295話 皇剣武闘祭最終予選・一回戦
誤字報告いつも助かっております。
誤字は出さない方が良いという事は重々分かっているのですが、ついやってしまっています。
この場を借りて厚くお礼申し上げます。
いやあ、大変なことになりました。
親父の武器コレクションをカグツチさんの所まで運んで、飛翔剣にしてって頼んだら、ぶん殴られました。
いや、それは別にいいんだ。
痛かったけど別にいいんだ。
親父が馬鹿な事を言わなければ怒られなかったし殴られなかったけど、まあ別にいいとしておくんだ。
カグツチさんが怒るのは当然だからね。
親父がタダで持って行った自分の作品を、使い捨ての爆弾に加工してっていうんだから、怒られて当然だ。
でも私は思うんだ。
芸術は爆発だって。
大事に取っておくより、爆発させてみんなの記憶に残そうって。
そしてパクリ常習犯をその爆発で懲らしめようって。
そんな感じの事を適当にまくし立てて説得は出来たから、それは良いんだ。
何故か竜角刀に付けた名前を教えろと言われて、付けてなかったから〈竜角刀右〉と〈竜角刀左〉と答えて怒られたけど、それもいいんだ。
何やらまた親父が伝言忘れてたから怒られた形だけど、それも一先ずいいとしておくんだ。この恨みは全て後でまとめてぶつけるからいいんだ。
ともかくカグツチさんが飛翔剣の加工をして、それを政庁都市に持って来てくれるまでに考えておけばいいってことになったから。
ちゃんと考えんと全部ぬしに叩きこむとか言われたけど、ネーミングセンスには自信があるからそれはいいんだ。
何が良くなかったかというと、産業都市で防衛戦が発生しました。
最初っから二級の警報が出て、それはすぐに一級に変わりました。
一級はあれだ、守護都市早く来てっていうエマージェンシーコールだ。
つまり普段とは違うやばい魔物が来たってことでした。
しかもそれは一種類ではなく、複数の種類が協力してやって来た形で、もしかしたら竜の前触れかもって話でした。
それを聞いたら私は出ますよ。
みんな来るなって言いますよ。
いや、実際には竜なんて来てなくて、いくつかの不幸なことが重なっただけで、つまりはデス子が悪いという事なのだけど、その時はもちろんそんな事わからなくて、心ウキウキでしたよ。
だって、竜って言ったら大金背負った鴨なんだもの。
いや、一応ね、デス子との関係性とかも調べようとか思ってはいたのよ。
でもお高いから。高額報酬間違いないから。残りの借金を一気に(日本円換算で)百億ぐらいまで減らせるから。
それは目の色変えますよ。
竜と親父が来るまで雑魚で小遣い稼ぎだヒャッハーってなりますよ。
ただ途中で竜いないってのは感じ取って、それじゃあ仕方ないかって思って、雑魚狩りに精を出しましたよ。
いや、魔力供給に頼らないと不味そうだったので言うほど雑魚ではなかったんだけど、さらにその先のロック解除パート2も試した方が良いかなってことで、バーサーカーモードになったら、うん、一方的な展開になったよ。
真面目なことを言うと、周りに来るなって言っておいてよかった。
最初に使った時は内側に抑え込もうとしたせいで、一分足らずで体がズタズタになった。
今回はケイさんを見習って全方位に魔力ぶちまけてヒャッハーしたんだけど、五分で限界が来た。
そしてそれを治すのにまた一週間かかってしまった。
二回目だからもうちょっと早く治せるかと思ったけど無理だった。
意識が朦朧としてるのに自分の身体治すって、すごく難しい。
試合まで猶予のあるこのタイミングで試せてよかった。
うっかり使うとその後は不戦敗確実になるのだから。
タイムリミットと反動以外の欠点として、やっぱりあの力は無差別に殺意をまき散らしてしまう点がある。
まったく制御できないわけではないけど、ちょっとした気の緩みで味方を殺してしまいかねない。
普通に考えたらスポーツの延長にある御前試合で使う力じゃないが、しかし練習をする機会を与えられたってことは、使えってことなのかな。
そう考えると親父との試合でロックを外し、いざ決着だっていうタイミングにこれまで以上の殺意が送り込まれてきて、手元が狂うかもしれない。
デス子が親父を殺させようとしているのならそういう事も起きるかもしれないが、まあそれは無いだろうな。
ただこの力――魔力暴走と呼ぼう――をコントロールするのは必須だろう。
