、リンとまひろが顔を見合わせる。

「実は、わたしも自由形がいちばんマシって感じ」

「わたしも、平泳ぎはまだフォームが固まってなくて……」

少しの沈黙が落ちる。

そのとき、静かに近づいてきた澪が、さちの前にしゃがみ込んだ。

「さち、焦らなくていいよ。合宿の前半は、苦手を見つけるための時間でもある。

無理に苦手を克服しようとしなくていい。それより、得意なことをひとつでも増やすこ

と。それが今、一番大事なことだと思う」

さちは驚いたように澪を見つめた。

……でも、メドレーリレーで迷惑かけたくなくて」

「その気持ちはすごく立派。でもね、大丈夫。リレーって、みんなで泳ぐもの。ひとりで

背負う必要はないの」

その言葉に、ハルが続けた。

「迷惑なんて思わないよ、さち」

「今までだって、できないことがあっても、さちは逃げなかった。全部に向き合ってきたじ

ゃん」

「そう。むしろ、誰よりもまっすぐ進んできたと思う」

ユキの声に、さちの目が少し潤む。

「一緒に得意を見つけよう。私たち、ずっとそうしてきたじゃない」

リンが微笑みながら言い、まひろも柔らかく頷いた。

「うん。一人で頑張るんじゃない。みんなで頑張るんだよ」

さちは、少し照れたように笑い、小さく「うん……」と頷いた。

夏の空は青く高く、太陽は変わらず照っている。

汗を拭いながら、6人の呼吸がまたひとつに重なっていく。

それぞれの想いを胸に、合宿の日が、少しずつ近づいていた。


挿絵(By みてみん)

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