表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デス子様に導かれて  作者: 秀弥
6章 精霊様に感謝を捧げよう
308/459

301話 インタビューの時間ですね

 




「ちょっとどういう事?」


 大学に休学届を出しに来たレイニア・スナイクは、ばったり出会った剣術同好会の先輩から棘のある声をかけられた。


「すいません。もともと大学で勉強するより、剣の腕を鍛えたいと思っていたんです。

 今まで黙っていてすいませんでした」


 新人戦に同好会の選手として出場して欲しいという誘いを断り個人的に出場し、さらには大学を実質的に辞めるような形で同好会から去る。

 数か月という短い時間ではあるが籍を置いた道場に対する礼を欠く行いに、レイニアとしても後ろめたく思う部分があった。

 だから素直に謝罪の言葉を口にしたのだが、


「そんな事はどうでもいいのっ」

「え?」

「アベル君、婚約者がいるなんて聞いてないよ。あなたは聞いてたんでしょ」


 その話題よりも軽いんだ、私がいなくなること。

 レイニアはそう思って、少し悲しくなった。


「一応、まあ。それがどうかしましたか」

「なんで言ってくれないのよ裏切り者。一人だけ仲良くしてただけじゃなくて、秘密までして」

「いえ、あの、私も話の流れで偶然聞いただけです。

 でもおかしな話でもないでしょ。

 あいつはもう次期名家の名代なんだから、婚約者がいたって」


 レイニアがそう宥めるも先輩が落ち着く様子はなく、むしろ気炎を上げで吐き出した。


「だから狙ってたんじゃない。あんたは良いよね、愛人になってさ」

「ぶっ‼」

「きゃっ、汚いっ。何するのよ」


 思わず噴き出したレイニアの唾を嫌がって、先輩は飛びのいて離れた。

 そしてその離れた距離は、レイニアが即座に詰めよって埋めた。


「誰がそんな事を言ってるんですか」

「え……ええと、み、みんな言ってるよ」


 先輩は不自然なほどに真っすぐレイニアを見る。

 動揺しているのを見抜いて、何の根拠もない思い込みを仲間内で囁きあって、本当の事だと思い込んでいたのだろうと当たりを付けた。

 レイニアはため息を吐いた。


「あいつとは男と女の関係じゃあありませんよ。

 格好いいとは思いますし、将来も有望でしょうけど、私の好みじゃありませんよ」


 要領が良くていつも落ち着いているアベルは、レイニアからすると父や兄を思わせるところがある。

 親しみや信頼は抱くことは出来るが、それは異性としての好意とは違うものだ。

 レイニアはもっと武骨な性格で、分厚い筋肉(からだ)をしたラウド(叔父)のような男が好みだった。

 それに――


「――そもそも、今の私にそんな余分な事にかまけている余裕はありません。変な噂は立てないで下さいね」


 レイニアがそう言うと、先輩は引きつった作り笑いを浮かべた。


「……どうしたんですか?

 …………そういえば、どうしてあいつに婚約者がいるのを知ったんですか?」

「え、ええと……」

「もしかして、来ているんですか?」

「そ、その、私は、別に、ね……」

「余計な事を言ったんですか?

