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8リリアン

シエナの膝に座るミオ。



大きな胸に押さえられ、腕を伸ばしている。



シエナのレイピアがクレイドで光出す。



ミオの小さな腕に魔法がかかる。



ブゥーンー



すぅーっとキズが癒えていく。



ミオ「わぁー。とても優しい魔法です。」



シエナ「そんなこと言ってー、アナタも使えるのでしょ?治癒魔法。」



ミオ「治癒魔法は難しいですよ。大人の方でないとクレイドのバランスが上手くいかず、発動されません。」



カリンはミオの様子をちらちらと確認しながらディノスの止血を続ける。



ディノス「あぁ……よかった……。その美しいお姿に傷一つなく……」



カリン(この人は…ブレないわね…。)



カリン「ごめんなさい。魔法が使えなくて。ミオの治療が終わるまで、もう少し待っていて下さいね。」



シエナ「いいのよ、カリン様。負けたのだから。ディノスは。」


「それに、そんなにカリン様に近付いちゃマズイんじゃないの〜?」



ミオ「大丈夫ですよ。」


「ディノス様がカリン様に近付きすぎた際は、防御魔法で対処いたしますから。」



ミオは笑顔でそう言った。



ディノス「おいおい、カリン様とお話するたびに毎回あれをやるつもりかよ。」



ディノスはうなだれる。



しかしディノスの脳裏には、先ほどのミオの言葉が残っていた。



―「クロフィア家の者ではなく、一人の魔法使いとして。アナタを認めます。ディノス様。」ー



言葉にできない何かだった。



胸の奥が少しだけ温かい。

そんな自分が、一番理解できなかった。






シエナ「今の戦いを見て確信したわ。ミオちゃん、絶対に普通じゃない。」



カリンはどこか誇らしげに胸を張る。



シエナ「精製魔法まで使えるなんて聞いてないわよ。」



ディノス「当然だ。精製魔法は誰にでも扱えるものではない。」


「A級聖騎士ですら、使い手はごく一部だ。」



シエナ「私が知っている使い手はウィンくらいだわ。」


「ミオちゃん、薬研に知り合いがいるの?」





ー精製魔法


所持している物質を材料に、別の物体を作り出す魔法。


精製には必ず材料が必要であり、何もない場所から物を生み出すことはできない。


精製魔法の使い手は薬学研究所から支給された物質を携帯していることが多い。


扱う物質の種類が多いほど戦術の幅も広がるため、知識量がそのまま実力に直結する特殊な魔法である。




ミオ「薬研とは、様々な物質が保管されている施設ですよね。他にも薬や毒物の研究を行っているとか。」


「ですが、私はまだ伺ったことはございません。」




シエナ「は?」

ディノス「……は?」




シエナ ディノス

「えぇー!?」



驚くふたり。



シエナ「それじゃあ、どこで材料仕入れてるのよ!?」



ディノス「薬学研究所の物質は精製魔法しやすいよう、高純度に精製されているんだぞ。」




ミオ(ギクッ…)



ミオ「い、今のガラスの精製は、この前ヴィスタの街で頂いた塩と海岸にある砂を使って作りました。」



ディノスは信じられなそうな顔をした。



ディノス「嘘だろ……天然素材から、あれほど鋭いガラスを作ったのか?」



シエナは納得しながらも、もはや呆れていた。



「アハハ…ミオちゃんにはもう驚かないわ…。毎回自分で材料を採取しているなんて……。」



カリンは困ったように視線を泳がせるミオを見ると、すぐに話題へ割って入った。



カリン「ミオはお祖父様から直接材料をいただいているのよ。」



リリアン「え、嘘でしょ?アルバ様から!?」



ディノス「おいおい、何者なんだよ君、ほんと。」



カリン「この間は、お祖父様からいただいた絹と綿を使って、リリアンにドレスを作ってあげたのよ。ね、ミオ。」



ミオは必死にうなずく。




シエナ「待って。」ディノス「待て。」



シエナ「今なんて言った?」



ディノス「ドレス?」



シエナ「リリアンに?」



シエナ ディノス

「リ、リ、リリアンにドレスぅー???」



そして、



「あっはっはっはっはー!!!!」



二人は涙を浮かべながら笑い転げる。



シエナ「あはははっ!あの真面目すぎるリリアンにドレスって!」



ディノス「ふはは。緊張して固まってる姿しか想像できないな。」



カリン(あの時のリリアン、本当に可愛かったのよね。本人が聞いたら怒るだろうけど。)






その時だった。

闘技場の入口から聞き慣れた声が響く。







「ー誰がドレスを着て固まっているですって?」





キリッとした声。



シエナ ディノス 「え…。」



そこにはアシメショートの女性がいた。



カリン「あ、リリアン!こんにちは!」



カリンは小さく手を振る。

(聞かれたー!)



