4クレイドバッテリー
祈りの時間を終え、一行は教会地下へ向かう。
カリン「ヴィスタ支部は地下に設置してあるのですね。」
チェスタ司祭「はい。このような小さな街では行政機関を教会に設けています。場所がありませんので、大きな物は地下に備え付けてあります。」
ー地下に降り立つとそこには、
うす暗い部屋。
太陽の光が入らない空間。
そこには微かに光が灯っている大きな結晶があった。
クレイド貯蔵システム、
"クレイドバッテリー"だ。
カリン「この街の人口に対して、少々大きめのバッテリーですね。ですが光がほとんどない。」
チェスタ「はい。我々には主だった産業は御座いません。海岸の岩肌につく塩を採取して教会に提供する事によって、聖騎士様から有難くクレイドを頂いております。」
アイ「塩は薬学研究でたくさん使用するとかで。」
ミオ「なるほど。聖騎士のクレイドを投じているのなら大きめのバッテリーが相応しいかと。街民の皆様からの徴収はされていないのですか?」
チェスタ司祭とアイは目をぱちくりさせる。
アイ「あら、ミオさん、聖騎士様や"クレイドバッテリー"について詳しいのね。」
ミオは「ハッ…!」として
慌てて手で口を塞いだ。
アイ「そうですよ。聖騎士様のクレイドはとても大きいので、半年ほど街のインフラを保てます。」
チェスタ「ホッ、ホッ、勉強熱心なお嬢さんだね。勿論、街民からも毎週クレイドは徴収していますよ。」
アイ「しかし、やはり一般の者ではあまりクレイドが貯まらず、人口も少ない為、消費するクレイドに追い付かないのです。」
ミオ「聖騎士はどれくらいの頻度でヴィスタの街に?」
チェスタ「一年に一回ほどです。我々も大量に塩を用意するには時間が必要な為、一年に一回、聖騎士様へ塩をお納めし、恩恵を受けております。」
ミオ「それでは残りの半年はクレイドが足りなくなるのでは?」
チェスタ「左様で御座います。なのでこのようにクレイドの光が弱くなり始めると、街民からの徴収を三日に一回にし、生活クレイドを制限する街独自の基準を作りました。」
カリン「………。」
カリンは黙って聞いていた。そして"クレイドバッテリー"の前へ静かに体を向ける。
結晶にそっと手を起く。
シルフィが肩から飛び立つ…
真剣な顔つきのカリン。
力を込める。
体から赤い光が漏れ出す。
空間が少し揺れる
カリンの赤い髪が大きくなびく
するとー
カーッ!!
結晶が煌々と光始める。
部屋がとても明るくなる。
少し眩しい位だ。
チェスタ「おぉ…!なんと!!なんと!!」
アイ「大きい…!凄い光…!フェナード様のクレイドはここまで。」
アイ「この光の量なら、半年いや、それ以上は…」
ミオ「カリン様のクレイドは素晴らしいです。」
ミオは放たれるその光を心地よく浴びているようだった。
カリンは振り返り口を開く。
カリン
「今のチャージでこの街のクレイドは一年保つでしょう。」
「そして今後は聖騎士見習いの生徒を半年に一回、課外授業と称してヴィスタに向かわせましょう。彼らも群を抜くクレイドの持ち主です。そうすれば生活を制限する必要はなくなります。」
アイは口をぽかーんと開けている。
アイ「今ので一年も保つのですか…」
チェスタ「聖騎士見習いが半年に一回とは。それは本当なのですか?」
「それにしてもなんと、なんと、強い光でしょうか。」
これほどの強い光を放つバッテリーはチェスタ司祭も初めてだった。
「カリン様、あぁなんと。街民は救われます。深く感謝致します。」
チェスタ司祭は胸に手をあて深々とお辞儀をする。
カリンはニコッと微笑んだ。
***
ー学び舎
教会が設立した学問の場。世界中の教会に併設している。
教会は教育を何よりも大切にしている。
あらゆる国の、全ての子どもに対し、無償で学びを提供している。
運営は全て教会によって行われている。
それはつまり、世界中のメイデス様への祈りが次世代の子ども達を育てていたのだった。
ヴィスタのバッテリーにクレイドを投じたカリンとミオは、
次にヴィスタの学び舎を訪問。
アイ先生の授業に参加する。
子ども達がざわついていた。
「カリン様だ!本物だ!」
「わー!赤い髪よ!お美しい!」
「カリン様がボクたちの教室にいる…。」
アイ先生は眼鏡を人差し指でクイッとあげた。
アイ「はーい。みんな静かに。」
「ご存知の通りだと思うけど、今日は教会本部より、次期教帝となるカリン・フェナード様がお越し下さりました。挨拶をしましょう。」
「こんにちは!カリン様!」
子ども達は元気いっぱいに声を揃えた。
カリン「こんにちは。素晴らしい挨拶ですね。今日は皆さんの授業を見学致します。どうぞよろしくね。」
子供達「ワー!!」「キャー!!」
アイ「はい。静かに!それから今日は本部より一日編入生のミオさんもやってきました。皆さん仲良くしましょう。」
ミオはペコリと品よくお辞儀をする。
男の子「か、可愛い…。」
アイ「それでは、カリン様は窓側の椅子におかけ下さい。ミオさんは後ろの席に座って下さい。」
ミオ「はい!」
ミオはちょこんと席に座る。
カリンは教室を眺め、微笑んでいた。
子供と触れるこの時間が何よりも好きだった。
***
〜歴史の授業〜
アイ「アルファリア教会の創設者、レクサス・フェナード様です。」