 思い込みで?」

「わ、私は悪くないの。みんな言ってたから」


 レイニアは大きなため息を吐いた。


「もういいです。来てるんでしょ。どこで会いました」

「えっ、なんで?」

「あいつは名家を興すんですよ。余計な噂でその奥さんに恨まれたくはありませんからね」


 先輩が顔を青ざめさせるのを冷たい目で見ながら、どこですかと、レイニアは重ねて尋ねた。


「し、食堂。第一の方。見に行くって言ってた。私は悪くないからね」

「わかりましたわかりました、アベルたちにもそう言っておきます。ただ憶測で根も葉もない事を言うのは控えて下さいね」


 レイニアは返事を聞く気にもならず、走り出した。

 面倒な噂を流された意趣返しに怖がらせただけで、先輩に言ったのはただの方便だ。

 アベルやシエスタが下世話な噂を撒いたからと言って本気で怒るとは思っていない。先輩に何かしようとはしないだろう。


 しかしレイニアはこれからブレイドホームの道場にお世話になる事になる。

 そしてレイニアは師でもあるラウドに破門を言い渡されたため、実家の道場に居場所がない。

 そのラウドを見返すためにも、勢いのあるブレイドホーム道場の居心地が悪くなるような事態は避けたいのだった。



 ******



 レイニアが食堂に入ると、目当ての人物はすぐに見つかった。

 見晴らしがよく、そしてとても目立つ席に二人は寄り添って座っていた。

 糊のきいたブランド物のビジネススーツを着こなすシエスタは、アベルの腕をからめとっていた。

 アベルは脂汗を浮かべながら、シエスタに手ずから『あーん』と食事を食べさせてもらっていた。


「……ごめん」


 レイニアはその光景に、思わずそう言っていた。


 アベルの腕はがっちりと極まっていた。

 たぶんもうちょっとシエスタが力を入れたらポキッと逝くぐらいに極まっていた。

 そしてアベルが食べさせられているのは罰ゲームで食べさせられる類いの激辛スープだ。

 短い付き合いだが、アベルが辛い物を好んで食べていたところをレイニアは見た事が無い。


 ニコニコと笑っているシエスタの目は据わっていて、隣で必死に表情を取り繕って食事をしているアベルの姿も相まって、とても恐ろしかった。

 恐ろしかったが、しかし声をかけない訳にもいかなかった。


「ちょっと、良いですか」

「なにかしら。今は食事中なんですが……ああ、あなた。

 ええ、いいわよ。どうぞそこにかけて。それともアベルの隣がいいかしら。左は空いているわよ」


 レイニアは頬を引きつらせて、シエスタの対面に当たる席に着いた。


「何かおかしな噂を聞いたようですが、それは出鱈目ですよ。私はただ実力の近いアベルに練習相手になってもらっていただけです。それをみて、噂好きの頭の緩い子たちが適当な事を言っていただけです」

