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絆のトレーニングノート After Six:走り出す未来  作者: たまに何かを書く人
第1章 新しい始まり

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第十節 バトンを受け継ぐ者たち

六月の最終週。

待ちに待った体力テストの結果が、ついに返却された。


さち、ハル、ユキ、リン、まひろの5人は、廊下の片隅にこっそりと集まり、それぞれの用紙を手にしていた。


「せーのっ!」


ハルの掛け声と同時に、5人は勢いよく結果の紙を開く。


「……よしっ!」「A判定だね!」


ハルとユキが自信たっぷりにうなずき合う。どの項目も余裕のA評価。2人は涼しい顔で結果を見せ合っていた。


「おぉ、リンもA?」

「うん、ギリギリだけど。間に合ってよかった!」


リンは小さくガッツポーズをつくり、にっこりと笑う。


一方で、さちとまひろの表情には、ほんの少しだけ悔しさが滲んでいた。


「また、ダメだったかぁ……あと1点だったのに」

さちが少し唇を噛みながらつぶやく。


まひろも静かにうなずく。


「うん……でもね、ここまで頑張って、こんなにいい結果が出たの、はじめてなんだ。……ほんとに、みんなのおかげ」


その表情には、悔しさの奥に確かな達成感と感謝がにじんでいた。


「私たち、ずっと一緒に練習してきたもんね」

「うん、さちもまひろもすごいよ。最初のころから比べたら、信じられないくらい成長してる」


ハルとユキの言葉に、さちとまひろも少しだけ笑顔を返す。


「来年こそ、全員Aになろうね!」

「うん、絶対に!」


5人は、お互いの手を重ねて小さく笑い合う。

その中で、まひろの瞳がきらりと輝いた。

そこには、次の目標へ向かう強い意志が宿っていた。



放課後、水泳部では全体ミーティングが行われていた。


教室にはすでに顧問の西園寺先生と部長の瑞希が来ており、黒板には「今後の予定」と「今日の議題」が大きく書き出されている。


西園寺先生は椅子に座り、腕と足を組んで目を閉じている。(決して寝ているわけではない)


部員たちが続々と集まり、全員が着席したところで、瑞希が前へと出て話し始めた。


「みんな、先日の県大会、おつかれさまでした。結果は……悔しかった。でも、私たちが目指してきたものは、ここで終わるわけじゃないよね」


教室を見渡す真剣なまなざしに、部員たちが自然と引き込まれていく。


「これからは、みんながその想いを受け継いで、次のステージを目指していってほしい」


その言葉に、5人を含む部員たちは小さく、でも力強くうなずいた。


「今日は、七月からの新しい部長を紹介します。そして、これからの活動方針について話します」


隣に立っていた2年生の先輩が、一歩前へと進み出る。制服の前を正し、落ち着いた声で話し始めた。


「2年の、岸本澪きしもと みおです。七月から、水泳部の部長を務めさせていただきます」


名前と顔は、すでにほとんどの部員が知っていた。けれど、こうして正式に紹介されるのは、これが初めてだ。


「しばらくは瑞希先輩の隣で、引き継ぎを受けながら学んでいきます」


軽く一礼してから、彼女は言葉をつなぐ。


「今回の総体では、私たちは悔しい結果になりました。でも、私はこのチームで、もっと上を目指したい。先輩たちがつないできた想いを、次へつなげていきたいと思っています」


言葉のひとつひとつに、まっすぐな覚悟が宿っていた。部員たちの表情も自然と引き締まり、澪の姿を真剣に見つめていた。


(私たちも……もっと強く)


さちは胸の奥で、ひとつの火が灯るのを感じていた。



ミーティングの終盤、西園寺先生が立ち上がり、教室をぐるりと見渡して言った。


「よし。今度は、お前たち1・2年の番だ。先輩たちがつないできたものを、しっかり受け継ぐんだぞ」


「はいっ!」


教室に、力強い返事が響き渡る。


ミーティングが終わり、部員たちが教室をあとにしようとしたとき、西園寺先生が声をかけた。


「ハル、ユキ、さち、リン、まひろ。ちょっといいか」


名指しされた5人は顔を見合わせ、教卓の前へと集まった。そこには、すでに新部長の澪が立っており、穏やかな笑顔で5人を迎える。


「来てくれてありがとう。これから、よろしくね」


そう言ってから、表情を少し引き締めた。


「実は、お願いがあるの。今後の水泳部の練習を、もっと良いものにしていきたいと思っていて……。みんなが放課後にやってるトレーニングのこと、もう少し詳しく教えてくれないかな?」


「えっ、わたしたちの……?」


驚いたように口をそろえる5人。


「うん。瑞希先輩から、みんなの話は聞いてたの。すごく興味があるし、できれば練習メニューに取り入れていきたい」


西園寺先生もうなずく。


「お前たちの積み重ねは、しっかりと結果に出ている。上を目指すなら、練習の質を高めることが必要だ。協力してくれると助かる」


顧問の表情は、真剣そのものだった。


5人は視線を交わしたあと、自然と表情を引き締めていく。


「……わかりました。私たちでよければ」

「はい、ぜひ」

「よろしくお願いします!」


5人の返事に、澪はうれしそうに微笑んだ。


こうして、新しい水泳部の体制が静かに動き出した。

責任と希望を背負い、5人の挑戦もまた、新たな一歩を踏み出した。


窓の外には、夕陽に照らされた入道雲。

湿った風に混じって、かすかに夏の気配が漂いはじめていた。


――季節は、六月から七月へ。

少女たちの物語も、次の季節へと進もうとしていた。


挿絵(By みてみん)

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