342話 傷だらけの刃
作者の英語力は中学二年生レベルです。
オークションも無事に終わり、感謝祭のイベントも全て終わって、政庁都市から守護都市が離れる日がやってきました。
今回もお見送りの花火があるという事で見に行こうって話も出たのだが、私が入院していたこともあって見送っていた祝勝会を合わせて開くことになりました。
最終日なのだが、記念日という事で兄さんと姉さんも参加している。
ちょくちょく休んでいるので授業の遅れとか――特に姉さんが――心配なのだが、この時期は色んな生徒が休むので学校もそんなに授業を進めていないのだとか。
また長期休みには学校が補習授業を開いてくれるので、姉さんも兄さんもそれを受けるとの事だった。
そんな訳で開かれている祝勝会は、身内向けのささやかなホームパーティーにしたかった。
したかったけど、結局色んな人が来たのでそこそこ大きな規模になった。
まあそうは言っても名家の人たちもそれぞれにパーティーを開いているので、スノウさんやクラーラさんたちは来ていない。
そして、ケイさんは来ている。
マージネル家も今回守護都市に上がってきたハンターたちを歓迎してパーティーを開いているのだが、良いのだろうか。
アールさんが割と真剣に頭痛をこらえていたので、ダメなんだろうな。
まあ私たちとしてはケイさんは明るくていい子なので、歓迎してしまうんだけどね。
お客さんはいつものご近所さんや託児や道場の関係者、商会の人に、アリスさん。
珍しい所だとカグツチさんがいる。
政庁都市を出発して最初に接続する都市が産業都市なので、せっかくだからとそれまで家に泊まっていくことになったのだ。
ちなみに皇剣武闘祭の間、応援をしてくれていたシエスタさんたちの家族はそれぞれ仕事や学校があるので私が入院しているうちに帰っていた。
そのためこのパーティーには参加していないので、学園都市に接続した折にでも応援のお礼を言おうと思う。
兄さんが司会をして、私と親父が簡単に挨拶をし、そして思い思いに食事を楽しむ。
そうこうしていたら花火の音が響いてきたが、さすがに家からは見えはしない。
そういえば前回は花火の際にケイさんがスピーチをしていたが、親父はしなくて良かったのだろうか。
いや、しなくてよかったな。
どうせ長い文章用意しても、ろくに読まずに適当なこと言うだけだし。
……うん。
あとから文句言われないよな?
私は何も聞いてないし、国事よりもホームパーティー優先させたわけじゃないからな。
◆◆◆◆◆◆
セージは挨拶を終えた後、食事の片手間に準優勝を祝う来客の相手をする。
人が代わっても同じような内容の挨拶が繰り返されるが、セージは愛想よく応対していった。
ケイはそんなセージに声をかけた。
「おつかれ。あんたは名家に生まれてもそつなくやりそうね」
「ケイさんもある意味、要領よく逃げてるじゃないですか」
ケイはこのっ、と生意気な弟分の肩を小突いた。
まだ多くの客がセージに声をかけたいと思っていたが、皇剣ケイとの親しげな様子が、彼らに近寄ることをためらわせた。
「それはともかく、あんた絢爛祭に行かなかったでしょ。
デボラが落ち込んでたわよ」
「絢爛祭って、そのタイミングは僕は入院してたでしょ。
お断りの手紙は兄さんが送ってくれたって聞いてますよ」
「そういう問題じゃないわよ。
あんた、そもそも行く気なかったでしょ」
ケイは口をへの字にしてそう言った。
ケイにとってはデボラもセージと同じく大事な家族だ。
そしてケイとセージの婚約を祖父エースが言い出したあたりから、デボラの目がなんだか怖い時があるのだった。
それも加えて、セージのデボラに対する淡白な対応が気に障っていたのだ。
「それはまあそうですが、わざわざそう伝えるのもデボラさんを傷つけませんか」
「傷ついても正直に伝えて欲しいと思うけどね、私なら。
あんたさ、デボラの気持ち気づいてるんでしょ。
そうやってなあなあにして、気持ちが離れていくの待つつもり?
だとしたら私はあんたをぶっ飛ばす」
「……告白されたわけでもないのに、お断りを入れるのもね。みんながみんな、ケイさんのようにシンプルに生きられるわけじゃないんですよ」
セージが気取ったしぐさで肩をすくめたのを見て、ケイはその頭を引っぱたいた。
だがそれは強い力ではなく、セージの頭は地面に埋まらなかった。
「……すぐ暴力に訴えるのは良くないと思いますよ」
「デボラの代わりよ、馬鹿。
他人には良い機会だなんて言っておいて、自分は逃げるのね」
「いろいろ忙しいもので、身軽でいたいんですよ」
気にした様子もなくそう言うセージに、ケイは目を細める。
「前から思ってたけど、あんたにとって他人は世話を焼かなきゃいけない相手なのよね。
一緒に支えあうとか、甘えられるとか、そういうんじゃないのよね」
「えっ?
……ああ、そう言えばそうですね。
まあ、性分なんですよね」
何でもない事のように頷いたセージを見て、ケイは大きなため息を吐いた。
「それに助けられたんだから責める筋合いじゃないけどさ。
15歳になったら旅に出るって話、もしかして重荷になってるから投げ出したいって思ってるんじゃないの?」
「えっ?
