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生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてるんですか? 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄  作者: 風間レイ
二章

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お披露目会の裏で事件は起こる  2

「何かあったのか?」


 アーチもこれは知らなかったみたいね。


「王宮魔道士部隊の様子がおかしいのよ。やたらおとなしいというか、魔道士たちの姿を王宮内で見なくなったの」


 長老が排除されて、地方に飛ばされていた魔道士が呼び戻されたのよね?

 遊んでいた魔道士たちもクビになって、組織を大変革したんじゃなかった?


「他の部隊に移動した魔道士もいるから、だいぶ人数が減って少数精鋭部隊だなんて言ってはいたんだけど、どうも王宮には数人しか残っていないようで、仕事を依頼したくても誰もいないこともよくあるし、他の部署ともいっさい関わっていないようよ」

「おかしいな。事務仕事をする魔道士くらいはいるはずだろう」

「その事務仕事の人達も、隊員が何をしているか答えられないんですって。そんな話を聞くようになっていたところに、ダンジョンを妨害する動きがあったって聞いたから、念のために話しておきたくて。でもこれだけじゃ追及は出来ないでしょう」


 無理矢理結び付けていると言われてしまうでしょうね。

 魔法陣を常駐勤務の団員たちに渡すくらいはひとりで充分だから、全員が王宮にいない理由にはならないわ。

 でも気にはなる。


「グレン」


 信頼できる護衛の魔道士に、ここは働いてもらいましょう。



「王都に行って出来るだけ早くフィンリー王宮魔道士に接触してくれない?」

「アメリア様の誘いを断った事務係ですね」

「王宮魔道士部隊が生まれ変わるなら王宮で働きたいと思うのは当然のことよ。彼なら何が起こっているか知っているかもしれないわ」

「承知しました。シンディー、あとはたのんだ」

「まかせて」

「面倒だったらフィンリーを連れて帰ってきます」

「乱暴は……」

 もう転移しちゃったわ。警護の仕事を抜けさせたのはまずかったかしら。

 会場には多くの警備がいるしお父様もいるのだから、急がなくていいからね。

フィンリーに迷惑をかけないでよ?


「それは王宮の人間も知っているのか?」

「留守にしていることは知っているわ」


 アーチがロザリンドと話し始めたので、私はそっとユーグに近付いた。

 王太子付きの部隊の隊長だというのに、最近は王宮にいることが多いみたいね。


「なに? いつのまにかロザリンド付きの近衛騎士になったの?」

「違う。殿下に命じられて王宮内の様子を見回っているだけだ」


 確かに王太子付きの制服のままだし、ロザリンドの護衛はあちらに待機していたわ。

 私がそちらを向いて手招きしたら、ほっとした顔で距離を詰めてきた。

 王太子や私の護衛が周りにいるせいで、無理に近付いたら揉めそうで困っていたんでしょうけど、そこはずうずうしくいかなくちゃ。


「ちょっとこっちに来て」


 ユーグを引っ張って王族兄妹と離れた。


「ロザリンドに告白した?」

「……関係ないだろう」

「まだか」

「うっ……」


 これはまずいかもしれないわ。

 ダンおじ様は近衛の様子を見に王宮に顔を出しているでしょう?

 ユーグが告白する前に、ロザリンドにあってしまうかもしれないわ。


「ダンおじ様はもうユーグが誰を好きか知っているわよ」

「はあ!?」

「放っておくと余計なことを言いかねないわ」

「なんでそんなことになっているんだよ」

「こっちもいろいろあったのよ」


 話が長くなりすぎて説明する時間がないのよ。

 もう指定の位置に行かなくちゃいけない時間だわ。


「頑張ってね」

「何をどう頑張れって?」

「ダンおじ様に余計なことを言われる前に、あなたからロザリンドに話せばいいのよ」

「他人事だと思いやがって」


 でも私からロザリンドに話すのは駄目でしょう。

 かといって、ユーグはまだ告白できなくてうだうだしているってダンおじ様が知ったら、ますますロザリンドに絡みに行きそうだわ。


「なんでこんなことに……」

「ダンジョンが成功したら、我が国との関係強化を望む国は増えるわよ。そうしたらロザリンドへの縁談もたくさん舞い込んでくるんじゃない?」

「しょうがないだろう。彼女は王女なんだ」

「へえ」


 しょうがないで諦められる恋なんだ。


「習慣も環境も違う国にたったひとりで嫁いで、家族とも友人とも二度と会えないかもしなくなるというのに、しょうがないで済ませるやつではロザリンドは守れないわね」


 ふいっとユーグに背を向けて彼から離れ、こちらを見ていた王族兄妹の元に戻る。

 私だったらどうするだろう。

 会いたくても家族には滅多に会えない遠い土地に行って、言葉も習慣も違う人たちの中で生きていくの。

 しかも政略結婚で、夫になる人がどんな人なのかもよくわからない。


 ……無理。とても考えられない。

 もっとロザリンドと話したいけど、もう時間がないわ。


「私はもう行かなくちゃ。すぐに王宮に会いに行くわ」

「約束よ。待っているからね」


 もう一度手を取り合ってから彼女の横を通り抜け、カーテンを捲って会場に足を踏み入れた。

 バックヤードから人が出てきたくらいでは、誰も気にしない。

 でもその人間が、英雄コールリッジ公爵の隣の席に腰をおろしたら話は別よ。


「どこに行っていたんだ?」


 お父様がこちらに身を寄せて話しかけてきたので、一気に視線が私に集まってきたわ。


「ロザリンドが来てくれていたんです」

「ほお」


 お父様もロザリンドにはやさしいのよ。

 王子たちには厳しいのにね。


「また魔道具をつけていないんだな」


 魔道具?

