ご令嬢に擬態してお茶会に参加しよう 1
常駐部隊の状況を知ったお父様は思うところがあるようで、反省モードに突入して静かになってしまった。
私やアーチからもいろいろと言われていたところに、あんなことが起こってしまったじゃない?
それにダンジョンの異常が、私に指摘されるまで人的問題だと気付かなかったのも大きいみたい。
魔法陣に関しては、私の研究は世界一進んでいるらしいの。私は知らなかったけど。
他国でダンジョンの問題が起こるとすぐにお父様に声がかかるのは、お父様とうちの騎士団や魔道団が強いからというだけではなくて、対処できる魔法陣がうちにしかなかったからなのね。
でも今回の騒ぎで、ダンジョンに影響を与えるほどの魔力を供給できる魔法陣を、他にも開発している人が、しかも十年も前にいたことが発覚したでしょう?
そうなるとエレンゲン高原のダンジョンも、人工的に造られたものだという可能性が高くなってくる。
では誰が? なんのために?
一気に状況が変化して、それも考えこむ原因なんでしょう。
仕事はきっちり過ぎるくらいにやってくれているのよ。
常駐部隊や隊長の事情聴取もダンジョンの整備も、そして魔法陣の調査も、私が手伝う隙もないくらいに動き回っている。
「アメリアはお茶会や国王の誕生日会の準備があるだろう。気にしないで楽しんでおいで」
こんな大変な時に出かけるのは気が引けるけど、お茶会はドリーンが私のために、何日も前から準備してくれていたのに行かないわけにはいかないし、王都の様子も気にはなるので、ここはお父様に甘えておまかせすることにした。
地味なサンドベージュの髪はきらきらと光を反射する可愛い髪留めでカバーし、同じく可愛いデザインのアクセサリーにドレスはシンプルイズベスト。
ひらひらは似合わないので刺繍メインのデザインで、背が高いのだから踵の低い靴を履いた。
ほんのりお化粧をして鏡の前に立ち、右を見て左を見て一周回って。
「公爵令嬢に見えるかな」
「見えなくてもお姉様は公爵令嬢だから大丈夫よ」
「見えないの?」
「見える見える」
エメラインに呆れられても、緊張してしまって何かしていないと落ち着かないのよ。
ひさしぶりに戻った王都の屋敷から馬車に乗ってフェアバーンズ公爵家に向かう間も、そわそわしていてエメラインに叱られたわ。
初対面の人達に会ってお話をするのって不安じゃない?
何を話せばいいの?
やっぱりつまらない人だったと思われたらどうしよう。
「私たちが最後だからね」
「ええ、身分が高い人は遅めに行くのよね」
急に公爵家になったうちとは違って、フェアバーンズ公爵家は王都に広大な土地を所有しているので、門から正面玄関に続く庭も馬車を停める場所も、何もかもが広々としている。
こんなところで醜態をさらさないように、ゆっくりと馬車から降りると、出迎えの人がすぐに案内をしてくれた。
歴史のある屋敷は重厚感があるというか面構えが違うというか、調度品や花瓶に飾られている花まで特別製という感じがするわ。
王宮で慣れているはずなのに、今日のほうが緊張してしまって手が震えてしまいそう。
「アメリア、エメライン、来てくださって嬉しいわ」
「ドリーン、お招きありがとう。いつ来てもこのお屋敷は素晴らしいわね」
「ありがとう。さあ、こちらに座って。みなさんに紹介するわ」
「ま、眩しい」
「え」
庭にせり出すように作られたテラスに用意された白いテーブルと椅子に、可愛らしい御令嬢が四人も座っていた。
セレストは知っているけど、他の三人は初対面よ。
「お姉様?」
「みなさん、可愛らしくて華奢でエレガントで、むさい騎士団や魔道団の団員とばかりすごしている私には眩しいわ」
中庭に咲き誇る花々を背景にしても、みなさん少しも負けていないわ。
いい香りがして、華やかで……私だけ浮いていない? 大丈夫?
「こんな可愛らしい方たちが防御魔法の結界も張らずにいては危険よ。身を守る魔道具を持参するべきだったわ」
「……うちの姉は変わっているんです。お気になさらず」
え? それはひどくない?
