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生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてるんですか? 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄  作者: 風間レイ
二章

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ご令嬢に擬態してお茶会に参加しよう  3

 常駐部隊の問題が発覚した日以降は異常が発生することはなく、ダンジョン作成はようやく軌道に乗り、お披露目会は予定通りに行えることになった。


 私の魔力が噂とは違って強いことも、魔法陣に関してはお父様よりも詳しく、発言力があり意見が尊重されている場面も多くの人が見ていたため、あっという間に悪い噂は払しょくされた。

 それは喜ぶべきなんだけど……。


「コールリッジ公爵家の長女は父親の公爵にも王太子にもはっきり意見を言い、むしろ彼らより立場が強そうだ」

「おとなしそうな人かと思っていたら、実はこわい人なのかもしれないな」

「いやあ、王太子妃になる人がやさしいだけでは困るだろう」


 と、すっかりやり手のこわい女性だというイメージになっているらしい。

 印象が変わり過ぎでしょう。


 お披露目会の前日、私はお父様に呼ばれて書斎を訪れた。

 子供だった頃は、窓を背にして置かれた黒い机と椅子も、そこに座るお父様もとても大きく見えて、この部屋に入るたびに自然と背筋が伸びたものよ。


 今でも無意識に姿勢を正してしまうけど、もうお父様の弱さも駄目なところもわかっていて、でもやっぱり私にとってお父様は偉大な魔道士で、尊敬する父親だわ。


「ここ何日かいろいろとあって、私がいかに父親として、あるいは公爵として、いたらない人間なのかを痛感したよ。アメリア、すまなかった」


 机の向こうで疲れた顔で頭を下げるお父様を見て、なにより先に感じたのは不安だ。

 お父様がこんなに弱々しく見えるなんて、体調が悪いんじゃない? って。


「アーチの言うとおりだ。私もコリンナもアメリアが傷つく姿を見たくないばかりに、外の世界から遠ざけてしまっていた。本当はアメリアは強い子だとわかっていたのにな」

「お父様……そんな、頭をあげてください。私は今までの生活に不満なんてないんです。魔法陣の勉強を好きなだけ出来て、魔道団で訓練をして、毎日が充実して楽しかったんですよ」

「だが、普通の令嬢の暮らしをさせてやらなかっただろう?」


 たしかにそうだけど、でも私はこれでよかったと思っているの。

 もちろん今のままではこれからは駄目よ。

 でも社交界には出られなかった代わりに、普通のご令嬢には出来ないことをいろいろ経験できたのも事実だわ。


「それはこれから経験すればいいじゃないですか。たしかにちょっと偏り過ぎた生活をしていたかもしれませんけど、今までの経験はきっとこの先も無駄にはならないと思います」


 机に腰がぶつかりそうなほど近付いて力説してしまった。

 お父様が肩を落としている姿なんて見たくないわ。


「例の常駐部隊の隊長の件はどうなったんですか? 予想以上に大きな問題になっているのなら、手伝えることがあれば何でも言ってください」

「いや、それはもう決着がついている」


 あれ? そうなの?

 じゃあお父様が落ち込んでいるのは、私の問題だけのせい?


「あの男のまずいのは、自分は全ての人間にとってプラスになることしかしていないと思っていることだ。最初は近所の人間から息子が騎士団に入団したいと言っていると相談を受け、ちょうど人員に余裕があったから訓練生として入団させたら、親からも本人からもたいそう感謝されて、気分がよかったんだろうな。どうせ本部は常駐部隊の人員に興味などない。入団試験や身元確認で時間を取られるより、今すぐに人員がほしいのだから問題ないだろうと考えたんだ」

「それでは諜報員が入団するかもしれないじゃないですか」

「自分の知り合いの息子なら問題ないと思ったそうだ。そうして何人か入団させたら、すっかり地域の人々に頼られるようになって、発言力も増えて、その立場を手放せなくなっていたんだな」


 隊長は騎士の養成所で訓練を受け、礼儀作法や知識を身に着けたれっきとした騎士なのよ。

 騎士と認められれば騎士爵になれる。

 平民出身の騎士は制約が多いけど、それでも貴族になれるのよ。

 それを本部に連絡もしないで入団させて、騎士の制服を与えていたなんて。


「給金はどうしていたんですか? 騎士の給金は平民からしたらかなりの額ですよね?」

「訓練生の給金額を支払っていた。だが、本部には騎士として届け出ているから差額が生まれる。それは別の名目にして使わずにおいていたらしいんだが……どうしても金が必要な時に手を付けてしまって、いつのまにか当たり前のように使い込んでいたそうだ」

「横領じゃないですか」


 全ての人間にとってプラスになんてなっていないわよ。

 ただの犯罪者よ。


「そうだ。四年ほど前から横領を繰り返していたから、かなりの金額になっている。公爵家にとってはたいした額ではないが、だからといって不問には出来ない。彼は罪に問われ、二度と家族の元へは帰れないだろう」

