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生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてるんですか? 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄  作者: 風間レイ
一章

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28/30

区切りの日の夜  3

「確かにアーチは、挨拶みたいにお姉様を口説いていたわね。ありがたみが薄れてもしかたないわ」

「やっぱり? そうよね。さすがエメライン」

「だってユーグなんて、ロザリンドと目が合うだけでも意識しちゃって、いまだにまともに会話もできていないじゃない」


 ええ!? ユーグってロザリンドが好きだったの!?


「俺に流れ弾を飛ばすな! ほっとけ!」

「うそ! まったく気付いていなかった」

「お姉様、鈍すぎるわ」


 まあ、なんてこと。そういう楽しい話はちゃんと教えてよ。

 最近面倒ごとばかりでうんざりしていたんだから。

 いいんじゃない? 公爵家嫡男なら王女の結婚相手として申し分ないでしょう?


「俺がいつも態度で示していたのは、他の男をけん制するためだ」


 まだ話が続いていたのね。

 他の男って誰のことよ。

 私は生まれてこの方、ただの一度だって殿方にモテたことなんてないと自信を持って断言できるわよ。


「だからそれは、俺が牽制していたからだ」

「まあ、アーチが邪魔していたってこと? いったい何の権利があってそんなことをするの?」

「婿養子になれば次期公爵になれるんだぞ。大勢の男が狙うに決まっているだろうが! 中にはろくでもないやつが、ろくでもない計画を立てて関係を持とうとしてくることだってあるんだ」

「次期公爵になるのは私よ。婿養子になっても公爵にはなれないわよ」

「問題はそこじゃない」


 そんなことはないわ。そこは譲れないわよ。

 それに私に近付いてくる男を追い払う役目を、王太子がする必要なんてないでしょう?


「そう言われても、私は公爵家の娘として領地を豊かにする役目があって、あなたは王太子としての役目がある。お互いに自分のやるべきことをやりましょうとしか言えないわ」

「つまり俺は、まったくそういう対象として見られていなかったということか」


 見ていなかったわけじゃないけど、さっきも言ったように互いの立場があるから、そういう関係にはなりようがないと思っていたんですもの。

 アーチは人気があるでしょ?

 これ以上、御令嬢方に敵を作りたくないというのもあるしね。


「ともかく今は領地のこととダンジョンのことで頭がいっぱいなの」

「さすがにアーチが気の毒になってきた」


 ユーグはアーチのことより自分のことを考えたほうがいいのではないかしら。

 他国から縁談がきて、気付いたら攫われていたなんてこともあるんじゃない?


「なあ、アメリア。これはアーチの話を聞いたから言うんじゃないんだが」


 巻き込まれないように静かにしていたルイスが、言いにくそうな様子で話し出した。

 結局はあなたもアーチの味方なの?


「もしかして王宮にいる貴族みんなが、きみを出来損ないと思っていると勘違いしていないか?」

「全員とはさすがに思っていないわよ? 仕事ぶりを褒めてくれる人もいるし、知り合いだっているし」

「いやむしろ、きみの掃除を楽しみにしている人は多いぞ?」


 はあ? 何を言い出しているの?

 そんなわけがないでしょう?


「魔法陣が空に浮かんで光る様子が綺麗だからと、きみが掃除をするときには見物する人間もたくさんいるんだ。今度はどこの掃除をするのかと聞かれることもある。それにきみが掃除をした後は、他のやつより格段に建物が綺麗になるからな。王宮内では有名だよ」


 またまた。そんな喜ばそうとしても騙されないわよ。

 だったらどうして誰も私に話しかけてこないの?


「近衛騎士団でもアメリアは人気だよ」


 ユーグまで?

 なに? これは新手の攻撃なの?