ああ、護衛がいるから大丈夫なのね。
こんな可愛らしいお嬢さんたちだもの。ご両親がそのあたりはしっかり考えてくださっているわよね
「魔道具? アメリア様は魔道具を作れるんですか?」
「興味あります。しつこい殿方に困ることがあるんです」
「護衛が傍にいられないこともあるんですか?」
「あります。相手のほうが身分が高い場合、侍女を下げろと言う人もいるんですよ」
「それはいけないわ。エメライン、うちでお茶会をやる時には、みなさんに魔道具をプレゼントするのはどう?」
材料ならいろいろ揃っているから大丈夫よ。
すでに防御用の魔道具もあるんでしょうけど、たいていの魔道士は性能ばかりを追い求めて見た目を気にしないのよ。大きかったりね。
それでは大きなカバンを持たないご令嬢は、使いにくくて買わないわ。
「それは帰ってから考えましょう。ここで考えないでよ」
「アメリアはあいかわらずなのね」
「でもそこがアメリアのいいところよ。コールリッジ公爵家のお茶会は、きっと大人気になるわ」
セレストとドリーンがそう言ってくれてほっとした。
今のところ、問題なくみなさんとお話し出来ているようだわ。
「セレスト、会えて嬉しいわ。元気そうね。マシューと一緒に遊びに来てくれればいいのに。ルイスとヒューはずっとうちの領地にいるわよ」
「そうなんだけど、そちらも忙しいでしょう? お邪魔になるのではないかと思ってしまって」
しばらく見ないうちに、また可愛くなったんじゃない?
恋する乙女は本当に綺麗になるのね。
ということは、あまり変わり映えのない私やエメラインは、恋をしていないのかしら。
……そもそも私たちは、乙女というタイプではないわね。
「アメリアもとても綺麗よ。ドレスがよく似合っている。それも王太子殿下のプレゼント?」
「違います」
「まあ、やっぱりアメリア様と王太子殿下はとても親しいんですね」
「殿下はアメリア様に夢中なんでしょう? 素敵だわ」
あのみなさん、違うって答えたんですよ? 聞いてます?
確かに親しくさせていただいていますけど、こんなふうに自分のことを話題にされたことがないから、どんな反応を返せばいいかわからなくて困ってしまうわ。
「まあまあ落ち着いて。時間はあるのだからゆっくり話しましょう。アメリアが真っ赤になってしまっているわ」
「ま、真っ赤になんてなっていないわ」
「うふふ。みんな、あなたとお話をしたいと思っていたんですって。聞きたいこともたくさんあるそうよ」
ドリーンの言葉に頷いて、ほてった頬を手で隠して椅子に腰を下ろす。
ドレスは座る時も気をつけなくてはいけないのよね。
姿勢よく、でもエレガントに。
「ん?」
視線を感じて顔をあげたら、御令嬢たちが期待に満ちたまなざしで私を注目していた。
ドリーンが集めてくれた御令嬢たちだから、コールリッジに好意的な方達なんでしょうけど、それでももっと御令嬢ってよそよそしい雰囲気だろうと勝手に想像していたのは間違いだったみたい。
「私、アメリア様が魔法をお使いになる日には、王宮に行って見学させてもらっていたんです。光る線で描かれた魔法陣が空に並ぶ様子が美しいんですもの」
「わかりますわ。あんなにたくさんの魔法陣を巧みに操るなんて素晴らしいわ」
意外なことに、魔法陣が大好評だった。
魔法を使わない彼女たちからしたら、邪道かどうかなんてどうでもいいのか。
それは嬉しい。社交辞令でもかまわないくらいに嬉しいわ。
「王宮魔道士やグレンダがひどいことを言っていたせいで、アメリアは自分の魔法はたいしたことがないと思っているのよ」
「そうなのよ。生活魔法は役に立たないなんて言うの。ひどいわよ」
「ドリーンもエメラインもそんな話はやめましょう」
せっかくだから楽しい話をしましょうよ。
ダンジョンの話は……駄目ね。
じゃあ……何を話せばいいのかな。
「まあ、なんてこと。王宮が美しい姿を保っていられるのはアメリア様のおかげなのに」
その話、続いてしまうの?
