第5話
この書物庫には嘘は記されることはない。
ここの棚にある、王朝関係者の本をひとつとれば、なにを考えてなにを思い、なにをしたのか容易くわかるのだ。
それは死者にのみ限るのだが、便利なものである。
明紅は裴王朝16代目皇帝の本をひとつ手に取った。
それを最後のほうから読めば「弟である裴靖川に暗殺される。享年37歳。また、弟である裴靖川はのちの17代目皇帝に即位」と書かれている。
「まさか本当だとは」
そう呟くと、前のほうに座っていた汪天が振り返り「何の話ですか?」と聞いてきた。
「裴王朝の16代目についてご存じですか?」
「ああ、はい。暗殺でしょう?」
「知ってるんですね」
「17代目は地獄行きですからね。私の管轄ですよ」
まだ死んでもないのに地獄行きが決まっているのも悲しいものだが、16代目の命を奪うということはその運命を背負うことになるのだ。
「じゃあ、今調べているのは?」
「秘密です」
「秘密だったら借りて調べているのでは?」
そういうと、汪天は大声で笑いはじめる。
「いや、実は今の王朝はこの国を継承するにはふさわしくない血筋だという話を聞きまして。私の管轄ではないんですけれど、ちょっと楽しそうだなと思って」
「……ああ、そういう……暇ですか」
「暇です」と即答してきたので、明紅は苦笑いをするしかなかった。
「汪天殿は、どう思っていらっしゃるのですか? この王朝は滅ぶべき?」
「我が正統な血筋であると言って沈王朝から帝の座を奪い取ったのですからねえ。まあ、誰かに滅ぼされても文句は言えないでしょう」
「そもそもいるんですかね、裴王朝より以前の王朝の子孫は」
「見たらわかるのでは?」
彼が指さしたのは「李月王朝」の棚だった。
明紅は興味だけでその王朝の棚をまっすぐに歩いていく。最後までたどりつくまでには時間がかかった。そして、最後の棚の本には『胡明静』と書かれている。
最後のページからゆっくり見ると、このものは『胡明一族』らしく、その一族の33代目で、息子を34代目に指名して死去したという。
息子の名前は、『胡明宇』。
明紅は、その名を見て目を細めた。
そして、明紅はその胡明一族が初めて李月一族に関わったものを探し出す。
棚をいったりきたりしているうちに、一人の胡明と名をもつ男を見つけた。
その本を開いてみると、その者の娘が皇后になったことからのちに代々外戚として権力を持ち始め、代々娘を後宮に入れ、皇后になったものも3人いる名のある一族だと説明書きがあった。
「家系図がほしいな」
明紅は、本を棚にしまい、書物庫をあとにして受付へと向かった。
受付には藤原という名の彼女がいた。
「藤原様、家系図を見たいのですが」
「では、案内させていただきますね」
さっそく案内してもらえることになり、藤原の後に続く。
やってきたところはあまりにも膨大の棚がずらりと並んでいて、羽を持つ小さな人間たちが大量に浮いていた。
「誰を調べたいのですか?」
「胡明一族です」
そう名を告げるだけで、ひとりの飛ぶ人間が巻物を持ってやってきた。
二人がかりで持ってきたと思えば、その場で広げてくれる。
その胡明一族の最初を見れば、案の定知り合いの名前が書かれていた。
「全く、あの人はなにをしているんだ?」
明紅はため息をついて、そして「もういい。ありがとう」と告げた。
家に帰る前に明紅は清陽のもとに来ていた。
「何かわかった?」
「人界と子供作って、その子供が胡明一族を作ってるおじさんがいる」
「ああ、紺紺だろう?」
紺紺というのは、明紺と言う。明紅にとって大伯父にあたる存在だ。
「知ってるの?」
「知ってるよ。だって、当時本当に怒ったからね。それで、どうして胡明一族のことを調べているんだ?」
「……今の王朝は滅び、次の王朝はすぐ生まれる」
「見えたんだね」
その言葉に、明紅はうなずいた。
「胡明一族、34代目当主、胡明宇が次の王朝を開く」
「なにもしてはいけない。いいね」
「分かってる」
未来が見えたとしても、関係のある人間にそのことを告げてはいけない。例えば、皇太子に「王朝が滅びる」なんてことも言うことすらも禁じられている。
あの皇太子が王朝を滅ばせるきっかけを作るのか、それとも全く関係のない者たちがその引き金を引くのか。それは明紅には分からないが、少なくともこれだけは分かる。
王朝が滅び、次は胡明宇が新しい王朝を開く。




