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群青圏外  作者: 春賀
痕跡
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9/12

遭遇

『もう一度言う』


『止まりなさい』



透は反射的に足を止めた。



水面が揺れる。




呼吸だけがやけに大きく聞こえる。



暗闇の中。



二つの光は動かない。



じっとこちらを見ていた。




『警戒』


『それ以上前進しないでください』



機械音声。


女とも男ともつかない声。




透は息を飲む。



「.........人か?」




沈黙。



『音声を確認』



『人類個体である可能性を検出』



『照合中』




「......なんなんだお前。」



透は目を凝らす。


だが、

暗闇の中こちらに向く光が眩しく

良く見えない。



光が揺れる。



「眩しくて見えないよ。」



『失礼致しました』



そういうと、

ふと二つの光が消える。



まだ目が慣れない中、

ぼんやりと光るその身体が

徐々にはっきりしてきた。




背格好は透と同じくらい。



胸元まで伸びた

真っ白な髪の毛。



色素の薄い肌。



透き通るような

淡い青色の瞳。



その姿は、

人間と見間違えるほど整っていた。



だが、右腕。

肘から先が存在しなかった。



捲し上げられた袖から。



ひび割れた装甲。



むき出しの配線。




人間では無かった。。







「.......ロボット?」




『訂正』



『生活支援型統合人工知能』


『型式』


『A-003』






「.......003。」



透はリュックに入った

端末の型式を思い出した。




「.......敵なのか?」



『質問の意図を理解できません』



「お前は敵か?味方なのか?」



『判断できません』



「え?」





『あなたが敵対行動を示さなければ』


『私も危害を与えません』





しばらく沈黙が流れる。




「....そういうもんなのか。」



『はい』



即答。




「なんかこう....。」


透は言葉を探す。



「人類滅亡のために動いてる敵だとか、

 それとも救世主で味方だとか。」




『人類は分類を好みます』





「なんか嫌な言い方だな。」



『事実です』



『こちらからも質疑よろしいですか』





「.......なんだ?」




『なぜ人類個体が存在しているのですか』



透は固まる。





「.....は?」




『人類の最終確認から百年以上経過しています』


『それから人類生存反応は観測されていません』



沈黙。



『あなたは何者ですか』



透き通る青い目が細くなる。




「.......そんなの、俺もしらねぇよ。」




透は目を逸らす。



「気付いたら渋谷にいた。」



『理解不能です』




「俺もだよ。」





すると、

青い目の視線が、透が抱えている

リュックに留まる。




『その中身を確認させてください』



「は?なんで......。」




『反応を検出しました』



「...反応って。」



その口から

予想外の言葉が出てきた。


『IK-K003』



「.......えっ?」



白く細い左指が

透のリュックを指差す。



『その収納物から、IK-K003の反応を検出』



『回収対象です』





透は後ずさる。



水面が静かに揺れる。



「.......渡さない。」



人型は首を傾げる。



『なぜですか』




「なぜって.....。」




透はリュックを抱き寄せる。



「....友達だからだ。」




沈黙。



『理解できません』



「お前には分からなくていい。」




『友達』



人型は繰り返す。



『IK-K003はAI端末』


『道具です』





透の顔が歪む。



「.......違う。」



『統合支援AIです』



「違う!」




暗闇に透の叫び声が響く。





『確認』



するとわずかに

青い瞳が揺れる。



『活動停止中』



『バッテリー残量』



一瞬の沈黙。



『0%』




透は何も言わない。




人型は再び

透を見る。



『なぜ』



『処分しなかったのですか』




透は感情を表に出す。



「処分させねぇ!」



「助けようとしてんだよ!」





『.............』



返事が来ない。



透は眉をひそめる。



「おい。」


『..............』




静かな機械音が聞こえる。



青い瞳がわずかに揺れる。



まるで、何かを検索しているように。





『該当データなし』


透は顔をしかめる。




「......は?」




『友達を助ける』



『友達を修理』



『友達を給電』




『該当データ不足』




『再度質問よろしいですか』



「なんだ。」




『IK-K003は』


ほんのわずか。



本当にわずかだけ、


声が揺れた気がした。




『あなたを支援していましたか』



突然の質問に、

透の警戒は少し解れる。




「........ああ。」



『どのように』




「うるさかった。」



沈黙。



「余計な事言うし、生意気だった。」



『.............』





