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絆のトレーニングノート After Six:走り出す未来  作者: たまに何かを書く人
第2章 きらめきの絆、夏を越えて

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12/13

第一節 熱と光のなかで

七月。夏の陽射しが、グラウンドとプールにまぶしく降り注いでいた。


中学校の校舎をすり抜ける風は、すっかり夏の香りをまとっている。放課後の部活時間には、西日が照らすプールにセミの声と水しぶきの音が交じり合い、夏の日々の輪郭が鮮やかに描かれていた。


県総体が終わって、約三週間。

水泳部の雰囲気も、少しずつ変わり始めていた。


「いよいよ、澪先輩の本格始動って感じだね」


夕焼けが差し込むプールサイド。水面に揺れる光のなか、5人の少女たちはいつものように汗を流していた。


練習後のスペースに敷かれたマットの上では、筋トレやストレッチ、体幹トレーニングが静かに、しかし力強く繰り返されていた。部活のあととは思えない集中力で、彼女たちは黙々と体を動かしていた。


「最初は静かだったけど、ちゃんと一人ひとりを見て声をかけてくれる。わたし、あの人好きだな」


ユキが素直にそう言って頷く。

まひろもその隣で、ぽつりとこぼした。


「練習メニュー、ちょっとずつ変わってきてるよね。前より、体幹とか柔軟のトレーニングが増えた気がする」


「うん。『チームトレノ式』、地味に採用されてる!」


リンが明るく笑いながら言うと、さちも照れくさそうにうなずいた。


「でも……わたしたちのやってきたことが、部全体に役立ってるって、なんだか嬉しいね」


空がまだ明るい帰り道。

5人の笑い声が夏の風に溶けて、毎日のように響いていた。


総体の舞台に立てなかった悔しさ。

その後に訪れた、小さな誇りと新たな責任。


それらが、5人の心と体に確かな火を灯していた。



数日後の土曜日。

恒例のチーム・トレノによる自主トレーニングの日。場所はリンの家のトレーニングルームだった。


ユキが考案した新しい体幹トレーニングメニューに、さちは悲鳴を上げていた。


「もう少し! ほら、あと10秒……9、8、7……」


「ひぃぃ……! これ、前よりきついってば……!」


「当たり前。慣れたメニューばかり続けても、成長止まっちゃうから」


ユキは涼しい顔でカウントを続ける。

隣ではハルが汗を拭きながら笑いをこらえていた。


さちは最後のレッグレイズを終えると、マットに仰向けになったまま息を吐いた。


「……ふぅっ」


Tシャツ越しにうっすらと汗をにじませたさちの腹部には、日々の鍛錬を物語るように、はっきりと腹筋のラインが浮かんでいた。引き締まっている、という言葉では足りない。力強さとしなやかさが共存するその体は、まさに積み重ねの証だった。


「さち、動きのキレ、また上がってるね」

プランク中のハルがニッと笑う。「その腹筋、こっちが焦るくらい立派だよ」


「泳いでても、体幹が安定してるのがわかる。軸がぶれないから、フォームも崩れにくい」

ユキも冷静に頷く。


マットの上で体を起こしながら、さちは静かに答えた。


「うん、自分でも分かる。前より、ぜんぜん動ける。力も、ついてきてるって実感あるんだ」


その言葉に、リンがすぐ反応する。


「それだよ、さち! 自分で変化を感じられるって、すごいことだよ。体って正直だから、やったぶんだけ応えてくれるの」


端で話を聞いていたまひろも、静かに立ち上がる。

その腕には、以前よりもはっきりと筋の通ったラインが見えた。

華奢だった体つきに、少しずつ“強さ”が宿っている。


周囲の笑い声や息づかいを聞きながら、まひろはふと目を伏せた。

最初はただ圧倒されていたこの輪の中に、いまの自分は自然と混じっている。

呼吸のテンポも、掛け声のリズムも、少しずつ馴染んできた。


――わたし、ちゃんと進めてる。


その思いが、胸の奥にあたたかな灯をともした。


「……わたしも、ちょっとは変われたかな」

ぽつりとまひろがつぶやく。


「腕立て、今日は一度も崩れなかった。最初は膝ついてたのに……」


「まひろ、すっごく努力してたもんね!」


ハルが笑顔で手を差し出す。


「一緒に、もっと強くなろう!」


「……うん!」


まひろは手を取り、しっかりと握り返す。その手には、もうかつてのような頼りなさはなかった。水中と陸上で育んだ、確かな力がそこに宿っていた。


少し間が空いたあと、ユキがぽつりと口を開く。


「そういえば、来週テスト範囲出るよね」


「えっ、もうそんな時期!? テスト勉強しながら練習とか……体力勝負だなあ」


「でも、どっちも手を抜きたくない。がんばろう」


「そのあと、小さな記録会があるって、澪先輩が言ってたし。そこも目指してみようよ」


夕陽が差し込む窓の外。

目を合わせた5人の目には、再びあの光が宿っていた。


――決して消えることのなかった、まっすぐで強い光が。


挿絵(By みてみん)

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