345話 11歳ですね
皇剣武闘祭から早いもので一年が経って、私は11歳になりました。
身長は157cmになって、最近では衣料品店で子供向けの服が勧められなくなりました。良い事ですね。
店員さん(♀)からは何故かお臍や生足を出すよう勧められますが、やんわりと断っています。
買わなかったその服はたいてい後日、アリスさんがプレゼントと称して私に押し付けてくるんだけどね。
私は露出の高い恰好は苦手ですよ。
さて、いろいろと面倒なことが起こりそうだけど、まずは現状を確認しよう。
皇剣武闘祭では卑怯な一撃で私に勝利し恥知らずにも皇剣となった親父だが、目に見えて大きな変化は無い。
ただ何やら精霊様と私に隠れてごにょごにょ密談しているようで、しかし魔力感知で見る限り――会話は聞こえないが、空気感は感じ取れる――それほど深刻な話はしていないようだ。
というか、親父が馬鹿だ馬鹿だと罵られているだけみたいだ。
親父が馬鹿なことは太陽が東から昇って西に沈むくらいに普遍的な常識なのでどうでもいいが、ケイさんやアリーシャさんはそれほど精霊様から直接お言葉を贈られる機会は無いそうで、やはり親父が特別扱いされているのは間違いないだろう。
夢で見た限り、精霊様は親父を殺したかったわけではない。
帝国からこの国を守る最強の剣として親父に期待していたが竜の呪いが解けず、素行の悪い親父を見限ってその命を妹に捧げることで活用しようとしていた。
無慈悲で残酷な行いだが、それは為政者としては正しい事なのかもしれない。
まあだからと言って、親父が殺されたり生贄にされたりするのを見過ごすつもりはないが。
ともあれ私の必死な教育により、親父の素行は夢の中よりはだいぶんマシだ。税金も納めているし借金返済もちゃんとやっている。
さらに次世代の英雄と期待されているケイさんも生きていて、着実に強くなっている。
夢のような展開にはならないだろう、たぶん。
とはいえ私としては帝国の最終兵器であるところの魔女がどれだけ強いのかわからない。竜や魔物の親玉とも噂されてるし、さらにデス子のこともあるので楽観はできないのだ。
帝国に勝てばいいだけならば、私を送り込むなんて回りくどい事せずに、それこそデス子が精霊様を助ければいいだけだし。
……まあ、デス子は精霊様を助けたくないんだろうけどさ。
私としては誰とも喧嘩せずに穏やかな生活をしたいから、精霊様とも魔女とも仲良くやっていきたいんだけど、無理だろうなぁ。
たぶん私はこれからテロリストになるか、魔女狩りの先兵にされるんだろうなぁ。
まあとりあえず親父が新たな借金を作らないか、精霊様が親父や妹たちに何か悪さをしないかは、要経過観察だ。
さてお次は兄さんだ。
政庁都市で大学生をやっている兄さんだが、月に一度か二度は顔を合わせている。
守護都市は月に最低一回は外縁都市に接続して、一週間から長くて二週間その都市に滞在する。
その時期はぶっちゃけうまみの多い仕事が少ない――私の名前も売れてきたので指名依頼はあるのだが、ギルドのチェックを通るものが少ない――ので、ひとっ走りして様子を見に行っているのだ。
兄さんは元々まじめな性格なのだが、輪をかけて必死になっている。
無理をしているという訳ではないのだが、覚悟の決まりようがとても強い。
何かあったのかそれとなく聞いてみたが、適当な返事で誤魔化されてしまったので理由は良く分からない。
明確な嘘の感情が見えたわけではないが、最近は兄さんもスノウさんのように、色んな感情を高めて読みづらくするのだ。
まあスノウさんに比べると未熟なので、ゾーンに入っている事と嘘をついていることが見て取れるのだが。
まあとにかくその事は婚約者のシエスタさんにも報告して、心配ないよとの事だったのであまり口出しはしないようにしておく。
ちなみにそのシエスタさんも気合の入った活動をしているのだが、そちらにはあまり関わりたくないので放置している。
いや、私のファンクラブの活動で、その売り上げはかなり借金返済の助けになっているんだけど、それはそれとして関わりたくはないんだよ。
握手会とか懇親会とかでもっと巻きあ――もとい、ファンサービスをするべきなのかもしれないけど、シエスタさんの周りにいる人は特に熱量がすごいのですよ。
有名人になった自覚はあるのだが、それでも身に覚えのない無条件の好意を向けられるのは苦手なのです。
さてお次は姉さんで、こちらはまっとうに女子高生をやっている。
生徒会に入って雑用をしながら色んな学校のクラブやイベントに関わって、少しづつそちらにも興味を持ち始めたようだった。
手芸部に入ることもできたようなのだが、ぶっちゃけ姉さんは手先があまり器用ではない方(※婉曲表現)なので、技術職以外にも興味を持つのは良い事だと思う。
姉さんはまだまだ若い17歳なのだ。
選択肢はたくさんあると実感してほしいな。
そして死にかけた問題児の次兄さんである。
この一年間、ベテランのケシアナさんたちのパーティーに指導され、ミケルさんとレイニアさんと共に新人だけのパーティーを結成した。
そしてそのパーティーには妹も参加している。
妹が暴走しがちなのは家族みんなが知っていることである。
それなのに暴走させたのは間違いなく次兄さんに責任がある。
なので妹が暴走してパーティーが壊滅の危機になったのなら、それは次兄さんの責任なのである。