「そう。あなたとの噂は嘘なのね。

 別にいいわよ。それで、それ以外の件は?」

「え?」


 レイニアは呆気にとられた声を上げた。


「女教授と密室で、二人きりで、たっぷり2時間すごした。

 女の子が作ってきた手作りのお弁当を一緒に食べた。

 購買の女性とは良く話し込んでいて、休憩中に二人になる事もある。

 食堂のアルバイトの子とも仲が良かったみたいね。

 私を見て泣いちゃって。私が悪い事をしたのかしら。

 ねえ、あなたはどう思う」

「ええと、その、アベル?」


 社交的で多くの人と仲良くしていたのも、機会があれば困っている人の手伝いをしているのも知っていた。

 だがなぜそんなに女性とばかり仲良くしているのだと、レイニアは思った。


「ご、誤解だ。ちゃんとせつ――うっ」

「あら、ごめんねアベル。手が止まっちゃったわ。

 若くて(・・・)食べ盛りなんだから、お腹が空くわよね」


 シエスタはニコニコと笑っていた。ただちょっとばかり瞳孔が開いていた。

 レイニアは関わるべきではなかったと反省した。


「すいません。お二人の仲をお邪魔しました。どうぞごゆっくり」

「レイニーっ⁉」

「アベル、まだまだ食べたりないのね。ご飯も、女の子も」


 シエスタは真っ赤なスープをアベルの口に流し込む。

 一応、自分の分の誤解は解けたのだろうという事にして、レイニアはその場を去ることにした。

 席を立ち、軽く頭を下げたレイニアに、シエスタは声をかける。


「ところでレイニー。

 セージさんが皇剣アリーシア様に勝ったのだけれど、あなたはどう思う?」

「どうもなにも……ああ、そうですね。

 半端に耳聡い立場の人間なら、実績を与えるための工作と捉えるでしょうね」


 レイニアはそう言って肩をすくめた。


「あなたは、どう思うの」

「ありえないと思いますよ。十歳の子供が皇剣に勝つなんて。

 でも私はセージのことはよく知らなくても、アリーシア様の事は多少知っています。

 例え主君に命じられたとしても、あの偏屈なプライドの塊がそれを飲むとは思えませんし……」


 その先を言うかどうか、レイニアは迷った。

 しかしシエスタが言いなさいと目で促すのに折れて、その言葉を口にする。


「……私はあの子を、化け物だと思います。

 人間でないなら、十歳の子供でもそれをやってしまうのではないかと、そう感じました」

「そう。でも天使よ。間違えないでね」

「はい」

「良い子ね、あなたは。

 また別の機会にゆっくりとお話をしましょう」


 レイニアは笑顔を浮かべてその場を立ち去った。

 ブレイドホーム家も伏魔殿だなぁと、そんな事を思って楽しくなった。



 ◆◆◆◆◆◆



 皇剣武闘祭の決勝大会が近づいてきたことで、私や親父にもインタビューの時間がやって来ました。

 やって来たのは妹の時と同じ記者さんだ。


「ええと、それでは同時にインタビューをさせて頂くという事でよろしいでしょうか」

「はい、そっちの方が手間がないかと」

「ふん」


 面倒臭そうに鼻を鳴らす馬鹿親父。

 私と違って親父は早い段階から決勝大会出場が決まっていたのだが、スケジュールが合わなかった(親父がメディアからの打診にずっと返信しなかった)関係で遅れに遅れて、締め切りギリギリになった形だ。

 ちなみに私も何かしらのよく分からない理由で締め切りギリギリまで取材の申し込みが無く後回しになっていた。


「それでは始めます。

 お二人は、やはり同じ道場で練習をされていますよね」

「はい」

「ああ」


 親父と一緒に頷いて、話を進める。

 面倒臭そうな親父の言い様は不機嫌で突き放したものに聞こえるのだろう、記者さんの感情(まりょく)は恐怖の割合を濃くする。


「ははは、それは、そうですよね。

 手短にいきますね。

 普段はベルーガー卿がご子息の指導を付けていらっしゃるんですよね」

「……」

「いや、答えろよ。そうです。その通りです」


 親父が黙っているので、代わって記者さんに答えておく。


「は、はは。その、普段ブレイドホームさんは――」

「違うな」

「――どのような生徒で……えっ?」


 親父がまた突飛な事を言い出して、記者さんが呆気にとられる。


「違うと言った。指導はしていない」

「親父、とりあえずで意表突こうとするの止めてくれる?」

「む」

「え、ええと、違うというのはどういう事でしょうか」

「自分の練習にもなっているからとかそういう理由です。

 指導は100%私を育てることにエネルギー使ってなくて、自分の成長の糧にしている部分があるからとか、そういう事です。

 つまるところ修行馬鹿なんです」

「……むぅ」


 親父が呻くが、言いたいことはちゃんと伝わるように言いなさい。

 なんとなくそれっぽい感じで短く纏めるからいつもおかしな誤解を受けるのだ。


「は、はは。そうなんですか。あの、それでお間違いありませんか。いえ、ブレイドホームさんのお言葉を疑うわけではありませんが、一応ご確認を」


 あれ?

 なんで記者さんは私にも恐怖を抱くんだ?

 疑われたくらいで怒ったりしないよ。


「ああ」

「間違いないっていう意味で言ってるんだろうけど、記者さんの言葉尻とつなげるとそれわかりにくいからね。

 相槌打ったぐらいにしか聞こえないからね」

「む、そうか」


 親父がわかったと言うように頷いた。

 そして記者さんに声をかける。


「こいつの言う事は信じて良い。間違っていれば殴る」

「は、はい」

「いや、殴るなよ。口で言えよ」


 私の言葉は誰の耳にも届かなかったようで、記者さんが次の質問を始める。

 まあ、いいけどね。

 早く終わらせたがってるのわかるから。

 いいけどね。


「お二人は今回決勝まで当たる事はありませんが、どの選手との対戦を楽しみにされていますか?

