305話 二回戦が始まった
さてニアさんとの試合が終わって次の日、つまりは第二回戦です。相も変わらず実況の人が煽っています。
「始まります皇剣武闘祭二日目、敗者の順位決定戦も終わりお待たせいたしました。
二回戦第一試合はこの人セイジェンド・ブレイドホーム。
昨日の試合はまさに天才、まさに傑物。
幼く小さなその身で華麗な剣技を披露し優勝候補を破った少年が、今日もまたジャイアントキルを果たして観客を魅了するのか」
そうですね、そうさせてもらおうと思います。あと私はそんなに小さくないです。
しかしジャイアントキルなのに、私の勝ちに賭けられている額はそこそこ多い。応援する意味も込めて買ってくれてる人が多いんだろうね。
でも応援してもらえるのは嬉しいけど、払い戻しがほどほどなのは寂しいね。
ちなみに賭けにはいくつか種類があるのだけれど、私は大会開始前に買える三位までを決める3連単(一位私、二位親父、三位アルバートさんで予想したの)を限度額まで買っており、それとは別に当日の朝に締め切りとなるものの中で、単純な試合ごとの勝ち負けをかけるものを、私と親父の勝ちに当然限度額まで賭けて買っています。
そして単勝の賭けは私の払い戻しも安いけど、親父のはもっと安い。英雄だから応援買いももちろんあるし、昨日の試合で今もアホみたいに強いのわかっちゃったからね。
「セイジェンド選手の対戦相手は苦節二十年を経て、去年守護都市上級となった大ベテラン、カマーセ・ワンコウ選手。
わずか十歳で上級入りを果たしたセイジェンド選手に彼は何を思うのか。
昨日の試合後のインタビューではセイジェンド選手に勝つ秘策があると豪語していた彼ですが、いったいどんな技を見せてくれるのか。
皆様どうぞご期待ください」
……へぇ。勝つ気、あるんだ。
ちょっと意外だった。確かに何か狙っているような感情も少しあるな。
いや、感情の大部分で凄い怯えてるから、負けを覚悟してるのかと思った。
失礼だけど、カマーセさんぶっちゃけ格下だしね。格下には強いよ、私は。
「セージ、お前は俺では勝てないと思っているだろう」
「えっ? ああ、いえ。勝負は時の運ですからね。勝っても負けてもおかしくないと思っていますよ」
「ふん、気を遣うな。俺はお前みたいな特別な戦士じゃないからな。
ところで一つ提案なんだが、試合に縛りを設けてみないか」
ああ、不利な状況で戦えっていうんですね。わかります。
まあ聞くだけ聞いてみるか。面倒臭かったら無視して戦えばいいんだから。
「お前の剣技はマージネル家を圧倒するほどに見事だった。だが、魔法の腕はどうかな」
「……ええと、それなりに使えますけど」
「それなりか。若いうちから好き嫌いをするのは良くないぞ。
俺とは、どうだ?
魔法戦で勝負をしてみないか?
自信がないなら、その立派な刀を使ってくれて構わないが」
……………………どうしよう。
……まあ、いいか。
本人がやりたいって言ってるんだから。
うん、私は悪くない。私は悪くないはずだ。
「いいですよ。ただ魔法以外で攻めてきたら、こっちも使いますからね」
「当然だな。もちろん俺も魔法しか使わない。
さてそれでは少し下がろうか。魔法戦ならば、距離を取らないとな」
そう言ってカマーセさんは後ろに下がる。
試合は円状の闘技台の上で行われるが、それは観客席の保護とカメラで映しやすくすることが主な目的であって、そこから落ちてもリングアウト負けになる事はない。
カマーセさんが後ろに下がるよう誘導しているのは、試合開始と同時に私が斬りかかってくるのを防ぎたいからで、つまり本当に私と魔法戦をしたいと言うのが100%の本音だった。
ベテランさんだから油断したらいけないんだけど、私の魔力感知で見れば、体に纏わせている魔力の雰囲気でなんとなく魔力制御技術も把握できるんだよね。
ごめん。やっぱり格下だわ、カマーセさん。
いや、まあ、私の知らないものすごく強いオリジナル魔法とかあるのかもしれないけど……まず間違いなく、無いんだよね。
観客の中には自分の得意分野で戦うのかなんてブーイングが起きて、カマーセさんがそれに必死で耐えている。