リリアン「こんにちは。カリン様。」



慌てるシエナとディノス。



シエナ「リリアン!相変わらずキリッと決まってるわね!」;



ディノス「おおー!出来る秘書さん!」;



リリアン「聞こえてたわよ。アナタ達の笑い声。」



リリアンはディノスに近付き、

ニッコリ笑う。



そして笑顔で絞め技をする。



「それに、闘技場の荒れ具合とディノスのケガの程度を見る限り…」


「随分と派手な試合をしたみたいね。」



カリン「リリアン、これは、その、私がみんなの魔法を見たくって……。」



リリアン「カリン様が責任をとろうとする時って、だいたい嘘なんですよね。」



グィィー



腕に力が入り、首をきつく絞める。



カリン(相変わらず容赦ないわね。でも少しだけ安心する。)



ディノス「おい…おい…悪かっ…たって…」



ミオ「私がディノス様に勝負を挑みました。」



シエナ「そそのかしたのは私。」



すると、リリアンはパッと腕を離した。



ディノス「ゲホッ、ゲホッ、この私に対しても、容赦ないなリリアン。」



リリアン「フン…。」



シエナ「リリアン、笑っていたことは謝るわ。」


「それに、対決が終わって、今はみんな仲良くなれたの。あまりディノスをイジメないで。」



ミオ「リリアンさん、ディノス様にも躊躇しないのですね。」



シエナがウインクをした。



「友達なのよ。私たち。」



リリアン「ただの同級生です。初等科の時の。」



ミオは驚いた。

「アルバ様の秘書さんと聖騎士様のお二人がお友達!?」



ディノス「リリアンは途中で魔法学校やめて、薬研に行ったんだよ。それで今や教帝の秘書。」



シエナ「25歳組で一番の大出世よ。リリアンは昔から頭良かったからね。」



リリアン「ずいぶんと私を褒めるわね。先ほどまでは盛大に笑っていたのに。」



シエナ ディノス「ご、ごめんなさい。」



ミオ「リリアンさん、魔法学校に通っていたのですか?何故、薬学研究所へ?」



リリアン「私が魔法をやめたのは単にクレイドが少ないから。戦闘に使えないと判断したのよ。」



カリン「リリアンのウェディングドレス姿、とってもキレイだったのよ。今度二人にも見せてあげたいわ。」



リリアンは顔が赤くなり、目を背ける。



ミオ「カリン様もリリアンさんに対しては砕けていらっしゃるように感じます。」



リリアン「18歳の時、教帝秘書に任命されて以来、カリン様のお世話も少しばかり仰せつかっておりますから。」



シエナ「今ではカリン様のスケジュールも管理してるものねー。」



ディノス「そのお役目、私に振っても良いのだぞ。」



カリン「それだけではないわ。」



「リリアンはもっと、前から、」



「私がひとりになってしまったあの日から…」



「そばにいてくれた。」




カリンは懐かしそうにリリアンへ視線を向ける。












〜〜〜〜〜カリン回想



ー10年前、



ーカリンの寝室



カリン「ひっく…えっぐ…。」



白衣姿のリリアンが部屋に入ってくる。



今よりも幼いが知的な姿はそのまま。



両手には膨らんだ紙袋を抱えていた。



リリアン「やっぱり。何も口にしていないのですね。」



机には手付かずの食事が。



リリアン「点滴治療を終えてもう三日です。本当に倒れてしまいますよ。」



カリン「……。」



リリアンはベッドの隣に腰掛ける。



リリアン「今、教会は必死に犯人を追っております。」


「おそらく、レイノルド様も……犯人を追われていることでしょう。」



カリン「……。」



リリアンは顔を赤らめながら頬をかく。



リリアン「わ、私、料理が苦手なのですが…。」



カリン「?」



リリアン「カリン様と共にお食事をしたくて…。」



そう言って杖を取り出す。



リリアン「アルバ様には内緒ですよ。」



すると紙袋からニンジン、ピーマン、タマネギ、タケノコ、豚肉が飛びだし、

調味料と共に踊り出す。



カリン「わぁ…。」



カリンの腫れていた目が少しずつ輝きだす。



そしてあっという間に美味しそうな料理が完成する。



リリアン

(この私が…料理を完成させた!!!)


(魔法だけど…);




リリアン「東方名物、酢豚です。」



カリン「すごい…すごいわ。」



(魔法で料理できるんだ!ちょっと格好いい!)