ホワイトボードにレクサスの肖像画が貼ってある。
アイ「千年前に女神メイデス様が人々へ愛を与え、導き、ルクセリアが誕生したと説きました。」
「そして、未来の為には教育が何よりも大切である、掲げました。皆さんが今いる学び舎があるのもレクサス様のお陰なのですよ。」
子ども達
「教祖様だ〜!ボク、知ってたよ!」
「ずいぶんと…男前なのね、レクサス様。」
「カリン様と同じ赤い髪ね。ステキ。」
カリン
(この頃はまだ写真の技術は無かったのよね。)
(それにしても、教祖レクサス様ってチャラい雰囲気あるのよねー。)
(陽気な笑顔のあの肖像画、まるで父さんみたい…。)
(まぁ、ご先祖様なんだから似ているのもあり得るわね。)
アイ「そして、今日お越し下さったカリン様はレクサス様の末裔にあたります。フェナードの方々は代々、アルファリア教会を見守り、女神様の教えを私たちにお導き下さっております。感謝を伝えましょう。」
子ども達
「ありがとうございます!カリン様!」
カリンは少し照れてしまった。
子ども達からの言葉が一番心に響く。
アイ「それから、レクサス様は大変優秀な技術者でもありました。その代表的なものは何か知っているかな?ーではミオさん。」
ミオ「はい。クレイドを貯蔵する"クレイドバッテリー"と呼ばれる結晶です。人体からクレイドを集め、蓄積、運用する事によってルクセリアの文明は発展を遂げました。街の明かり、列車、船舶、工場の機械、私たちの生活にかかせない暖房や浄水設備に至るまで、その全てはクレイドバッテリーによるものです。レクサス様の開発した素晴らしい技術によりこん日の経済活動、社会インフラは成り立っております。」
子ども達「………。」
ミオ「ハッ!!!」
(やってしまいました。;)
アイ先生の眼鏡がズレ落ちる。;
カリンは苦笑い。(あら…あら…;)
アイ先生はズレた眼鏡を人差し指でクイッと戻す。
アイ「アハハ…正解です。クレイドバッテリーをこんなに説明出来るなんて素晴らしいです。ミオさん、よく理解していますね。」
子ども達「ワー!」
「クレイドバッテリー、ボクも知ってたよ!」
「ミオちゃん、凄〜い!!」
ミオは慌てて席を立ちお辞儀をする。
顔は真っ赤になり照れていた。
***
アイ「次の偉人は、今もなお人気が語り継がれる、伝説のS救魔法使い。ラミアナ・フォード様。」
ラミアナの写真が貼り出される。
子ども達
「はい!ボク、好き!大好き!!」
「私もいつかラミアナ様のような美しい魔法使いになりたいわ!」
カリン(ラミアナ様、本当に綺麗…。)
写真からも伝わる力強さと妖艶さ。
カリンは見惚れてしまう。
アイ「では、ラミアナ様をご存じであらせられるフェナード家のカリン様から説明をお願い致します。」
「えっ…?」
急に振られて困惑するカリン…。
子ども達は目を輝かせている。
それはそうだ。ラミアナ様は絶世の美女であり、大人気であった。
その美女を従えていたフェナードの者からの話を聞ける機会など普通はない。
アイ先生はウインクをした。
カリンは席を離れ、教壇に立った。
カリン「私はラミアナ様と直接お会いしたことはございません。50年前、ストラトスの国境付近で亡くなったと聞いております。」
悲しい表情になる子ども達。
ミオも静かに、カリンの言葉に耳を傾ける。
カリン「ラミアナ様は教会本部の魔法学校を首席で卒業されました。聖騎士となってからもその才能は際立ち、多くの功績を残した結果、ルクセリア唯一のS級魔法使いとなったのです。」
「S級魔法使いとなったラミアナ様は、名誉の証としてラストネームを授かりました。そして、ラミアナ・フォードと名乗るようになりました。」
女の子「ラストネームってフェナード様やイグニス様みたいな名前のことですか?」
カリン「そうですよ。ラストネームは本来、教帝や枢機卿、新貴族などに限り、与えられる名前です。未だかつて類を見ないS級魔法使い。その功績として、ラミアナ様はフォードという名前を与えられました。」
アイ「実力で上り詰め、ラストネームを頂けた者はラミアナ様だけ。これは本当にすごい事なのですよ。」
子ども達
「わー!!」
「カッコいいな…ラストネーム、ボクなら何て名前がいいかなぁ。」
「まずは魔法を使えなきゃ。名前、貰えないわよ。」
「フフ、夢があるわね。ラストネーム。」
教室がざわめく。
女の子がミオに話しかける。
「ね、ミオちゃん知ってる?ラミアナ様ってお顔も美人さんだけど、背も高くて、ボンッ、キュッ、ボンのスタイル抜群だったんですって。」
ミオの顔が真っ赤に火照る。
ミオ「ボボボ、ボンッ、キュッ、ボン!!?」
その様子を見ていたカリン。
カリン(ミオってませているのに意外とピュアな所あるのよね…)
この日は教室に笑顔が絶えなかった。
無邪気な子ども達の笑顔に触れるたび、カリンは教帝としての立場をより一層自覚する。
次世代を導く存在として、改めて身の引き締まる思いだった。
ミオも子ども達と過ごす中で、普段みせない表情を見せていた。
カリンはその様子を密かに、
とても嬉しく感じているのだった。
シルフィ「ピィピィ。」
シルフィも子ども達と一緒に笑っている様だった。




