302話 決勝大会・初日
そんな訳で始まります、決勝大会の開会式です。
偉い人の話が長いです。
親父は立ったまま寝ています。
まあね、親父はこの場にいるだけでも奇跡なので、出てきただけでも成長したといえよう。
出なかったら出場辞退扱いにしてやると脅したけどね。
とはいえ偉い人のありがたいお話や装飾過多な選手紹介は、私も興味がありません。
至宝の君や精霊様を見る機会があればと思ったのだが、どうやらこの場には来ていないようだ。
……もしかしたら避けられているのだろうか。
精霊様の部下だってわかったうえでデイト殺そうとしたし。
それにスノウさんにも前に警告されたもんな、君は精霊様を殺せる人間だから要注意扱いするねって。
……あれ? もしかして私もうテロリスト予備軍として認定されてない?
大丈夫かな。大丈夫だよな。
世間的には親の七光りでエリート皇剣コースに乗ってるボンボンみたいな扱いだけど、それはそれとしてこの国の平和と発展に貢献してるって認められているし。
まあいいか。とりあえず目先の問題だ。
大会の組み合わせはもう発表されている。
私が一回戦で当たるのはシード枠のニア・オーバックさんだ。
ニアさんはマージネル家の上級騎士。
リオウさんの後輩でケイさんの先輩、私も一応知り合いだが、親しいと言うほどではない。
前回大会上位入賞者という事もあって、優勝候補の一人として見られているし、保有魔力量もカンストの上級上位だ。
まあ、たぶん勝てるだろう。
二回戦はどちらが勝ち上がって来るかわからないが、上級下位のギルドの戦士だ。
うん、どっちが来ても勝てるだろう。
準決勝で当たりそうなのは親父のせいでシード枠を失い、最終予選から勝ち上がってきたライム・スーザーさん。
ギルドの上級戦士で、スナイク家の人。上級権限で専属マネージャーがついているのでギルドに顔を出すことはほぼなく、私も顔を知っている程度の人だ。
この人も優勝候補で、やっぱり魔力量がカンストしている。
まあこっちも何とかなるだろう。
親父に勝つならね、この人らに負けてられないんだよね。
さて前にも言ったが、親父の方にはアルバートさんがいる。
アルバートさんにはぜひとも頑張って欲しいが、無理だろうなぁ。組み合わせ的には決勝にこの人と当たって負けるのが理想なんだけどなぁ。
アルバートさんとの試合前に、親父に毒を盛っても許されるんじゃないだろうか。
……いや、さすがに駄目だな。自重しよう。たぶん効かないし。
しかし親父対策と言えば飛翔剣なのだが、カグツチさんがまだ来ない。
あの人も割と時間にルーズなイメージあるから少しぐらい遅れてもおかしくないけどね。
お偉いさんの長い話と一緒で、気を急いても仕方がない。のんびり待ちますか。
親父との試合は最終日だから、少しぐらい遅れても問題ない。
竜角刀の名前もまだ決めてないしね。
もともと一つの角が二つに分かれたってことで、二つで一つ的な名前を付けたいのだが、中々思いつかない。
妹はbrother&sisterと提案してきたが、それはちょっと違うという事で却下させてもらった。
持ってる刀に妹って名前つけて、それを振るって魔物とか殺したくないよ、私は。
しかし私の思いは伝わらず、妹は不機嫌になった。
……仕方なくない?