そんな事を次兄さんにだけ――さすがに妹に聞かせると同じ間違いを繰り返しそうなので自重した――言うと、わりとガチ目にキレられた。
ノリの悪い次兄さんである。
さて妹だが、めきめきと成長を続けて今では160cmに届きそうなほどになっている。
だが妹はまだ159cmだと言っているので、私と同じ150cm台後半である。
つまり私と妹の間に差は無いのである。
妹の健康診断の身長の欄は黒く塗りつぶされているが、そのすごく近くによく知っている筆跡――生まれた時から知っていて、数字の書き方を覚えるのも傍で見ていた少女の筆跡に酷似していた――で159cmと書いてあるので間違いは無いのだ。
そんな訳で体は私と同じくらいに成長しているのだが、メンタルの方はそれほどでもない。
というか、順調に脳筋に育っている。
生きるか死ぬかの状況に追い込まれて、逃げるのではなく突撃するとか末恐ろしいですよ。
きっとケイさんの影響だろう。
ちなみに妹たちのピンチに都合の良いタイミングで助けに入った私だが、もちろんもっと前から状況は把握していた。
そもそも私はあの日、指名依頼を受けていた。
砲弾による防衛戦ではロード種の討伐確認が出来ないので、追撃戦が執り行われるようになった。
これは一年前に産業都市で起きた複数のロード種の同時襲撃から学んだ対応だ。
そしてこれにあたる戦士には索敵能力、討伐能力、そして正確な報告をする信用が求められる。
いやね、普段の狩りなら虚偽報告してもばれなきゃいいやがある程度まかり通ってたんだけど、防衛戦周りでそれをやられると洒落にならないことになりかねないとわかったのよ。
狩りの実績は基本的に自己申告と管制のチェックによって推計されるのだが、管制はライブ映像を見ているのではなく主にレーダー上に映る魔力の反応を見ている。
魔力が消えても姿を隠しているだけの可能性もあるし、そもそも魔力障害が常時発生している荒野ではその魔力反応が途切れがちである。
さらにいえば管制官は一人が複数のパーティーを受け持っており、常に注視しているわけではない。
そんな訳でどうせばれないからと、実績を水増しして虚偽報告する戦士はそこそこいるのだ。
そして私はしない。
だってしなくてもたくさん魔物を見付けて狩れるから。
スーパー魔力感知のチートは伊達ではないのだよ。
なんだったら正直に申告しているのに虚偽報告じゃないのかと監査(仕事が終わって申告後に専門の騎士さんが抜き打ちで調査する。尚、チートのおかげで隠れて付いて来ている騎士さんたちには申告前に気づいている)の対象となるぐらいに魔物を狩っている。
そんな訳で正直者の私はギルドから信用を勝ち取っているのです。
言うまでもない事だけど、もちろん監査のない日も正直に報告してる。
稼ぎに問題がないのもあるけど、このお仕事で統計データがちゃんと取れないのって、それこそ去年の産業都市の時みたいに人命に直結するので後ろめたい事はやりたくないのです。
まあそんな訳で商業都市から防衛戦発生の知らせが来たタイミングで、私に一報が入りました。
ちなみに本当にたまたま偶然なんだけど、私は自主的な哨戒をしてきます、もしも新人パーティーが窮地に陥ったら連絡くださいとアリスさんに言伝をして、イヤーセットを持ち出していたので連絡も簡単につきました。
そんな訳でビッグスパイダーは早い段階で見つけていたし、それが妹たちにぶつかる事も気づいていた。
事前に対処することは簡単だったけれど、いつでも助けられる保険があったのでしばらくは好きにやらせておきました。
不意の危機はこのお仕事をやっていれば起こりうることだし、これに懲りたら安全なお仕事を探してほしいなって兄は思うのです。
まあ、無駄だったんだけどね。
妹も兄さんもあれからもっと強くなると熱を上げていますよ。
二人して戦闘狂の脳筋ですよ。
困ったものだ。
お次にマリアさんだが、離れでの暮らしも落ち着いてきて、何だか悟りでも開いたような様子で日々を過ごしている。
馬鹿親父への好意は変わっていないのだが、色んなことを諦めているようで自分から仲良くなろうという気は無いようだった。
見ていて歯がゆいのだが、肝心の馬鹿親父が救いのない馬鹿なので、どう手を出していいものか分からずにいる。
近況としてはそんなところだろうか。
私の身の回りは一応は落ち着いている。
精霊様もおかしなちょっかいをかけてくる様子は無いし、借金の返済も順調だ。
商業都市が近づいてきたことで、ルヴィアさんの夢を見たが、これも何とかはなるだろう。
あの人もダイアンさんたちも話の分かる人のようだし、殺された理由もおそらくはデイトと妹を匿ったことが原因だろうから、とりあえずの危険はあの使用人のお婆さんだけだろう。
お婆さんにしたって、娘さんが自殺してから二十年以上何もしなかったことを考えれば、機会が無ければ何かしようとはしないだろうし。
藪を突かないように慎重に、ダイアンさんから話を聞いて、使用人のお婆さんのヘイトを解消するか、私がそれを肩代わりする。
まあ何とかなるだろう。
お婆さんの件に関してはぶっちゃけルヴィアさんが悪いとは思えないし。
朝方、寝起きの頭でぼんやりとそんな風に考えをまとめていたら、親父が部屋に入ってきた。
「セージ、来い。話がある」
なんだ。また何か問題を起こしたのか。
まったく困った馬鹿親父だ。
私はベッドから起き上がって、親父に従ってリビングに向かった。