そうか、バッシングが起きるの予想して怯えてたのか。
そしてVIPの観客席の方では、ケイさんたちがすっごい微妙な感情になってる。
「それでは構えて」
そう告げる上級上位の実力者な審判さんも、哀れみ半分蔑み半分の感情をカマーセさんに向けていた。
まあ自業自得という事で、見せてもらおうか。
自信のある魔法っていうのを。
闘魔術よりも魔法コピーする方が得意だぞ、私は。
◆◆◆◆◆◆
「おおっとこれは意外な展開。カマーセ選手、ベテランのプライドを捨てセイジェンド選手を挑発。
これは観客のブーイングにも納得ですね、カナン様」
「……勝負じゃからのぅ。儂は非難するほどの事でもないとは思うがの」
試合が始まり、実況と解説の声が会場内に響き渡る。
「……アニキの馬鹿、普通に戦えば勝てるのに」
「あいつあれで煽りに弱いところあるよな」
「煽るのはすごく得意なんだけどね」
「ねえ大丈夫? 大丈夫なの?」
第二貴賓室ではブレイドホームの子供たちが心配そうな声を上げ、それを聞いたケイたちが不思議そうにした。
「何言ってんの、あんたたち?」
「だって、苦手な魔法戦をするんでしょ」
「え?」
「えっ?」
ケイとセルビアが互いに相手の反応の意味が分からないと、首をひねった。
それを見かねて、マリアは答えを口にした。
「セージは魔法戦、得意ですよ」
「え? 嘘? あた――私、見た事ない」
「ああ、そう言えば道場だと使えないもんね。そもそも魔法って一対一で使うものじゃないし」
ケイはそう言った。
それはケイが脳筋だから口にする言葉ではあるが、半ば正しくもあった。
魔法は外界のマナを利用して自身が持つ以上の魔力を運用する事が出来るし、物理法則などを考慮することで作り上げる魔法を効率化することも出来る。その結果、闘魔術では出来ない多様な戦術を実現可能とする。
だがそれでも魔法が世界を騙す嘘であることには変わりがない。
そしてその嘘は有効打にはなりえるが、一撃で致命傷を与えることは難しく、さらには同等の嘘で防御や治癒ができてしまうという欠点がある。
つまるところこうして開けた状況の一対一の戦いでは、魔法はあくまで戦術の幅を広げるための副次的な扱いに限られてしまう。
それが定説であった。
そして自信満々のカマーセにはその定説を覆すだけのとっておきがあるのだと、セルビアをはじめ観客の多くが考えていた。
「……嘘」
「嘘じゃないよ。それに道場でだって、セージは簡単な魔法なら使ってたでしょ。あれで何となくわからない? 凄いなって」
ケイが言っているのはセージの魔法には、魔力の無駄が無いという事だ。
魔法が嘘である以上、どこかに無理が生まれる。
その無理を押し通すために魔力という燃料をつぎ込むのだが、嘘が大きければ大きいほど必要魔力は多くなり、周囲に漏れる魔力も多くなる。
神子であるセージの魔法はその嘘が巧妙で、浪費とされる周囲への魔力漏洩も極端に少なかった。
ラウド、アリーシア、マリアなどはケイの言葉に頷く事が出来る。
一流である彼らは、ちょっとした生活魔法からでも、その相手の魔法使いとしての技量を感じ取れるからだ。
だが生まれてからずっとセージと、そしてジオの魔法を見てきたセルビアたちには、それは当たり前のことでしかなかった。
セージたちに比べて自分や学校の先生たちの魔法に無駄が多いのは理解していたが、それは自分たちが魔法を使うのが下手なだけだと思い込んでいた。
そしてそれはセルビアやカインが剣一本で強くなろうとしているのにも関わってしまっていた。
「セージ、魔法も得意なの?」
愕然とした様子で、セルビアはそう呟いた。
「そうね。三年前だけど、人の魔法を乗っ取ってたよ。やり方教えてって言っても、全然教えてくれなかったけど。
ああ、ほら試合見てよ。セージの奴、カマーセとおんなじ魔法作ってぶつけてるよ」
試合を見れば、セージはカマーセが作る魔法を先読みし、さらにアレンジまで加えて相殺しあっている。
一般人からすればそれは同じ魔法だったが、セージの魔法はカマーセのものに比べて消費魔力が少なく、しかし威力は大きいことがケイには見抜けていたし、セルビアにもそれは伝わった。
