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3話 殺人事件

 裁判では、ほとんどの人は自分の無罪を訴える。

他の人が真実を見極めることは難しく、

例え、真実を話すと誓っても、嘘をつく人がいれば、ますます分かりにくくなる。

それで、有罪判決を受けた後でも無実を訴え続けることもあり、それが正しかったとしても、

ラブはその事には関わらないと決めていた。

自分の立場を利用されたくなかったからだ。

ところが、そのラブを動かす事件が起こってしまった。



 ブレットは、妻のレイチェルと生まれたばかりの女の子のティナと共に、ロサンゼルスの郊外に住んでいる。

その日、仕事が休みだったブレットは、ティナの世話をし、

二階のベッドルームのベビーベッドに寝かせると、しばらくの間、その安らかなな寝顔を見ていた。

そこへ、玄関のドアベルが鳴る。

ブレットはレイチェルに休むように言って玄関へ下りて行った。


 レイチェルは、しばらくして玄関が騒がしいのに気が付き起き上がると、窓の外を見て驚いた。

数台のポリスカーが家の前に止まっているではないか。

慌てて階下へ下りて行くと、丁度その時、ブレットは警察官に連行されるところだった。


 「ブレット!?」

レイチェルが叫ぶ。

ブレットは振り返り、彼女に言う。

「大丈夫。 何かの間違いだ」

ブレットは、殺人の容疑者として逮捕されてしまったのだ。


 そのニュース、ブレットが麻薬密売人を殺害した罪で逮捕されたことは、すぐに報道された。

もちろん、ブレットは身に覚えがないと主張する。


 逮捕される数日前、ブレットは、近道をするため街の裏道を通り抜けていた。

そして、そこで殺人が起こり、目撃者の娼婦がブレットがやったと証言したのだ。

しかも、たまたま近くに警察官もいて、ブレットがそこから立ち去るのを目撃されてしまっていたらしい。


 裁判はあっという間に終わり、ブレットは殺人の有罪宣告を受けてしまった。

その後、ブレットは控訴し、あらゆる手を尽くしたけれど、何の進展もなく、隣の州の刑務所へ送られていた。


 それは、家族や友人たちにとって辛いことだった。

もちろん、彼らは、ブレットが無罪だと信じている。

そうであっても、ブレットを知らない人々は、やはりブレットが殺したのだと思っている。

そして、その冷たい目は家族にも向けられていた。


 それに、ブレットには、小さな娘もいる。

家族や友人たちは、この娘の事を思うと心が痛んだけれど、どうすることも出来なかった。


 

 そのころラブは歩く練習をしていたのだけれど、心臓も悪くなり、結局、車椅子の生活を余儀なくされてしまっていた。

娘のアマンダには、女の赤ちゃんも生まれ、ラブに自分の近くへ引っ越すように勧めている。

息子のベンジャミンも、すでにワシントン州へ引っ越している。

それでラブは、自分もワシントン州へ引っ越そうかと考えているところだった。


 そこへ急に、姉のジョーンが見舞いにやって来た。

「ジョーン、私はロサンゼルスには行かないわよ」

ラブがジョーンにそう言ったのは、ラブに度々自分の家の近くへ引っ越すことを勧めていたからだった。


 ジョーンは、少し悲しそうな顔をした後、言い始める。

「今日はね、ちょっとお願いがあってきたの」

ラブは、このジョーンの憂いた様子に何事かと驚く。

この優しくて裕福な姉に困ることがあって、しかも、身体障害者の自分に何の頼み事があるのだろうと思う。


 「メアリーって覚えている?」

「メアリー? ああ、ジョーンの友達ね。

覚えているわよ」

「それがね・・・」

とジョーンは、少し言いにくそうにする。


 「メアリーの息子のブレットが、殺人の有罪判決を受けてしまったの」

「何ですって!?

ブレットを覚えているけれど、私が最後に見た時は、まだ小さかったわよね。

いったい、どうして殺人なんて犯したの?」


 「本人は、身に覚えがないって言ってるのよ。

それなのに目撃者はブレットが殺したと証言したし、警察官もブレットがそこから立ち去るのを見たって言うの」

「それで? 私に何をして欲しいって言うの?」


 「ラブ、あなたにこの判決を覆すのを助けてくれと頼めないのは分かっているわ」

「もちろんよ。

何度か私は、そんな話を聞かされたけれど係わるのはまっぴら御免よ」

「ええ、それは分かっている。

ブレットの家族もその判決を覆そうと努力したのだけれど、上手くいかなくて、

今は、もう受け入れるしかないと思っているのよ。

ただ、ブレットは、隣の州の刑務所に入っているの」

「隣の州!?」


 「そうなの。

それで、家族としては、ブレットを訪問して励ましてあげたいのだけれど、遠すぎて大変なのよ。

だから、その、あなたの助けで、何とか、近くの刑務所に移してもらえないかしら」

「・・・それだけ?」

「ええ、それだけよ。

もし良かったら、ブレットの家族に会って欲しいの、今、ここに来ているのよ」

「ここに!?」


 ラブは、ブレットの母のメアリーとブレットの妻、そして幼い女の子に会ってさらに驚く。

それはおよそ麻薬に関わる殺人者の家族とは思えないほど、善良な人たちだったからだ。

ラブは考える。


 ブレットの家族、そしてこの事件、ラブは何か変だと感じている。

この家族はブレットの無実を信じて疑わない。

もちろん、盲目的に無実を信じたりする家族もいるけれど、この家族はそれとは違うように思える。


 ラブはこの家族に、ブレットの無実を信じ、それが思うようにいかない悲しさがあるのに、

なぜか穏やかな、そして強いものを感じていた。

それはどうしようもないことを受け入れ、それでも自分たちに出来ることをしようとしている強い姿が見えるからだった。

むしろ現実的で、刑務所にいるブレットを支え励ましたいと、必死に努力する美しさを漂わせている。


 ラブは、その家族の思いに動かされ、そのことを引き受けようと思った。

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