 あるいは警戒されている選手でも構いません。

 教えてください」


 私と親父は同時に互いを指さした。


「え、ええと。

 や、やはり親子で決勝戦に進むのが目標ですか?」

「ああ、勝ち上がって来るのはこいつだろう。俺に勝てる可能性があるのもな」

「僕はともかく、親父が負けるのは想像できないんで、まあ勝ち上がれば当たるでしょうね」


 そして親父の優勝を阻止できるのは私だけだろうね。

 記者さんがごくりと唾を飲んだ。

 そして震える声でこう言った。


「もし、もしも決勝で、お二人が戦う事になれば、真剣に戦われますか」

「「?」」


 私と親父は揃って首を傾げた。

 そして親父が通訳しろと私に目で訴えかけてくる。

 しかし私も記者さんの言葉の裏がわからないよ?


「もちろんそれはそうしますが、ああ、親父には手加減して欲しいですよね。十歳の子供相手に本気出すとか大人げないにもほどがあるでしょ」

「それはアリーシャに言ってやれ」

「やだよ今度こそ本気で嫌われるもの。

 ああ、そういえば親父また失礼な事言ってたんでしょ。あの人の旦那さんライバルだったのに完全に忘れてたって」

「名前で言うのが悪い。得物や戦闘スタイルを言えばピンときた」

「普通は名前で覚えるんだよ」


 私は親父にツッコんで、一区切りがついたので記者さんに話を戻す。


「それで、何でそんな事を?

 ……うん? ああ、もしかして八百長で皇剣が決まるのを危惧しているんですか?

 その疑いを晴らすのは悪魔の証明でしょう。

 私としては違うとしか言えませんし、それ以上の労力を費やすつもりもありませんよ」


 だってね、決勝大会に出たことも、守護都市上級下位のランクを持っていることも、便宜が図られているって噂があるし、そう思われても仕方のない部分はあるんだよ。


 私はハイペースでランクが上がるだけの実績は積んだけど、そもそも普通はそんな機会にそうそう巡り合うものじゃない。

 竜発見もテロリスト討伐も防衛戦もデス子に厄介事を押し付けられたからこそだ。


 だから何も知らない他人からすれば、誰かが上げた嘘戦果を親の威光でかすめ取っていると受け止めるのも致し方の無い事だ。

 そしてだからこそ、そんな疑いに真面目に付き合う気はない。

 だって疑おうと思えば何でも疑えるもの。デカルトさんもそう言っていたもの。


「そう、ですか。そうですね。

 失礼なことを口にしました。許してください」

「いえいえ」

「それで、これは大会とは直接関係はないのですが、ブレイドホームさんの母親に関してになります。

 私がそうだと口にする女性がいるようですが、お二人は何かご存じですか?」


 ホントに関係ないな。まあいいけど。


「いえ、何にも知らな――」


 私の言葉は中断した。

 させられた。

 物理的に。

 殴られて。

 床に埋まったから。


「――何するんだ馬鹿親父、床が壊れただろ」

「ふんっ」


 この……っ。

 まあいい。まあ、いいとしておく。

 後で覚えてろよ。


「とりあえずそれはデリケートな問題なので次に行きましょう」

「は、はい」


 怯える記者さんを落ち着かせながら、私はこうしてインタビュー記事をささやかな被害(床板張替え費用)を出しつつもなんとか乗り切った。



 ほっとした様子で帰る記者さんを、


「それじゃあ親父の理不尽な暴力に苦しめられながら、けなげに頑張る優しい少年の、そんな良い記事をお願いしますね」


 ごくごく当たり前の挨拶をして見送った。



 ふっふっふ、これで会場の声援はいくらか私よりになるはずだ。

 空気を読んで手加減してくれてもいいのだよ、親父。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 親父の理不尽な暴力に苦しめられながら、けなげに頑張る優しい少年 アカン、ママンの勘違いが加速していく
[良い点] さらっと破門くらっとるやんけwww 兄さん隙だらけ過ぎませんかね。 アシュレイお爺ちゃんも(なんならジオとデイトも)草葉の陰で腕を組んでうんうんと頷いていることでしょう。 [一言] そう…
[良い点] 教祖のブリザードで長兄の昼食がww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