◆◆◆◆◆◆
皇剣武闘祭の開会式は、文字通りの式典である。
大会中や終了直後の略式の表彰式は第二貴賓室でもカジュアルな服装の人間も多いが、この開会式の間は正装をしている者の方が多い。
過去の英雄と次代の英雄の親子二人で出場するブレイドホーム家は注目度も高く、その意味でも服装を整えておく必要があった。
そんな訳で裾の長いアフタヌーンドレスと慣れないヒールでマギーは着飾っていた。
ドレスコードというものを知ったり、ドレスを選んだり、アクセサリーを合わせて着飾ることは楽しかったが、いざそれを着て歩いてみるとまるで楽しくない。
着ているドレスが立派すぎて、ブスが似合わない格好をしていると囁かれているような気になっていた。
もちろんそれはマギーの勝手な思い込みだ。
だがそれでもマギーは、新人戦の時のように制服と学校指定の靴で誤魔化せばよかったと思ってしまっていた。
ちなみにその時はその時で、学校の制服を着ているのが自分だけだったから場違いに感じて、ドレスなんて立派なものは恥ずかしいからいらないと断ったのを後悔していた。
周囲は名門校の制服を着ているマギーを好意的に見ていたし、同年代の少年たちは慎ましやかなお嬢様の制服で強く自己主張する一点にくぎ付けになっていたので、邪なものは混じっても決して蔑む意味は無い視線だったのだが、マギーはちょっとだけネガティブな女の子なのだった。
妹のセルビアは、そんな被害妄想に陥るマギーとは対照的だった。
彼女はまだ十歳だからという事で、動きやすいワンピースのドレスと、踵の低いフォーマルシューズを履いていた。
セルビアはマギーのように周囲を気にするそぶりも見せず、爛漫な様子で新しい装いも、その姿を誰かに褒められることも楽しそうに受け入れている。
マギーのように、知らない大人から褒められてもお世辞を言われていると疑う事はない。
そんな妹を可愛いなぁと思いながら、やっぱり私は見ている方が良いなと、マギーはそう思った。
そしてセルビアにアフタヌーンドレスを着せるなら、どんな色が似合うかなと考える。
鮮烈な赤い色、落ち着いた黒、髪の色に合わせて黄色も映えるだろう。何を着てもきっと似合うなと思った。
「大丈夫、マギー?」
「なにが?」
「いや、何でもないよ。すこし疲れているように見えただけだから」
アベルは苦笑してそう言った。
ブレイドホーム家のブースには、アベル、マギー、カイン、セルビア、そしてシエスタとマリア、さらに何故かケイもいた。
本大会の出場という事で今回もブレイドホーム家の道場にはパブリックビューイングの放映権が与えられており、そちらの方にはアールとアリス、そしてミルクたちが携わっていた。
「大丈夫、マギー? お水貰ってこようか?」
「ううん、大丈夫。
……ケイは、ドレス着ないの?」
ケイは軍の礼服を着ていた。
それは凛々しいケイにとてもよく似合っていて格好良かったが、しかし可愛くはない。
少しもったいないなという気持ちで、マギーはそう言った。
「皇剣だからね。いざって時に戦える格好をしておかないとね」
「嘘ですよ、マギー。お嬢様は恥ずかしいからとドレス選びから逃げたんですよ」
事前に用意しておいた建前を即座にばらされて、ケイは裏切り者を見る目でマリアを見た。
「えー、じゃあ今度は一緒にドレス着よ?
絶対ケイは似合うよ」
マギーの他意のない素直な言葉に、ケイは押される。
そもそもケイも可愛い恰好が嫌いなわけではないのだ。
ただそれを勧めてくるマリアには散々セクハラをされたから、素直に彼女の誘いには頷けなかったのだった。
「う、うん……」
しかしそこでケイは気が付いた。
マリアにも共通する、ケイとは隔絶したマギーのある一点に目を向ける。
それは富めるものと貧しいものを隔てる胸囲の格差社会が、そこにはあった。
「晩餐会以外ならね」
マギーの隣で胸元の開いたイブニングドレスだけは着たくないと思ったケイだった。
◆◆◆◆◆◆
長くて退屈な開会式が終わり、大きく伸びをして通路を歩く。
試合は明後日からで、今日は前夜祭的な晩餐会が執り行われる。
ただこちらは偉い人同士の交流会がメインの催し物で、試合を控えた選手たちは招待はされるものの参加しないのが通例らしい。
親父は当然不参加だし、私もこれ以上の悪目立ちをしたくないので不参加だ。ルヴィアさんは来ていなかったけど、エルシール家との接触も避けたいしね。
ただし兄さんと、そのパートナーのシエスタさんは参加する。
まあそれはそれとして私は帰るので、関係者専用通路を使い姉さんたちを迎えに第二貴賓室に向かっていた。
そして出場選手はだいたいみんな偉い人の関係者なので、自然と一緒に歩くことになった。
その途中で、他の選手から声をかけられた。
「やあ、セージ。一回戦はよろしく頼むよ」