「……本当だ」
「セージは遊んでんね。まあ魔法だけで相手倒すのって難しいんだろうけどさ」
「ケイ、少し口が軽くなりすぎているのでは? あれは新しい魔法に目を輝かせて学んでいる、無垢な少年ですよ」
周囲の目を気にして、アリーシアが苦言を口にした。
「そ、そうね」
遠回しに叱られたことよりも、セージが無垢な少年と呼ばれたことに激しい違和感を覚えたケイだったが、頑張って気にしない振りをして頷いた。
「何はともあれ、泥仕合だな。見るべき価値もない」
つまらなそうにラウドがそう言った。
セージはカマーセよりも少ない魔力消費で、より強力な同種の魔法を撃っている。
魔法の技量に自信のあるカマーセの方がそれをしたかったのだろうが、実際には逆にやられている形だ。
そもそもの狙いが間違っている奇策で勝てるはずもない。
変な縛りをせずに普通の試合をしていればカマーセにも勝つ可能性は僅かながらあった。
だが相対的に魔力の消耗を重ね、体力もまるで消費させていない現状からプライドを捨てて剣を抜いても、ここからカマーセに逆転の目はない。
火や氷や石礫の舞う魔法戦はとても派手でわかりやすく観客受けをしていたが、ラウドからすれば退屈極まりないものだった。
「セージも、つまらなそうにしていますね」
マリアがそう言った。
強力な魔法で勝負を決めるという選択肢がセージにはあったが、それは魔力消耗に繋がる。
カマーセが万に一つでもそれを耐えきれば、勝負が振り出しになる。だからこそセージは淡々と嬲り殺しのような真似をしていた。
もっともセージには魔力供給と言う裏技があるので、勝負に出て負けても、試合の勝ちは揺るがないのだが。
ともあれセージは淡々と作業をこなすようにカマーセの魔法をコピーし続けた。
カナンの解説もあり、見ている人たちもセージがカマーセと同じ魔法をあえて使い続けていることに気が付き、もっとやれとセージを応援する。
会場はセージを応援する声一色で染まり、心の折れたカマーセは最後に爆裂の魔法を作り、あえて威力を落としてはっきりと撃ち負け、その身で受けて負けた。
セージはセージでそんな彼の心の内を全部見通していたので、爆裂の魔法は見た目は派手だが風圧強め、火力弱めに設定しておいた。
カマーセは最後に気を遣われたことを察しつつ、吹き飛んで場外に転がった。
審判はもちろんカマーセが余力を残している事には気づいていたが、気づかなかったことにして、ジャッジを下した。
「勝者、セイジェンド」
「どうも、ありがとうございました」
セージが対戦相手のカマーセと、応援してくれた観客にお礼を言い、彼らの声援となによりファンクラブの踊りはより一層ヒートアップした。
セージを称える声が会場を支配する中、気絶した振りをしているカマーセは涙を飲んで担架が来てくれるのを待った。
◆◆◆◆◆◆
さて特に面白いところもなかった私の試合の後、下馬評通りにライムさんとアルバートさんが勝ち進み、そして今日の最終試合である親父の試合も終わりましたよ。
親父は親父で見るところのない消化試合でしたよ。
また拳でワンパンだったよ。カマーセさんと違って普通に強い人が相手だったのに。
まあそれはもういいんだけど、本当にカグツチさんが来ないな。
何かあったのかな。
いや、いい加減来て欲しいから政庁都市に魔力感知を飛ばしてそれらしい人がいないか探してるんだけど、広いうえにアホみたいに人がいるせいで、そんな事をしても見つかるわけがないんだよね。
そんな事を考えつつVIPルームの方に行こうとしたら、ライムさんに呼び止められました。
「ようセイジェンド、少しいいか?」
「……はあ」
そんな訳で場所を移しまして、人気のないところでライムさんが後ろ暗い話を持ち掛けてきます。
うん。私はね、感情が見えるからね。
昨日は昨日で焦りの感情を抱きながらカマーセさんに何か囁いていたし、今は敵意と警戒心をひた隠しにしている。
そんな訳でライムさんの話が面白くもない事だろうと、簡単に想像できるのですよ。
「まずは謝罪をしておく。お前はいっぱしの戦士だった」
「どうも、ありがとうございます」