ああ、あー……。
その発想はありませんでしたね。
案外、そうなのかな」
否定してほしくて投げかけた言葉にそう返されて、ケイは言葉に詰まった。
言ってはいけないことを言ってしまったんじゃないかと、ケイは怖くなった。
「いや、本当に重荷だとは思ってませんよ。
ただそういう可能性もあるかなって、疑ってみただけで」
セージはそう言ってケイを安心させようとした。
ただケイはそんなセージの態度に不安を募らせる。
「あんたはいつもそうやって誤魔化そうするよね」
「別に誤魔化そうとしてるわけじゃ……おや、カグツチさん」
ヒートアップしそうになるケイとそれを宥めるセージのところに、カグツチが割り込んだ。
「取り込み中邪魔するぞい」
「なによ」
「長くなりそうじゃからな。ワシの話を先にさせてもらうぞ」
セージは焦った様子でカグツチに声をかける。
「そういえばカグツチさんは決勝の日から今まで何をしていたんですか?
姿が見えなかったので、てっきり何も言わずに産業都市に帰ったのかと思ってましたよ」
「うん? ああ、ちょいと鍛冶をのう」
「え? 何か作ったんですか? 私も欲しいんですが、何か作ってくれませんか?」
ケイが目を輝かせてカグツチにそう言った。
「まあ、いつかの。
鍛冶と言っても精錬じゃよ。
ほれ、あの決勝の日に坊主の竜角刀やジオの剣やらが粉々に砕けおったじゃろ。
それを集めてインゴットを作っとったんじゃ。
面白いもんが作れそうじゃからな」
「マジで? それ欲しい。大剣作って……ああでも刀も捨てがたい」
「ちょっと待ってくださいケイさん。その素材なら家に優先権があると思います。
カグツチさん、私に何か作ってください」
高く売れるからという言葉を飲み込んでセージが言い、興奮したケイがそれに反発する。
「あんたは竜角刀があるじゃない。あんたが壊さなかったら一本貰って我慢したんだからね」
「貰う気だったんですか? いえ、壊さなくても一本は妹にあげるつもりだったから――」
セージはカグツチにぶん殴られた。
「簡単に人に渡すんじゃないわ馬鹿垂れ。
お主は命を預ける相棒をなんじゃと思っとるんじゃ。
そうじゃ。
また誤魔化そうとしおったの。
名前じゃ。名前を教えんか馬鹿垂れ」
殴られたセージはゆっくり起き上がり、カグツチの目を真っ直ぐに見てこう答えた。
「セイジェンド・ブレイドホームです」
「知っとるわっ」
セージは再び殴り飛ばされた。
「竜角刀の名前を教えいと言うとるんじゃい」
もちろんわかっていたセージは、困ったように愛想笑いをした。
「すいません、ついノリで」
「まったく、頭が回る分だけジオよりたちが悪いのう」
「っていうか、セージは刀に名前を付けてないの?
ありえなくない?」
ケイが呆れた様子でそう言って、セージは不満そうに鼻を鳴らした。
「それで、何と名付けたんじゃ。
まだ決めてないとは言わせんぞ」
「決めてますよ。決めてますけど、言わないとだめです? 別に竜角刀で分かるんだからそれで良くないですか?」
往生際の悪いセージの背中を、ケイが引っぱたく。
セージは諦めて、その名を告げた。
「傷だらけの刃。
折れた角の、その片割れの刀にはピッタリでしょ」
セージは竜角刀を抜き、自虐的に言った。
銘名の儀式はそれで成立し、竜角刀の刀身にその名が刻み込まれる。
この世界にはインテリジェンスウェポンというものがある。
付喪神の一種で、魔力だまりに長く放置されたものや信仰の対象として長く祀られたものに魂が宿り、自我を得たものだ。
竜角刀はもともとが聖獣である竜の体の一部である。
本来、角に残る怨念は死の力で綺麗に消え去っていたため、乾燥した真綿が水を吸い込むようにセージの魔力をよく吸収した。
そしてセージの魔力とはすなわち、劣化した死の神力でもある。
つまるところセージの竜角刀にはインテリジェンスウェポンとして覚醒する下地が出来上がっていた。
もちろん付喪神として明確な自我を持つには年月が圧倒的に足りていない。
それでも〈broken blade〉には自我の片鱗のようなものが生まれていたため、セージの自虐的な言葉に反応をした。
そして自らの主人の流儀にのっとり、ささやかな意趣返しをする。
セージの竜角刀に〈BB〉の文字が浮かび上がった。
セージはひどく嫌そうな顔をした。
「へえ、broken bladeでBBか。小洒落てるね」
「いや、傷だらけの刃です。BBではないです。間違えないでください。
カグツチさん、これ不良品です。変更お願いします」
「一度決まったもんを変えられるわけなかろう。簡単に考えるんじゃ無いわ」
ええぇと、セージが嫌そうな顔をする。
そして竜角刀に浮かび上がったBBの文字を見る。
BBの文字は一際大きく輝いた。
それがまるで『私、BBですがなにか』と、言っているように聞こえた。
セージは竜角刀を投げ捨てたくなったが、大きなため息を吐いて諦めた。
「まあ、らしくていいか」
ケイとカグツチが満足そうに見守る中、セージはそう言って項垂れた。
broken bladeは傷だらけの刃と訳さないというツッコミは受け付けていません。