「まずかわいいし……アーチ、このくらいで睨むな。おまえがそんなだから、アメリアに誰も話しかけないんじゃないか?」

「なんですって?」

「ともかく、アメリアがいるとアーチがおとなしく聞き分けよくなるし、護衛のことも気にかけてくれるだろう? 仕事がしやすいんだよ」


 嫌われていないというのは嬉しいけど、でもだからと言って王宮に帰る気にはならないわよ。

 ようやく自由に動ける身になったのだから、お父様が放置していた領地をどうにかしなくてはいけないの。

 それは何を言われようと譲らないわ。


「ダンジョンはどこに作るつもりでいるんだ?」


 なんでルイスがそんなことを突然聞くのかわからなくて、警戒しながら横目で睨んだ。


「ハモンド辺境伯の了承が取れたら、うちとあちらの領地の境に作るつもりよ」

「なるほど。あちらは土壌が悪くて作物の栽培が難しい土地だからな。ダンジョンが出来たら大きな収入源になるだろう」

「それに隣国との国境の領地ですもの。他国の冒険者がダンジョンに来るときは辺境伯の領地を通るでしょうし、近くに町を作れば領民の仕事も増えるでしょう?」

「こっちでも町をつくるんだな」

「そのつもりよ」


 儲けは大きいけど危険も大きくなるから、町を守るための設備を整えるのが先になるわね。


「ちゃんと考えているんだな。父がアメリアは優秀だと言っていたから大丈夫だとは思っていたが、これは面白いことになりそうだ。早く兄貴に知らせてやらないと」


 優秀? 私が? まさか。


「コンラッドおじ様は、いつもそれなりに出来るようになったねとか、まあこのくらいできれば普通に仕事ができるだろうとしか言ってくれないわよ?」

「宰相である父が普通に仕事ができるっていうのは、王宮の職員としてすぐにでも活躍できるレベルだよ」

「……え?」


 いったいなんなの?

 そんなに褒めてもダンジョンを作るのはうちの領地に決定なのよ?

 協力する代わりに、売り上げの一部を寄越せって話?


「アメリアが何も考えていなかったら、手伝う気がなかっただけだよ。どうせなら優秀なやつと組みたいだろう? ダンジョンの売り上げなんてタイラー公爵家はいらないさ。それより自分たちでダンジョンにはいって素材を集めるほうが楽しそうだ」

「それならいいけど……」


 ルイスはちゃんと領地経営を手伝ってくれる気があるのね。

 ユーグはアーチの命令で王都を離れたのだから、当てにしては駄目だし情報が筒抜けになると思ったほうがいいんでしょう。


 それでも動いてくれるのならありがたいわ。

 ひとり息子の彼は、忙しいダン伯父様の代わりに領地経営をしているから、いろいろと詳しいでしょう。


「それよりそろそろ帰らないとまずいわ」

「お、そうだな。俺もいったん領地に帰らないと」

「僕もだ」


 私たちは帰るわよとさりげなく伝えたつもりなのに、アーチは壁に肩を預けて寄り掛かったまま、じっと私を見ている。

 いえ、睨んでいると言ったほうがいいのかもしれない。

 彼にそうして見られると落ち着かないからやめてほしい。


「こんなことで俺が諦めると思うなよ」


 この男、私に惚れていると言っておきながら、なんでこんな喧嘩腰なの?


「王太子命令なんてしないでよ? 一生許さないから」

「するか。絶対に振り向かせてやる」


 うっ。ちょっとドキッとした。

 まさか私が男性から、そんな言葉を言われる日が来るとは思わなかったわ。


「おまえが公爵になるのを諦めないのなら、俺が王太子を辞めればいい」

「はあ!?」

「何を言い出すんだ!?」

「冗談だろう!?」


 そんなことで王太子を辞めるですって!?

 王族として何を考えているのよ!


「おまえが何もわかっていないだけだ。俺はおまえとしか結婚する気はないし、それが国のためにもなる。王太子でいるより、そのほうが重要だ」

「なんだ。結局は国のためなのね」

「いや、そうじゃなくて」

「最初からそう言えばいいじゃない」

「惚れているのは嘘じゃない!」


 はいはい。お父様を味方にしておくために、私と結婚したいんでしょう?

 エメラインでもいいと思うんだけど、弱くても魔法が使える人間の血を王族にいれたいのかもしれないわね。


「さあエメライン、帰りましょう」

「アーチってさ、根本的に口説き方を間違えているわよ」


 もう相手にしないの。

 私たちが黙って出かけたことを知ったら、お父様もお母様も心配するわ。


「ああ、月が出ていたのね」


 あの夜はどうだったかしら。

 お父様が運び込まれた時に、月が見えたような気もするけど憶えていないわ。


「お姉様は頑固だからなあ」

「そんなことはないわよ」


 ユーグはアーチと何か話していたので、エメラインとルイスだけ連れて転移した。

 公爵家跡取りとして政略結婚をする気だったから、恋愛感情のない結婚に抵抗はないけど、でも好きだなんて言っておいて、実は国のためでしただなんてひどいじゃない。

 アーチがそんな奴だなんて思っていなかったわ。



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