「お前を一人前と認めたうえで、提案がある。
次の試合、棄権しろ」
直球真っすぐストレートだね。
まあ生粋の戦士だから交渉事なんて苦手なんだろうけど。
「もちろんお前にもメリットはある。
上級で長い事やってると、貯金が無駄に貯まっている。俺には使うあてのない金だが、お前には借金があるんだろう」
くれてやると、優勝賞金の十倍の額を提示されました。
「魅力的な金額ですが、親父の優勝阻止が私の目的ですからね。その条件では頷けないですよ」
いや、皇剣武闘祭は精霊様への奉納試合なので、そもそも八百長を行う気はない。親父にやらせたいだけだ。
目先の大金よりも、今後も綺麗な体でお仕事を続けていけることの方が私は大事ですよ。
「……ふん、それは建前だろう。
だが付き合ってやる、これだ」
ライムさんは――ああ、もうこの男に敬称はいらないか。この男は戦士ですらない。
私の同類の、ただのクズだ。
ライムはそう言って、透明な液体の入った小瓶を取り出した。
「毒、ですか」
「察しが良いな。無味無臭の猛毒だ。料理に混ぜろ。お前なら簡単だろう。
なあに、安心しろ。一般人なら即死するような毒でも、俺たちならせいぜい腹を下すぐらいだ。
もちろんこれには追加で報酬を出す」
私に勝ちを譲ってもらった時点で貯金ゼロになるのに、どうやって報酬を用意するんだろうね。誰かが用意してくれるのかな。
「これを飲ませれば、親父に勝てると?」
「飲ませなくても勝てるさ。だが、念には念を入れておく性分でね」
そうかね。
「親父は私よりも強いですよ」
「ああ、そうだろうな」
わかってないな。
まあいいか。
「これって、予備がありますか。もう一つ欲しいんですが?」
「は? なんでだよ」
なんでって、決まってるじゃん。
飲むからだよ。
「は? ばか、お前」
「うげ、まず……」
瓶を開けて一気飲みしたけど、全然無味無臭じゃない。
普通に苦くて臭くてまずい。
「ああ、とりあえず私に勝てたら毒ぐらい盛ってあげますから、用意しておいてくださいよ。それじゃあ」
「お、おい、待てよ」
私がそう言って去ろうとすると、ライムが呼び止めてくる。
私は大きなため息をついた。
「まだ何か、ハンデが欲しいんですか?」
「っ‼」
顔を真っ赤にして黙ったので、もう言いたいこともないだろうと、彼を放っておいてその場を後にする。
******
あー、気持ち悪い。水が飲みたい。
毒のある魔物も狩ったことはあるけど、毒をくらうのは初めてなんだよね。
まあ魔力量高いと病気にも強いから毒にも強いだろうし、スーパー魔力感知で治し方も勉強できそうだし、そうすれば妹が仕事で毒に侵された時にはキ●リーしてあげられるだろう。
うん。ノリで馬鹿なことしたけど、そんなに悪い事ばかりでもない。
なんかインフルエンザに罹った時ぐらいに筋肉痛と頭痛と寒気と発熱に襲われているけど、まあ大した事ではない。
ただちょっと今日は早く寝よう、そうしよう。
「やあ、セージ君……おい、顔色が悪いぞ。どうした」
「どうぞ、お気遣いなく」
視界もぼやけるし、暗いな。でも魔力感知があるから大丈夫。なんとなくわかる。
とりあえず知り合いっぽい爺さんだ。周りに護衛っぽい人もいるから偉い人だろう。エースさんか?
とりあえず失礼にならない態度でお暇しよう。
「そういう訳にはいかない。すぐに医務室へ連れていく、おい」
「邪魔です」
私を抱えようとしてくる護衛の人を怪我をさせないよう優しく投げ飛ばす。
あれ? マージネル家の人ってこんなに弱かったか?
まあ、いいか。
「失礼。ですが早く帰りたいので、邪魔をしないでいただけますか」
「そんなふらふらになってまで、何を意地を張っているんだ。いいから大人しくしなさい」
「意地も張らずに生きていけますか。
私に構う暇があるのなら大事な孫の相手でもしていなさい」
ケイさんは最近になってようやく子供らしいわがまま言えるようになったんだ。
責任ある立場の人だから甘やかしすぎるのも問題だろうけど、それはそれとして家族が相手をしてあげるのは彼女にとって何より大事な事だろう。
うん?
なんだ?
ショックを受けている?
