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私の人生は素晴らしい

『はあ、、今日も急患。』




7時間に及ぶオペは成功した。




『ありがとうございました!お陰で主人は、、』



涙ながらに手を握り、何度も何度も感謝される。

この瞬間が私にとって多幸感が溢れて仕方のない時間だった。





『先生お疲れ様でした。』


若い看護師の男の子。

急患のあとはお茶を入れてくれる。


『ありがとう。』


『危なかったですね。』


『うん。まあ、でもなんとかなったわ。』












当直業務が終わる頃。

1人の事務員が私のもとを訪ねる。




『先生、実は・・・。』


『ああまたね、いいわ。今日は土曜日だし、14時までならなんとかなるわ。』


『ありがとうございます。』


事務員が出て行く。




『先生また当直明けなのに、通常診察を。』


『仕方ないじゃない、担当医が体調不良じゃ。』


『でも、いつも先生の時を狙って。』



『明智クン。』


『はい?』


『誰が聞いているかわからない。それがこの病院。あなたまで巻き込まれたら大変よ?』



彼の唇に触れるくらいの位置に人差し指をあてる仕草をする。




『あ、、先生、、』


『ふふ。また一緒に当直しましょうね。』

















『さて、現場に戻るわよ?明智クン。』


『は、はい。』


彼の頭をポンと叩く。



『いつまでも惚けてないの。キミは明けなんだから帰りなさい。』


『分かりました。』




そう言って仮眠室を出る彼を見送る。



『さて!頑張りますか!』








仮眠室を出る。


白い廊下をかつかつと歩くと、何やら給湯室から話し声が聞こえてきた。





『また、北川先生に押しつけてやったわ。』


『ひっどーい。まあ、でももともとの担当の先生は、、あああなたの彼だったわね。』


『私も今日は夜勤明けだからこのまま彼の家に行くの。』


『まあ、いいんじゃない?理事長の娘だかなんだか知らないけど、いびりたおせばいいのよ。』


『どうせあいつが理事長になる頃には、私らも辞めてるだろうし。』


『そうそう。はあ、いいなあ、彼開業目指してるんでしょ?将来は院長婦人かあ。』







給湯室に足音が聞こえないように、通り過ぎる。



彼女らも私に気づいていない。

理事長の娘だというのに。

こんな陰湿な女たちに、、、




殺したくなる。







ぐっと拳を握る。

しかし、何か問題を起こせばあっという間に噂が広まる。




私が変わる前の医師は誰だろう。



診察室のシフト表を見る。






『柏原拓人。』





スラッとしていて

髪がサラサラで少し塩っぽい顔。

あの癖のなさがいいのだろう。




『はあ。』




柏原はあの糞みたいな事務員女を抱くのだろう。








頭に血がのぼるのがわかる。

理事長の娘なのに尊敬も畏怖もないこの状況に、

辟易としていた。














『はあ。』


診察が終わる。

結局16時。



『ご飯も食べる暇なかったな。』







『北川先生、北川先生、理事長室まで起こしください。』





この病院はまだ私に働けというのか。

見たくもない糞オヤジのご尊顔を拝む為に、

私は理事長室へ向かった。







『北川です。』


『入れ。』



冷たく乾いた声と共に理事長室に入る。

扉はやたら冷たく重く感じた。





『理事長、およびですか?』


『ああ。ヨミ。お前、いつなんだ?』


『はい?』


『男くらい作りなさい。お前はこの病院の跡取りを産まねばならぬのだ。』


『はい。』


『いいか?断じて看護師や事務方の男はダメだぞ?我が家の格が下がる。医師であることは絶対だ。』


『はい。』


『後はな、まあお前に限ってはないと思うが、スキャンダルは作るなよ。一応、寄付金を頂いている団体に顔向けした上でないと、後継者の妻に相応しくないからな。』


『はい。』


『全く。医師なんぞにならず事務方でも良かったのだぞ?学費も安くすんだものを。』


『はい。』


『まあ。医師の採用は難しいからな。猫の手くらいにはなろう。後継者とその子を産んだら育休くらいは取らせるから母親としてしっかり我が院の格を下げないよう教育にいそしめ。』


『はい。』


『話は以上だ。』


『はい。失礼します。お父様。』





部屋を出る。

肩を小刻みに揺らしながら長い長い廊下を歩く。



父にとって私は何なのだろうか?

男性とは私にとって何なのだろうか?






『痛っ、、、』



唇からは、薔薇のように赤い血がポタポタと落ち

白衣を染めていく。












もう決して真っ白には戻らないような気がした。

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