「ニアさん。どうも、こちらこそよろしくお願いします」
私がそう返すと、小馬鹿にしたような声が届いた。
「はっ、騎士様はもう取り込み済みか。噂通り賢く立ち回っているみたいだな」
「ずいぶんな言い様だな、ライム。私が手心を加えるとでも?」
「そう聞こえなかったのか、ニア。ミズフェイクのやらせに続いて、一回戦は仲良しこよしのマージネル家の騎士だ。
疑うなっていう方が無理があるだろう。
いいよなお前は。ガキ相手に遊んで、その次は下位の雑魚だろ。
俺の大将も、お前の所みたいに甘い奴ならよかったのにな」
ニアさんとライムさんが一触即発の緊張感でにらみ合う。
二人は前回の3位と4位だからね、因縁ぐらいあるんだろう。
そんな訳でこの場は若い二人に任せて、席を外すことにする。
「いいのか?」
私が会釈をして先に行こうとすると、親父がそう言った。
「いいんだよ」
トラブルの臭いがするのでさっさと退散したいのだが、
「よくねえよ」
しかしライムさんに止められた。
「御用があるのはニアさんでは?」
「ふざけてんのか。テメエ勝ち上がって来いよ、本当の闘いってものを教えてやる。
そしてジオレイン、息子を始末した後はテメエだ。
時代遅れの骨董品が、いつまでも英雄面して好き勝手してんじゃねえよ」
私と親父は顔を見合わせて、互いに肩をすくめた。
「言われてるよ親父、言い返しなよ」
「口喧嘩はお前の領分だろう」
違います。私は誠意ある説得しかしたことないです。
そしてみんな人の話聞かないから殴り合いで決着付けることになるんです。
「なめやがって。ここで二人とも潰してやろうか」
ほらね。
だけどここで喧嘩するのはさすがにまずい。
「ここで暴れると失格になりますよ。試合はもう始まるんです、焦らなくてもいいでしょう。
ニアさんには悪いけれど、私は勝ちあがりますよ。ご安心ください」
私がそう言うと、ライムさんが鼻で笑った。
「はっ、言われてるぜ、ニア。虚仮にされて、それでも手加減するっていうのかよ」
「お前はアリーシア様との試合を見ていないからそんな事を言えるんだ。
私は、彼にはそれを言う資格があると思っているよ」
「あ゛?」
睨むライムさんを、ニアさんが同じく冷たい目で睨み返す。
ライムさんに答えを告げたのは、それまで黙っていたアルバートさんだ。
「セイジェンドは皇剣越えの天使だ。誇張でも何でもなく、な。当然、貴様よりも強い」
「はっ、だとしたらテメエの母親が弱かったってだけだろう。コネで皇剣になったやつが、最強だなんてメッキ張られて。息子のお前もさぞ苦労したんだろう、なあおい」
「四年も前に俺に負けたお前が、でかい口を叩くなよ」
あ、そう言えばそうだよね。アルバートさん準優勝だったもんね。
ということは、ニアさんは四年前にケイさんに負けたのか。
当時のケイさんはランクで言うと中級上位だったから、間違いなく勝ちを譲ったとか陰口叩かれたんだろうな。
前回は大会を荒らす親父もいなかったことで一番強い人でも上級中位(四年前の新聞の記憶なので不確かだが、ライムさんだったと思う)だったという話だし、ニアさんも四年前は中位かもしかしたら下位だったろうから番狂わせがあっても絶対におかしいという訳でもない。
それでもまあお互いに手の内を知っている同門でかつ、経験の浅い当主直系のケイさんが勝ったとなれば疑いの目もあるだろう。
ライムさんが絡んでくるのはその辺も原因なのかな。
ケイさんは間違いなくこの二人よりも強いから、どうでもいい事だけど。
「お二人とも、口で競い合うのが目的ではないでしょう。すべては試合ではっきりさせればいい事です」
ニアさんが大人の対応をするが、ライムさんとアルバートさんは子供の対応をする。
「四位どまりが口を挟むな」
「表彰台に乗ってからものを言え」
「上等だ、ここでぶっ飛ばしてやる」
そしてニアさんも子供になった。
「それじゃあ私はこれで、みなさん試合頑張りましょうね」
誰も聞いていないけれど、私は再度会釈してその場を離れた。
アルバートさんもライムさんもやんちゃな気持ちが魔力となって漏れ出て、慌てた様子で警備員さんたちが駆けつけてくるけど、私は関係ないのでお暇いたしますよ。
「……いいのか?」
「いいんだよ」
そんな訳で姉さんたちを迎えに行って、明日は平日なので姉さんをマンションに送り届けて、夕飯と明日の朝ご飯を作ってあげて、一緒に食べて、帰ってきた兄さんにお帰りを言って、シエスタさんと一緒に家に帰って、お風呂に入って、ぐっすり寝ました。
朝刊には開会式の様子が大きく報じられ、隅っこの方に闘技場の一部が壊れたとかいう事も書かれていたけど、私は全然関係ないので請求書はやって来ません。
君子危うきに近寄らず。
昔の偉い人はとても良い言葉を残してくれました。