気持ち悪い。
悲しい。
私はそう感じている。
でもこれは私の感情ではない。
見えているものを感じすぎている。
だめだな、チート能力まで不調だ。
早く帰ろう。
でもその前にフォローぐらいはしておくか。
「失礼、言い過ぎました。あなたは良い父親で、良いお爺さんです。ですが、私のことは放っておいてください」
「あ、ああ……。すまない。本当に、すまない」
なぜかエースさん(?)はより一層沈痛な感情に変化している。もしかしてスーパー魔力感知はバグってるのか。
うん、毒を飲んだ時はこれに頼らない方がよさそうだ。
「こちらこそ、お気持ちを考えずに言葉が過ぎました」
とりあえずくらくらする頭をなんとか下げて、その場を後にする。
目は見えていないのだが、何となく地形とかは感覚して、歩くことは出来る。
やっぱり魔力感知に頼らないとだめだ。
あー、きっつ。
あいつはこれを親父に、私の手で盛れと言ったのか。
そして過去には、本当に盛った奴がいるんだろうな。
まあいいさ。
「あ、遅かったねセージ。ジオはもう戻ってて、あんた待ってたよ。
……あれ? 調子悪い? 大丈夫?」
「顔色が悪いな。医務室に行くか?」
しばらく通路を歩いていると、またばったり知り合いと出会った。
この魔力ははっきり分かる。ケイさんとエースさんに奥さんのイリーナさんと、あとマージネル家の騎士たちだ。
……あれ?
「先ほどはどうも、失礼しました?」
「? ……、こちらこそ?」
私とエースさんが揃って首を傾げた。
「お爺様? 何かあったの?」
「いや、すまぬ。わからん」
「ですよねー」
私は誰に粗相をしたのだろうか。うーん。良く分からん。
まあ特に問題になってないみたいだし、結果オーライか?
ああ、しかしやばい。ちょっと限界が近い。
「ねえ、セージ。さっきから本当におかしいよ。どうした――って、凄い熱。あんた風邪ひいてたの?」
「そんな所です。帰って寝れば治るので、とりあえず大声出さないで」
頭に響くから。あと吐き気もするから揺らさないで。
「ご、ごめん。じゃあジオ呼んでくるから、ちょっと待ってて」
「あ、おかまいな――」
ケイさんはしかし、私の返事に見向きもせず走り出した。
呆気にとられる私を見て、イリーナさんが上品に笑った。正確には笑った感情を感じ取った。
魔力感知は正常に働いてる。バグってたのは一時的なものっぽいな。
それともあの人の感情が強すぎた?
ああ、頭が痛い。余計なことは考えるまい。
「ごめんなさいね。うちの孫娘はお転婆だから」
「――はは。そう、ですね」
イリーナさんの笑顔につられて、私も笑ってしまった。
まあ、いいか。ちょっと疲れたし、座って待ってよう。
私が近くにあったソファーに体重を預けると、イリーナさんは隣に座って私を横に倒し、その膝を枕にした。
気恥ずかしさはあるが、抵抗するだけの気力と体力がもう無い。
今の私は全身から脂汗が出ていて、頭からも出ている。イリーナさんはドレスが汚れるのも気にせず、生活魔法でハンカチを冷やして私の汗をぬぐった。
「本当に大丈夫なのか? とても辛そうに見えるが」
横になる私の顔を覗き込んで、エースさんが言う。
イリーナさんはそれを窘めようとするが、それより早く私は答えた。
「……ねえエースさん。親父は強いですか?」
「ああ、当たり前だろう」
「毒を盛ったぐらいで、勝てると思いますか」
その言葉で、何となく察したのだろう。
エースさんとイリーナさんは神妙な顔つきになった。
或いは昔、親父に毒を盛ったのはアールさんをはじめとしたマージネル家なのかもしれない。
それを、思い出したのかもしれない。
「……勝てない。恥知らずな人間は過去にもいた。
だがそいつらは卑劣な真似をしたその上で、負けたよ」
「ですよね」
私は嗤った。
魔力感知と治癒魔法はちゃんと使えている。
毒を抜いている今はキツイが、明日には最低限戦える体調に戻っているだろう。
ライム程度の小物を相手にするのには、それで十分だ。
作中補足~~毒について~~
ライムがセージに渡した毒は一滴で常人が死ぬような劇物です。
ジオは過去にその一滴が混ぜられたお弁当(卵サンドの卵に入れられた)を食べて、お腹を壊しました。
セージは料理で薄めることもなかった毒の原液30mlを飲みました。
なので、現在死にかけています。