今までは土壇場でしか使ってこなかったロック解除一つめ、魔力供給の方も十分試せた。
こちらも負担はかかるが、体が成長したこともあって使った後にぶっ倒れたり、一週間も後遺症を引きずるようなことはない。
しかし普通の魔力供給だけだと、親父の神域に対抗するのが精いっぱいだろう。
正直なところ、親父との実力差は未だに大きく開いている。
他の人を見た時と違って、神子である親父の夢はひどく不鮮明でぶつ切りなものだったが、それでも世間一般で言われている全盛期の強さがどの程度かは分かった。
たぶんそれは一年前のデイトと互角か、あるいは少し弱いぐらい。
それならば十分勝機はあった。
勝機はあったんだが、私の知る親父はみんなの記憶にある十二年前の全盛期よりも、そしてデイトよりもはるかに強い。
呪われてる間にも強くなってるなんてひどくずるい。
そもそも神子なんだから、そんなズルまでしなくてもいいだろう。
……はぁ。
気が重いなぁ。
色々と準備はしているけど、勝てる気がまるでしない。
ホントに手加減してくんないかな、馬鹿親父。
しないだろうなぁ、馬鹿だから。
さて色々考えることも準備しなければならない事もあるが、何よりもまずは決勝大会に進まなければ話にならない。
下の予選とは違って、最終予選は一山十六人と人数が決まっており、四回勝てば決勝大会への進出が決まる。
私の山には同じくシード権を取っていた上級の戦士と騎士が合わせて三人と、二次予選を勝ち上がってきた人たちが十二人。
うん、まあ、何とかなるだろう。
◆◆◆◆◆◆
最終予選は決勝大会と同じく、国立闘技場で行われる。
決勝大会にはすでに前回大会で二位から四位だった選手に参加資格が与えられている。
準優勝だったアルバート・セル。
三位のライム・スーザーはシード権を辞退し、ジオレイン・ベルーガーにその枠を譲っている。
そして四位のニア・オーバック。
彼ら三名を除いた、残り十三枠を争う戦いが最終予選である。
決勝大会とは違って試合数が多いため、最終予選では複数の試合が同じ会場で同時に開催される。
その中でひときわ注目を集めるのは、やはりセージの試合であった。
一般席では、最終予選から観客総動員というのは珍しい事ではない。
しかし例年なら比較的空いている第二貴賓室も、次世代の英雄の真価を見定めようと各都市の代表格が集まっていた。
エルシール家も、その中の一つだった。
「叔母様はまだ引きこもっているの?」
「ああ、そのようだな。御祖母さまが付き添っているよ」
エメラが父オルパに尋ね、オルパはそう答えた。
オルパがエメラのそばに居てくれるのは珍しい事だったから、その答えにエメラはふーんと気のない答えを返して、新しい話題を振った。
「ねえお父様、私の絢爛祭。セージ様にも招待状を送りましょう」
「そうか。そうだな。それもよいだろう。
お父様、問題ありませんね」
「……ああ、構わんよ」
「どうかしましたか?」
上の空で了承したダイアンを訝しんで、オルパが尋ねた。
ダイアンは娘の事を考えていたが、口に出したのは別の事だった。
「セージの応援は少ないな」
「少ない、ですか?」
オルパは頭を傾げた。
観客席でははっぴを着て、〈守護天使最強伝説〉と書かれたタスキをかけた一団が、珍妙なダンスを踊りながらセージを応援していた。
ちなみにその一団の先頭で一際輝く踊りを披露しているのは、とある監査室室長と騎士養成校の教頭(←サングラスとマスク着用)であり、とある受付嬢は仕事のため参加できなかった。
最終予選の一回戦という事で、未だに勝ち残っているハンターも見受けられる。
そんな地元を守るエースである彼らのために、応援団が結成され声援を送るというのは珍しくもないが、それらと比べても遜色のない規模だった。
「見目麗しい次期英雄として広報の仕事を任されているのだ、あれぐらいは普通だろう。
私が言っているのは、セージの身内だ」
「たしかに、姿が見えませんね」
英雄ジオを筆頭としたブレイドホーム家のものはもとより、親しくしていそうなケイなどのマージネル家の重鎮や、ギルドの元締めであるスノウなどの姿はなかった。
守護都市側の重要人物は例年の最終予選と同様、最低限の人員しか送ってきていない。
例外はシャルマー家の皇剣アリーシアくらいだった。
