表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4話 信頼

 ラブがその殺人事件について「何かおかしい」と思ったのは、はっきりした理由があったわけではない。

それは、彼女の直感だった。

とは言え、それだけでは司法を動かすことは出来ない。

それにラブは、この家族と親しくはなかったし、詳しい情報を持っているわけでもなかった。

例え良く知っていたとても、自分に出来ることが限られているのも分かっている。


 ラブは、もと上司だったゴードンを訪ねることにした。

その時ゴードンは、刑務所から法務省へ移動していたので、ラブは彼のオフィスを訪問する。


 「ラブ、元気そうだね」

ゴードンは、気持ちよくラブを迎えてくれる。

「元気よ」

ラブは、そう答えて、ゴードンに久しぶりに会える嬉しさで顔をほころばせる。


 「それで?

僕に会いに来るなんて、何かあったのかい?」

「ええ、私のことじゃないんだけれど・・・」

とラブは言って、ブレットのことを説明する。


 ゴードンは、ラブが説明し終わっても、しばらくは黙っていた。

そして、口を開く。


 「ラブ、君は、こんなことを頼みに来るような人じゃないよね」

「そうね。 いつもなら関わらないわね」

「その君が、この事件のことを気にするだなんて、何か感じるんだ」


 「私が感じているのは、この人たちはいい人たちだってことよ。

彼らは私に、ブレットを無罪にして欲しいと頼んでなんかいないわ。

遠くの刑務所にいるブレットを、近くの刑務所に移して欲しいと頼んでいるの。

私だって、自分の分を弁えているから、裁判の判決をどうこうしたいとも思ってないしね。

ただそれだけよ」

それを聞いて、ゴードンはふふっと笑う。


 「君らしいね。 分かった。 何とかしてみよう」

「ありがとうゴードン」


 ラブも穏やかに笑って感謝し、それ以上のことは頼まなかった。

そのようにして、彼女は自分が尊敬するゴードンにすべてを任せることにしたのだけれど、

その彼女の姿勢はゴードンを動かすことになる。



 それから時が経ち、ジョーンが電話で、ブレットが無罪釈放されることになったと言ってきた。

ラブも、そうなって欲しいと思っていたけれど、実際にそのようになるとの確信は無かったので、かなり驚いた。

そして殺人犯は、何と、ブレットを見たと証言した、あの警察官だったと聞かされる。


 ラブは、さっそくゴードンに電話を掛けた。

「やっぱり調べたのね」

それを聞いたゴードンは、嬉しいのだけれど、あまり良い話でもないと言う風な口調で答える。


 「君がおかしいと感じるなら、何かがおかしいんだよ。

君の判断は、いつも正しかったからね。

それで調べてみたら、警察署内に腐敗があって、麻薬売買人との関係が明らかになったんだ。

あの警察官は麻薬密売に関係していて、交渉が決裂して密売人を殺してしまったらしい。

そして、そこにいた仲間の娼婦に、ブレットが殺したと証言させたってわけさ。

まあ、警察内の汚点だし、こんなことがあってはならないんだけど、膿みは出さなければならないからね」


 「あなただから出来たことよ。

それに私は、そんな事件に係わるなんて、まっぴらごめんだもの。

本当に助かったわ、ブレットの家族も大喜びよ」

「そうだね、僕も、無実の人間を助けることができて嬉しいよ」


 これは、ラブが動かなければ解決しない事件だったけれど、

ラブにとって、自分がきっかけを作ったというより、このゴードンの、自分への信頼の方が何より嬉しかった。

ゴードンは、頼まれなくても相手の気持ちを汲み、間違いを正し、きちんと行動してくれる上司だった。

ラブは、こんな上司のもとで働けたのは、自分にとって誇りだと思っていた。



 歓びに溢れたブレットの家族は、ぜひラブに感謝したいとパーティの招待状を送ってきた。

そして、記念のプレゼントに何が欲しいかと聞く。

ラブは、こう答えた。

「そうね、バスローブがいいかしら」


 ラブは久しぶりにロサンゼルスの街へ行く。

そして、感謝のパーティで、歓びに満ちた大勢の友人たちに迎えられる。

それは、ラブにとって、自分が今まで生きてきたことのすばらしい褒美のような日で、

プレゼントのバスローブも、勲章のように思えた。



 それからラブは、娘のいるワシントン州シアトルの近くの都市で、便利のいい、素敵な中庭のあるアパートへ引越す。

そこで、気立てのいいホームヘルパーの世話を受け、新しく出来た友人たちの訪問も受けたりしていた。


 ラブは、その友人たちの一人、近くに住む日本人女性に、自分のことを面白おかしく話して聞かせる。

ラブの話には、辛いことがいっぱいあったはずなのに、いつも明るく楽しく話してくれるので、

うっかりすると、そんなに大変じゃなかったみたいに聞こえるから不思議だ。


 ラブは、ますます心臓が悪くなり、時には起きれない日もあったりする。

そして、よくこう言った。


 「朝、ホームヘルパーが来たら、私はベッドで死んでいたりしてね。

まあ、そんな安らかな死に方がしたいものよ」


 すると、その日本人女性は言う。

「それじゃあ、ホームヘルパーが可哀想よ。

ちょっとは起きててよね。

そしたら救急車を呼んで、みんなで看取ってあげるから」

このような会話をしながら二人は笑う。


 そうしてラブは、自分が望んだ通りに、安らかに、60歳をちょっと過ぎた若さで逝ってしまった。



 ラブはあまりにも朗らかに自分の話をするので、その日本人女性は、聞いたことを確かめるため、聞き返すこともしばしばだった。

例えば、今でも思い出すラブとの会話は、こうだったりする。


"Wre you really the first femail correction officer in California?"

(あなたは、本当にカリフォルニアの最初の女性刑務官だったの?)


ラブは、微笑みながら答える。


"Yes, I was the first one."

(ええそうよ、私が最初だったの)



                                   ラブへの思い出と共に


                                   END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