カリンは驚くもやはり元気がない。



「でもごめんね、リリアン。食べたくないの。」



リリアン「なら、私ひとりで頂きますね。」



カリン「え?なら何もここで作らなくても。」



リリアン「言ったでしょう? 私はカリン様と共にお食事をしたいのです。」



カリン「だから食べたくないのよっ……」



ベッドのシーツをぎゅっと掴む。



リリアン「食事は体を作るためのものです。」


「ですが、それだけではありません。」


「食を通して、人と人とが同じ時間を過ごす。私は、その時間こそが大切だと思っています。」



カリンは俯いたままだ。



リリアン「頼りないかもしれませんが。」


「食事の時間を通して、カリン様の笑顔を作る時間を……私にいただけないでしょうか?」







リリアンは毎日カリンの元へ通った。



「今日は沿岸地域のパエリアです。」



「今日は中部のシュニッツェルです。」



「今日はだし巻き卵と肉じゃがです。」



無理に励ますこともなく。

無理に話を聞くこともなく。



ただ、料理を囲む時間を作り続けた。



そしてある日。



カリンのお腹が鳴る。



ぐぅ~……



カリン「……」



リリアン「……」



少しだけ恥ずかしそうに目を逸らした後、

カリンは口を開いた。



カリン「リリアン。私もいただいていい……?」



リリアン「もちろんです。」







〜〜〜〜〜〜〜〜





カリン「リリアンは10年前の事件があった後、私の心を支えてくれたわ。」


「あの時間があったから笑顔を取り戻せた。」


「リリアンにはたくさん甘えてきたから、本音を出せちゃうのでしょうね。」



ディノスは横目でミオに笑いかける。



ディノス「キミより深い関係性でジェラシー感じてる?」



ミオ「そんなことありませんよ。」


「リリアンさんのお陰で今のカリン様が笑っていられるのだから。」




リリアンは耳まで真っ赤に染める。


「そ、それは……。私は大したことなどしておりません。」


「カリン様がご自身で乗り越えられた結果です。」



そう言いながらも、どこか落ち着かない様子で視線を逸らした。



カリン(またそうやって誤魔化す。本当に不器用なんだから。)



リリアンは小さく咳払いをする。



リリアン「コホン。」


「私がやって来たのは他でもありません。」


「カリン様。アルバ教帝がお呼びです。ミオさんも同行して下さい。」



カリンとミオは顔を見合わせ、

互いに頷いた。



カリン(いよいよ…お祖父様からの指示が。)







***




ーカッ、カッ、カッ




西日が差し込む長い回廊を、

ディノスとシエナが歩いていた。



シエナ「もーう、さっきから黙っちゃって」


「勝負に負けたことよりも、ミオちゃんの言葉の方が効いてるんでしょ?」



シエナは見透かしたように

ディノスの顔を覗き込む。



ディノス「なっ。クロフィア家であり、色男であるこの私がお子さまなんかの言葉になど…。」



明らかに動揺をみせるディノス。



シエナ(わかりやす…。)



「それと、あの竜巻のワザは、魔獣討伐に使う物で市街地では使えないわ。」



「危なかったんだから、ほんと。」



「魔獣ばかり相手にしてるから、人相手の加減を忘れちゃったんじゃない?」



ディノス「すまない……。」



シエナ「………。」


「魔獣討伐ばかりを買って出てるのはずっと弟くんを探しているのでしょ?」



「色々と背負いすぎよ。ディノス。」



ディノスは俯き、

悲しげな表情をする。



ディノス「ははは…。なんでもお見通しだな。シエナは。」


「恥ずかしいものだよ。クロフィア家なんて大層な名前を背負っているくせに、兄弟は皆バラバラだ。」



シエナ「アンタとは長い付き合いだからね。」


「新貴族でありながらも、努力してA級聖騎士にまで上り詰めて、家族を大事に想っている。」


「きっとミオちゃんは見抜いたのよ。」


「アンタの剣も。魔法も。その奥にあるものも。」


「ディノスという人間の本質をね。」




ディノスの顔が西日で赤く照らされる。



ディノス「なんだよ。今日は優しい女性ばかりに囲まれているな。ハハ…。」



シエナ「それにしても原生地域ばかりあたっているけど本当にいるの?弟くん。」



ディノス「恐らくな。都市部にはルクセリア軍の目がある。見つかればすぐに情報が入るだろう。」


「ここまで軍の目を掻い潜っているんだ。アッシュの奴、人里離れた場所にいるはずだ。」



ディノスは小さく苦笑した。





「まるで野生の獣だよ。」






「きっと原生地域のどこかにいる。」




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