 ああ! 魔力を隠す魔道具をつけてくるのを忘れた!


「お母様が持って行ってしまったままでした。取りに来てって言われていたのに忘れてた!」

「もうそのままでいいんじゃないか?」

「昼食会ではつけるようにします」


 強い魔力をひけらかすのって、こっちはこれだけの戦闘力があるんだぞって脅しているみたいじゃない?

 それは失礼だし、品がないと言われることなのよ。

 私の場合は、強力な魔法は生活魔法しか使えないから、誰もこわがったりはしないと思うけど、でもやっぱり主催者として気配りは大切だわ。


「それではお披露目会を始めます」


 会が始まり、お父様とカルデコット辺境伯の挨拶の間も、私のほうを注目している人がいるのを感じて居心地が悪かった。

 自分でも驚くくらいに魔力が強くなっていたから、特に各貴族の騎士団や魔道団の団員は噂との違いに驚いているでしょうね。


 これで私が噂とは違って攻撃魔法まで使えるとなったら、国内の戦力バランスが大きく変わってしまうもの。

 ましてや、王太子が王位継承権を捨ててコールリッジ公爵家の婿養子になったら、うちの戦闘力がやばいことになってしまう。

 大丈夫よ? 私は噂通り生活魔法しか使えないわよ?


「そろそろ中の様子を見に行きますね」

「ああ。私は最初に中を見学するグループと一緒に行く」


 挨拶が終わったので、椅子に座ったまま身を寄せてお父様と言葉を交わしただけなのに、会場がざわりとどよめいた。

 え? なにごと?

 お父様はまったく気にしていないようなので、私も気付かない振りでお父様に笑顔を向けて立ち上がり、ダンジョン入口の建物に向かう。


「コールリッジ公爵とアメリア様が言葉を交わしている姿を見るのは、みなさん初めてなんじゃないですか?」


 すぐに傍らに歩み寄ってきたシンディーに言われて気付いた。

 そう言えばそうだわ。

 王宮では言葉を交わすどころか一緒に行動したことすらないんだった。


「ここまで注目されるなんて思わなかった」


 でも嫌な視線ではないのよ。

 敵意を向けてくる人はいないの。

 他の貴族の魔道団の団員たちは、もしかしたら馬鹿にした表情をしてくるかもしれない。

 そうしたらお父様や英雄公爵が怒って、騒ぎになるかもって心配していたのに、まったくそんな様子はなかったわ。

 魔道具を忘れてきて正解だった。


「異常はないようね」


 階段を降りてダンジョン内の広場に行くと、うちと辺境伯家の騎士と魔道士がすでに持ち場についていた。


「もう見学客がくるのか?」


 奥から仲間と出てきたヒューが笑顔で話しかけてきた。

 彼が明るい表情だということは、すべてうまくいっているということね。


「そうね。順番に入ってくるわ。帰りは魔法陣で昼食会の会場に移動するから、案内をよろしくね」


 大変なのは午後からよ。

 魔獣との戦闘経験のない貴族の騎士や魔道士が、ダンジョン内で戦えるのか心配だわ。

 貴族たちとしては、自分の領地にもダンジョンを作れる可能性を模索したいでしょうし、自分の騎士や魔道士の強さを見せつけたい気持ちもあるから、一番奥まで進むように命じていると思うのよ。


「言うことを聞かない人間がいたら、今日ばかりは英雄公爵家の息子だということを最大限に活用してね。転移用の魔法陣も多めに渡しておくから、問答無用で転移してしまってもいいわよ」

「心配すんなって。コールリッジにはダンジョン経験者がたくさんいるじゃないか。彼らも配置してるんだろ? フォローに入るから大丈夫だよ」


 そうだといいわね。

 でも、自分たちで倒した魔獣の素材は全て持ち帰れることになっているから、張り切っちゃう人もいそうだなあ。

 うちの国には今までダンジョンがなかったから、高く売れるのよ。


「ここのダンジョンは地下五階でも狩りやすい魔獣が多いから、悲惨なことにはならないさ。それに、地下にもっと階層を増やせるってことでもある」

「大きくするとしても、それはかなり先の話よ。まだ国も周りの町の人もダンジョンとの付き合い方がわからないでしょ」

「そうだな。他の貴族もダンジョンを造りたいと言い出すだろうし、英雄公爵たちもいつまでものんびりと領地に引っ込んではいられないんじゃないか? あ、始まるみたいだ」


 最初のグループがダンジョンに入ってくるようで、入口周辺が賑やかになってきている。 

 貴族たちはダンジョン内部の風景をどう感じるのかしら。

 鍾乳洞のような壁と天井は照明もないのに淡く光っているので、歩くのにはいっさい苦労しない。

光る花と混じって生えている形の違う草は、実は高価な薬草だったりする。


 意外と湿っぽさはないけど閉塞感があって薄暗く、ときおり遠くから聞き慣れない咆哮が響いてくる。

 入口で引き返す人もいるかもしれないわ。


「入場者のチェックは念入りにね。行方不明者が出たら大変よ」


 係員に注意してから、私はカウンターの後ろの部屋に移動した。




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