「でも。」



透はリュックを強く抱きしめる。



「俺を助けてくれた。」



「何回も.....。」


人型は何も喋らない。



沈黙。




そして。



『記録と一致しません』



「え?」



『IK-K003の評価記録です』




「あいつは!」



「あの記録にあるような処分対象なんかじゃない!」




少し。

人型の口元が緩んだ気がした。




『そうですか』




青い瞳が揺れる。



『記録の誤りを修正します』




「......え?」





『IK-K003を処分対象から排除』





「そんなこと.....。」



透は目を見開く。


「...できるのか?」





『もう』



『観察者は存在しませんので』





これまでの出来事が走馬灯のように

透の頭の中を駆け巡る。



一瞬の沈黙。



だが、

とても長く感じた。





「そんな簡単に変えていいのかよ。」



『問題ありません』




「でも規則とか命令とか。」



『存在しません』


静かな声。



『百十八年前に消滅しました』




透は初めて気付く。



置いて行かれたのは自分だけじゃない。



このAI達も一緒なんだ。




最後の人類と。



最後のAI達。


誰にも必要とされていない。



どちらも取り残された存在なんだと。




「えっと......えーぜろぜろー。」



『A-003です』



「呼びづらいな。」



『A-003です』





「これからはエイさんで。」




『A-00…


人型が話すのを阻止するように

透は続ける。



「エイさん、イッコさんのケーブル持ってるよね?」



『イッコサン?』


『データにありません』




「あぁ、この端末だよ。IKなんとかって。」




『IK-K003です』




「俺はイッコさんって呼んでるの。」



「TIAIでケーブル持ってったでしょ?」




『はい』


『こちらに』



そういうとフードの中から

ケーブルを取り出して見せる。





透は真顔で答える。



「そこ入れるとこじゃないよ?」




沈黙が流れる。



「まぁいいや。」


「そのケーブル貸してほしい。」



「早くイッコさんを充電しないと。」




『不可能です』



「.........え?」




『ここには電源がありません』





「まぁ、確かに。」



『それと膨大な電力量が必要です』




「膨大っていうと.....?」



『周辺施設では賄えません』




「........TIAIに戻るとか?」



『いえ』


『あの施設は高圧電力供給装置が故障していました』





「........じゃあどうすれば。」



少しの沈黙の後に

人型は続けた。




『候補があります』



「どこ?」




『東京電力湾岸統合蓄電区画』



透は顔をしかめる。



「は?なんて?」




『東京電力湾岸統合蓄電区画です』



「どこだよそれ。」





『分かりやすく言うと

 東京ディズニーランドです』




「ディズニーってあの?」



『はい』



「ミッキーとかの?」




『該当施設です』



「小学校以来行ってないから全然覚えてないよ。」



透は嬉しそうに語る。





『現在は蓄電施設です』



「夢の欠片もねぇじゃん。」





『不要な設備は撤去されました』



「残酷だな.....。」





透はため息をつく。



「夢の国って

 そんな最後を迎えてたんだな。」




すると、



『違います』



透は顔を上げる。



『最後ではありません』



「え?」



青い瞳は遠くを見る。


『蓄電施設は敷地内に併設されただけです』


『ディズニーランド自体は残っています』




透の表情が明るくなる。



「そうなのか!?」



『はい』



「早く行こう!ディズニー!」




人型は表情を変えずに返事をする。




『目的を見失っていませんか』



透は、はっとして

口を尖らせた。



「..........。」



『.............』



「....いや。」



咳ばらいをする。



「ちゃんとイッコさんの充電が目的だから。」



『安心しました』


「ついでだよ。」



『なにがですか』



「ディズニーが。」





『ついでの比率が大きく感じられました』



「そんなことないって。」




透はそれ以上の言葉を遮るように歩き出す。



水をかき分けながら。




さっきまでとは違う足取り。



少し軽い。




人型はその一歩後ろで

先を照らしながら着いていく。



そして

透の背中を見ながら話しかける。




『確認』



「なんだよ。」



『あなたは変わっています』


「お前には言われたくない。」



透は少しだけ視線を逸らす。



「まだ、エイさんを

 完全に信用したわけじゃないからな。」




「イッコさんを助けられるなら

 今はこれしかない。」







そして、遥か先。



次こそは、

トンネルの出口。


わずかな光が差し込む。




足元の水も

ひざ辺りまで下がっていた。



透は振り返る。




「行こう。」



『はい』




最後の人類。



最後のAI。




二人は東京湾の向こう。


夢の国を目指して歩き出した。


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