第6話
町が燃えている。
人が逃げまどう。
後ろからやってくる妖や人の群れが、逃げまどう人達を襲っては殺している。
「やめろ」
そう叫んでも、明紅の声はどこにも届かない。
充血した目で村人に襲い掛かる武士は、もはや人間なのに人間ではなかった。
──鬼だ。
「やめろ!! 殺すな!!」
その叫びが届かない。
しかし、次の瞬間、目の前に清陽が降り立った。
「目を覚まして。紅紅」
その声で、自分が夢の中にいることを自覚し、ハッと目を覚ました。
目の前には、清陽と清陽の夫、春蕾が心配そうに見つめていた。
「ああ、よかった」と春蕾がいう。
彼は黒い長い髪を後ろに結って、服にたすきをかけて手ぬぐいを握りしめている。
ずっと世話をしてくれていたのか、少し疲れているように見えた。
「春蕾……清陽、僕、なにして……」
「神通力の暴走だ。大勢の強い意思が込もっている未来を見てしまえば、体に反動がくることがある。日々鍛錬をすれば、すぐにそんなこともなくなるから」
「紅紅は昔からそうだったからね。明白はそろそろ調子を崩すことは分かっていたみたいだけど」
そう言って、春蕾は明紅の頭をよしよしと撫でた。明紅はその手を振り払うことなく、息を深く吸い、そしてその心地よさに身を預けるように瞑想をはじめた。
妖狐の中でも、天狐と呼ばれる存在になれるものは限られている。
明紅は、清陽の次に天狐となり、今でも明紅に続いて三番目に天狐になったものはいない。
明紅は、清陽と同じだった。
修行をして鍛錬を積む前から神通力が無意識のうちに使えてしまっていたのだ。
それを使いこなせるようになるまでにはそれでも時間がかかった。
千年もの間、山の中にこもって俗世とは離れ、修行をする生活をしてきたのだが、こうしてまた俗世の強すぎる意思に触れれば、神通力も暴走しやすくなる。
「最近瞑想サボってたからかな」
ふと、明紅が目を閉じたまま呟く。
「それは大いにある。今もサボっている」と清陽が明紅の眉間を指先でぐりぐり押してきて、明紅は「痛い痛い」と言って笑った。
「この件が落ち着くまで、山に行っていた方がいいんじゃない?」と、春蕾が言う。
「今回は春蕾に賛成だ」
明紅はその言葉に起き上がった。
「じゃあ、今回の祈祷の件を片付けるまで」
「…わかった。そうしようか」
清陽の同意を受けたが、春蕾はいい顔をしない。清陽はそんな夫を見て、彼の頭を撫でた。
「大丈夫。私がついている。春春がそんな心配しなくても大丈夫だ」
「そうだよ」と言ってみるが、春蕾はいまだに不服を顔全体で表している。
こうしていると、時々自分はこの二人から生まれてきたのではないかの思う明紅だったが、出生記録によれば、この二人の孫夫婦から生まれたのが明紅である。
「春蕾、どうしてもこの件だけは片づけたいんだ。かわいいひ孫からの頼みだよ、ね、お願い」
そういうと、春蕾の眉間はさらに濃くなる。しかし、春蕾はため息をついて「わかった」と言った。
清陽と明紅は同時にふう、とため息をつく。
そうすれば、春蕾は隣にいる清陽の背中をバン、と叩いた。