そしてそのアリーシアのいるシャルマー家のブースから、ひときわ大きく甲高い子供の声が響いた。
「ふん、聞いていたよりだらしがないな。アルがライバル視するから期待してみたが、中級がせいぜいではないか」
シャルマー家のブースはエルシール家の隣で、その大きな声に気を取られたことで続く会話もエルシール家の面々の耳に入って来る。
「坊ちゃま、他の方の御迷惑になります。もう少しだけ声を落とし下さい」
「む、わかったのだ」
隣とはいえ衝立があるため直接その様子が窺えたわけではない。
だが闘技場と第二貴賓室を隔てるガラスにはその姿が反射して映っており、エメラは大きな声を出して窘められた同じ年頃の少年の姿を認めて鼻で笑った。
恥ずかしい子ねと、そんな風に笑って、そしてその少年とガラスを介して目が合った。
「おい、貴様」
「坊ちゃま?」
少年は立ち上がり、衝立の裏に回ってエメラに指を突き付けた。
エメラはびくりと大きく背を震わせて、その子を恐れた。
「俺を見て笑ったな」
アリーシアは少年の後頭部を引っ叩いた。
少年は顔面からふかふかの絨毯にダイブした。
「なぐった‼」
涙目の顔を上げて、少年はアリーシアに抗議した。
「落ち着きなさい。他所様の女の子を怖がらせるとは何事ですか。それでも騎士の卵ですか」
「う、でも……」
「言い訳をするな」
アリーシアは再び教育的指導を行い、少年の顔面は再び毛足の長い温かな絨毯に抱きしめられた。
そしてぴくぴくと痙攣する。
「失礼、エルシール家の方ですね。ご迷惑をおかけいたしました。平にご容赦を」
「あ、ああ……」
シャルマー家にというよりは、皇剣に礼を示す意味でダイアンは立ち、その謝罪を受け止める。
ただ守護都市の作法にはやはりまだ戸惑う部分もあって、咄嗟に気の利いた返しは出来なかった。
それを自覚したからこそ、ダイアンは咳払いをして気を取り直した。
「何やら孫娘が失礼な態度をとったようで。
こちらの少年は?」
水を向けられた少年は勢い良く立ち上がると、胸を張って応える。
「俺はピーター・シャーム。シャルマー家の次期当主だ」
少年ことピーターはそう名乗り、その顔面は再び職人が手縫いで仕立た絨毯と勢いよく仲良くなった。仲を取り持ったのはもちろんアリーシアである。
「シャーム家。先代当主殿の、お姉さまの家系でしたね」
「さすがに博識ですね。お坊ちゃまはまさしく、その跡取り息子に当たります」
「……左様でございますか」
ダイアンはそう相槌を打ち、ポーカーフェイスの下で頭を働かせる。
分家筋の長男が、他家に対し本家の跡取りを自称する。
当主クラーラが未婚の子無しであることを差し置いても行き過ぎた発言だろう。
ともすれば後日、唐突に病死しかねない愚行だがアリーシアにもピーターにも失言をしたような態度は見受けられない。
暴行は加えられているのだが、それは――たぶん守護都市では――通常の躾の範疇に見受けられた。
何か事情があるのだろうが、気安く突くには危険な薮だと判断し、ダイアンは話題を変えることにする。
「そう言えば、気になる事をおっしゃっていましたね。天使セイジェンド殿は、評判ほどではないと」
「……ふ、ふん」
涙目のピーターは足を震わせながら根性で立ち上がり、再度胸を張った。
「俺は見る目のある男だからな。
天使が戦っているのはハンターで、中級中位ぐらいだ。
十歳でそれと互角なのはすごいかもしれんが、俺だってそれぐらいはできる。
アルや皇剣たちが騒ぐほどじゃない」
アリーシアはこれ見よがしにため息を吐いた。
「何だアリーシア、俺の見立てが間違っているというのか」
「いいえ。確かに今、セイジェンドは互角の戦いをしています。
ですが勝つのは間違いなくセイジェンドですよ」
ピーターは自分の判断には自信があった。
相手が師匠とも呼べる皇剣アリーシアとはいえ、いや師匠だからこそ、頭ごなしに否定されたことに反感を覚えた。
「む、何故だ。一進一退の勝負だぞ」
「簡単な事です――」
アリーシアは冷たい声で言う。
侮蔑の念を隠さない、そんな声音で。
「――対戦相手は、遊ばれている」
そしてアリーシアは続けて言った。
「それとお坊ちゃま。
中級中位相手に互角などと、見栄を張るものではありません。恥ずかしい」
ピーターは再び、高級な絨毯に床板を震わせるほどに熱烈なキスをすることとなった。