魔法の話なんて御令嬢はつまらないのではないの?
「攻撃魔法が重要なのはわかりますけど……こわくありませんか? 怒らせたら攻撃されるのではないかと緊張してしまいます」
私もいちおう攻撃魔法は……と言いかけたけど、エメラインに睨まれたので言葉を飲み込んだ。
「そ、そんなに魔法陣に興味を持っていただけているなんて思ってもみませんでしたわ。よかったらご覧になりますか? ライトの魔法なら少し周りが明るくなるだけですから」
「見せていただけるの!?」
セレストが一番に食いついてくるとは思わなかったわ。
他の方達も興味があるようなので、空中からいつもより小型のファイルを取り出す。
「え?」
「まあ」
これだけで驚いてくれるなんて、新鮮だわ。
私の周りは魔道士だらけだけど、全国民の中で魔法を使えるのはほんの一握りの人達なのよね。
「少々お待ちくださいね。シンディー、ちょっと手伝って」
離れた場所に他の方の侍女や護衛と控えていたシンディーに声をかけ、立ち上がってファイルを開いた。
家族の誕生日や英雄公爵たちが集まった時に、魔法を使って部屋を飾り付けて華やかにするのが好きで、実はいろいろと魔方陣を常備しているのよ。
「あなたはこれとこれをお願い。展開させた後に同時に発動しましょう」
「了解です」
御令嬢方が座っている場所を挟む位置でシンディーと向き合って立ち、いつものように空に魔法陣の描かれた紙を放り投げる。
軽く投げただけでも紙はふわりと舞いあがり、上空に光る線で描かれた魔法陣を残して消えていく。
ダンジョンに持ち込まれた魔法陣だと、紙が一部残ってしまったり、魔法陣の線が光らなかったりするだろうけど、私の魔法陣はそんなことは起こらないわよ。
「綺麗」
「夜だったらもっと綺麗でしょうね」
魔法を見世物にするなって怒る人がいるでしょうし、その気持ちも理解できる。
でも魔法を使えない人たちが魔道士はこわい人達なんだって思わないように、こういう魔法の使い方をしてもいいんじゃない?
魔法で誰かを幸せな気持ちに出来たら、それは素敵なことだわ。
「ライト」
シンディとタイミングを合わせて魔法を発動すると、小さな丸い光がいくつも空中に浮かび、色を変えながらふわふわと漂い始めた。
互いにくっついたり離れたり、生き物のように動き回る淡い光は、日差しの中では目立たなくて儚げだ。
空を舞う小さな光を、御令嬢たちは飽きもせず楽しそうに見上げている。
「素敵……」
「色まで変えられるのね。ひとつ持って帰りたいわ」
「魔力がなくなると消えてしまうの」
「まあ、残念」
喜んでもらえたようでほっとして、自分の席に戻ってようやくお茶に手を伸ばした。
少しは緊張がほぐれたみたい。
「あの、いつもお城をお掃除する時に使う魔法陣がとても素敵で、あの形の魔道灯か飾りを部屋に置きたいのですけど、そういう物は作る予定はないのでしょうか」
ええ? 魔法陣の形の魔道灯?
そんな物がほしい人がいるの?
「それ、いいわね。お姉様、事業にしましょう」
「私も出資させて」
エメラインが乗り気になるのはまだわかるけど、セレストまで!?
さすがに実際に使っている魔法陣をそのままはまずいけど、アレンジすればできなくわないわ。
でも買う人なんているの?
「どうせなら、心を落ち着ける香りがするとか、就寝中に身を守ってくれる魔法が発動するのはどう? 高く売れるわよ」
「さすがドリーン。ここにいるメンバーで店を持つのもいいかもしれないわ」
「エメライン、簡単に言わないで。確かに楽しそうだけど」
それも一種の魔道具よね。
実用的な魔道具ばかりしかないから、遊び心のある可愛い魔道具があってもいいかもしれない。
女の子は喜びそう。