「それは……しかたないことですわ」

「私が領地を放置しておかなければ、こんなことにはならなかったかもしれない」


 ああ、それで自分を責めていたのね。

 古い付き合いの隊長が、こんな形で裏切っていたことは衝撃でしょうし、自分に原因があるのではと思っているんだわ。


「お父様、確かに私たちが領地を放置していたのはいけないことですわ。でも、それは犯罪を犯していい理由にはならないんです」


 机をぐるりと回ってお父様の隣に行き、そっと肩に手を置いた。


「知り合いの息子であろうと、入団試験を受けさせて、実力がないなら訓練させればよかったんです。本部からも領地には部隊を派遣していましたし、ケインは二か月に一回はこちらに顔を出していたはずですよ」

「そうなんだが……王都から派遣される部隊と常駐部隊はほとんど交流がなかったんだ。どうせ半年もしないうちに顔触れが変わるし、平民の俺たちを下に見ていると常駐部隊の者は考えていたんだな」


 それでも隊長なのだから、きちんと報告はしなくてはいけないでしょう。

 問題があるのならケインに相談するべきだったのよ。


「本人は自分が不正に入団したことを知らないだろう? だから王都の部隊に移動したいと要望を出してくる。あるいは騎士には礼儀作法やある程度の知識がいるとどこかで聞いてきて、どうなっているんだと問い詰めてくる。でも答えられないまま放置していたら、騎士たちは本部が自分たちをないがしろにしていると勘違いしたんだ」

「それでダンジョン作成の妨害を?」

「そうだ」


 そんなの意味がないから。

 ダンジョンが出来たら町が豊かになって、彼らの家族だって豊かになる可能性があるのに、不満だから妨害するって子供か!


「成功したらまとまった報酬が約束されていたんだ。それを持って王都に行こうと考えていたそうだ」

「報酬がもらえる保証なんてないんですよね。相手がどこの誰か知らないんでしょう?」


 お父さんは黙って頷いたのち、大きなため息をついた。

 つられて私もため息をついてしまったわ。

 なんて浅はかな……。


「あの時、態度の悪かった男がいただろう?」

「私を馬鹿にしていた彼ですね」

「平民なので勉強をしたことがなく、体が大きいので力仕事をしていて、近所では強いと有名だったそうだ。簡単に騎士にもなれて自分はすごいと勘違いしていたのに、いつまで経っても王都に移動できない。それなのに貴族の娘だからと出来損ないが偉そうにしているのが気に入らなかったそうだ」

「何もわかっていなかったんですね」

「ああ、キャメロンに全く歯が立たなくて、そんな弱いのに騎士になれると思っていたのかと言われて、すっかり心が折れていた」


 キャメロンはうちの騎士団の中でも、最強の騎士ですからね。

 ダンジョンで魔獣相手に何度も戦っている騎士と、町で強がっていた平民の子供では次元が違うでしょう。


「お父様、今回の犯罪に加担した者達は仕方ありませんけど、他の人達の中にまだ騎士になりたいと思う人がいるのであれば、改めて騎士になるための訓練を受けられないでしょうか」

「素質のある者はすでにキャメロンたちがスカウトしている。それ以外の者には他の仕事を斡旋する」


 よかった。

 彼らも彼らの家族も、まさか不正に関わっているとは思わなかったでしょうから、クビにして終わりでは気の毒だわ。


「私も親として反省するべきところがあったが、それは子供が大切だからだ。彼らの親も子供の将来を思って行動しただけだからな。甘いかもしれないがチャンスを与えようと思う」

「そうですね。甘いですね。でも私はそんなお父様が大好きです」


 背もたれの後ろに立ち、お父様の首に手を回して抱きついた。

 平民の子供のことなんてと気にかけない貴族は多いだろう。


 でも英雄と言われても人間臭くて、弱いところも駄目なところもあって、優しくて驕らないお父様が大好きよ。

 お父様に性格が似ているって言われるのは、やっぱり褒め言葉だわ。


「……アメリア、いくら相手が王太子でも無理に結婚することはないんだぞ。娘の一生がかかっているんだ。こればかりは、たとえ王族相手でもきっちり話をさせてもらうから心配するな」

「無理じゃないわ。英雄公爵の相手をするのよ? アーチくらい肝が据わっていないと無理でしょう? それに私のことを理解してくれているし、大事にもしてくれているの」

「あいつはガキの頃からつきまとって、うざいんじゃないか?」

「だからね、今後も心変わりしないで大事にしてくれそうでしょう?」

「当たり前だ。アメリアを泣かせたら、この国を亡ぼすぞ」


 冗談に聞こえないからやめてね。

 英雄公爵たちが本気になったら、王家が終わりそうよ。


「エメラインもルイスと話し込んでいた。……あの子も家を出て行ってしまうのか」

「出て行かないわよ。少なくとも私かエメラインのどちらかは、家を継ぐのよ。結婚して子供が出来たら、今より賑やかになるわよ」

「そうか……孫か……」


 ……うちの両親は孫を甘やかしそうね。

 注意しないと、とんでもない性格の子供になりかねないわ。

 でも、少しはお父様の顔つきが明るくなってよかった。

 アーチとのことも認めてくれそう。



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