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妖狐は亡国の皇太子と謎を解く  作者: 犬村汐里


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第3話




 清陽(チンヤン)の神像の前に明紅の狐の姿が現れた。




 明紅(ミンホン)はその姿のまま周囲を探索することにする。




 聞いてはいたが、廟はずっと放置されているらしい。


 まったく手入れの行き届いていない様子に、明紅は悲しくなり、大きなため息をついた。



 もし、この廟を前王朝の者たちが見たら、きっと血を吐いて気絶するだろう。



 そして、彼は人の姿へと戻り、手をひらりと一払いした。



 その瞬間、廟は一瞬にして新しく建てられたような姿へと変わる。


 その代わりに周囲の木は一部消えてしまうが、明紅はこんなもの誰も気づかないと確信していた。




 なぜなら廟がここにあることに気付いているものは、数百年今回の祈祷したものただ一人だけだからだ。


 もし、ここにある木々が過去に神木のようなものだったら──。


 そんなことをふと思いついてしまい、ぞっとする。




 慌てて使った木材が神木の類ではないかと廟を触って確認した。


 神聖なものの気配がするものはすぐわかるが、そのような気配はない。



「大丈夫そうだな」



 そう呟いてはみるが、壁にした木材である元原木が、文句を言っている気配を感じてそっと手を離した。



 すると、明紅はハッとして振り返った。


 ずっと遠くではあるが、こちらへと人が向かっている気配を感じ取った。



「祈祷しにきたか」



 そう小さく呟き、明紅は壁のほうに立って姿を消す。


 しばらく待っていると、一人の少年から青年に変わろうとしているぐらいの年頃の男が廟の中に入ってきた。



「昨日より綺麗だ……誰か来たのか?」



 彼はそう呟く。


 明紅は目を閉じて清陽に念言術で言葉を送った。



『清陽、俺の目を共有する。祈祷したのはこの人?』



 その言葉に答えるように『そう』と返事がきた。




 服装はどう見ても高い身分だ。この年齢の皇族男性は一人しかいない。あとはまだ幼い年齢だ。


──皇太子殿下。




 その彼が跪いて祈祷をはじめたころ、明紅は姿を現した。



「天狐さま、お願いがあります」



 明紅はその祈祷に声を挟んだ。



「僕がその願いを聞いてあげるよ」と。



 皇太子はこちらを振り返った。目を丸くして、「天狐さま?」と口にする。



「天狐さまではない。天狐さまの右腕。明玄(ミンシュアン)とでも呼んでくれるかな」



 明玄は偽名だ。


 この祈祷が解決すれば関わることもない人間に、本名も字も覚える筋合いはない。



「明玄殿、願いを聞いてくれるんですか?」


「聞く。聞くから、どうして殺さないといけないんだ? 理由を聞きたい」



 その質問に、皇太子は正座をして姿勢を正した。



「俺は皇太子です。そして、父は17代皇帝です。父の前の皇帝は俺の叔父でした」


「兄弟間で継いだのか」


「ええ。基本的にうちは子供へと継がれることが多いそうです。ですが、叔父は娘しかいなかった。なので、帝の地位は弟である私の父に継承されました」


「兄弟で年齢差があったのか?」


「7つしか違いません」



 7つしか変わらないということは、早くになんらかの理由で皇太子の叔父、先帝が崩御したということ。


 この話をするということは、即ちこの死が普通ではないことを言いたいのか──。



「お前の親父さんは、位を譲り受けたのか? それとも無理矢理奪ったのか?」


「叔父を殺して奪いました」


「なるほど」



 はっきりと答えたその言葉に、嘘はないようだった。


 嘘をつけば、簡単に見破れる。


 明紅は、腕を組みながら皇太子の周りを歩いた。



「それで? 殿下はなんで親父さんを殺したい? そもそも暗殺された根拠はあるのか? 証拠は?」



「……ありません。でも、確かに父が殺しました」


「証拠がないなら俺は殺人なんて請け負わない。殺したいなら自分でやりなよ」



 そういうと、皇太子はうつむいてしまう。



「できません」


「なんで」


「近くにいる護衛が強いからです」



 悔しさを吐露するように、言葉を震わせながら吐き出した。



「力がほしい?」



 その言葉に、彼は顔を上げた。



「いいえ。あいつを殺してください。妖怪なんでしょ? 強いんでしょ?」



 目をまっすぐに、彼は叫びそうな声で言う。



「強いけれど、簡単に人間を殺したりはしない。だって弱いから」


「じゃあ、俺の人生も命もあなたにあげる。だから、殺して」



 皇太子の思いを容易く飲み込んでしまえば、天狐さまの名を恥じることになる。


 明紅は、人生の中で出会った一番最低な男を思い出しながら笑顔を作った。


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