3ヴィスタの街
ー白く、白く、
ーどこまでも真っ白な世界
そこに青髪の少女と赤髪の少女がいる。
赤髪の少女、カリンが話しだす。
「ミオの魔法を見せてあげたい!きっとあなたと同じ年頃よ!」
青髪の少女「私には見ることが出来ないわ。」
と哀しく微笑む。
そして白い世界に光がさす。
青い少女が薄っすらと消えていくー
カリン「あ、名前!名前を教えて!」
青髪の少女の口元が動く。
けれど聞き取れない…
ーパカッパカッ、パカッパカッ
ー教会本部の東にある街道
木漏れ日の中を一台の馬車が走る。
「ん…………」
カリン(あれ、今、あの子なんて…)
「お目覚めですか?カリン様。」
ーミオが顔をのぞかせる。
カリン(……もう………思い出せない)
ミオ「少し疲れが見受けられます。ヴィスタまではまだ時間があります。もう少し休まれて下さい。」
カリン「大丈夫よ!寝た、寝た!」
カリンは腕を伸ばし、深呼吸をする。
シルフィは木々から差し込む光を浴びている。
カリン「ミオこそ、毎日私と一緒で休めていないでしょ?馬車の揺れって気持ち良いからさ、ミオも楽にして。ほら、こっちおいで。ひざ枕してあげる!」
ミオ「と、と、と、とんでもございません!」
「そのような事があってはなりません!」
ミオは顔を真っ赤にする。
カリン「ミオが喜ぶ顔が見たいんだよ、ほら、おいで。」
ーカリンにひざ枕をしてもらい、涙を流すミオ。
カリン「いやいや、何で泣いちゃうのよ…」;
あれから数週間、カリンとミオは共に行動をしている。
教会本部では、カリンと一緒に並ぶ小さな女の子の存在がすぐに話題となった。
父、レイノルドを捜す。決意をしたカリンだが、先の日程は埋まっていた。
アルバ教帝とは会えていない。あれから連絡もこない。
カリンは決まっていた日程を、小さな魔法使いと共に進めていく毎日であった。
ーパカッパカッ、パカッパカッ
心地よく馬車が揺れる。
二人は大陸最東端の街、ヴィスタを目指していた。地方視察の一環だ。
ミオは起き上がり、カリンの服を直す。
そして座り直し、ニコッと笑う。
ミオ「やはりカリン様とこうやって向き合い、お話している方が心が休まります。」
その言葉にカリンの胸が熱くなる。
年齢に不相応な、だけど温かい言葉をくれる彼女。
いずれ教帝となるカリンに献身的であるが、何かもっと…それ以上の想いが感じ取れる。
カリンにはその様子が壁のように感じていた。
カリン
「もっと、子供らしく普通で良いのよ。お祖父様に命ぜられているとはいえ、私はもっとアナタと普通のお友達になりたい。とっても凄い魔法使いのお友達にね。」
その言葉に、ミオの顔が綻ぶ。
しかし、直ぐにうつ向き、ギュっと胸を抑えた。
カリン(まずい…)
「あぁーっと、ごめんね。私また傷付けちゃったのかな?」
ミオは想いを抑えるかのように伝える。
「滅相もございません。ただ………お友達、という対等な関係にはなれません…。」
カリンはここの壁を乗り越えたいのだった。
何かに囚われているような…苦悩…葛藤…
子供である彼女が、頑なにカリンへの気持ちを抑えている。
カリン「…どうして?それは寂しいよ。これから一緒に父さんを探す旅に出るんだよ。二人で協力していく事も沢山でてくるわ。」
ミオ「……はい。承知しております。」
カリン「それに私はミオの事をもっと知りたいの。どこの国で生まれたのか、どこで魔法を覚えたのか。お祖父様とどういった間柄なのか。何も教えてもらってないわ。」
次々と投げ掛けられる問いにミオは困惑している。
カリンは視線を離さない。
ミオとのその壁を無くしたくて必死だった。
ミオ
「ど…道中の協力は致します。必ず。この命に代えてもカリン様をお守り致します。」
「ですが………やはりカリン様と対等な関係にはなれません。」
「………アルバ教帝との間柄も許可なく口には出来ません。」
「そして、私の故郷は……ありません。
教会に助けられ、魔法をご教授頂きました。」
………。
馬車内の空気が重くなる…。
するとシルフィが羽ばたき、
ミオの頭に止まり、鳴いた。
シルフィ「ピィ。」
カリンはひと呼吸し、ミオの肩に触れた。
そして顔を覗き込む。
カリン「ごめんなさい。踏み込んだ事を聞いてしまって。それにミオはお祖父様にお仕えしているのよね。立場もわきまえず失言だったわ。」
ミオはすぐさま顔を上げた。
「滅相もっ御座いません!失言などと、そのような事は!」
カリン(立場をわきまえていなかったのは確かよ。)
これ程までにカリンを慕っていて、きちんと線引きをする謙虚さ。
この少女にはちゃんと笑って欲しいし、一緒に笑い合いたい。
カリンはどのようにすればミオに近付けるのか考えるのだった。
カリンは柔らかい表情を向ける。
カリン「もう何も聞かないわ。ほら、外を見て。ヴィスタが見えてきたわよ。東の海は初めて?」
ミオは馬車の外を見る。
すると
ーザッバーン、ードーン
ーザッバーン、ーパーン
岩肌に波打つ音と、
潮の香りがほのかに肌をかすめる。
教会本部の東、岸壁沿いにある小さな街
ーヴィスタ
カリン「この街は教会本部から遠くないし、最東端にあることから世界情勢の影響をあまり受けないのよ。」
ミオ「平和な空気を感じます。家々も素朴でとても可愛いです。」
「それから東の海、私は初めてです。大陸は内陸地や西側が産業や経済の要ですから。」
カリン「そうね。東側は伺う機会が少ないわ。」
馬車はヴィスタの街に入った。
温かみのある屋根が並び、
通りの草木は青々としている。
ミオ「けれど穏やかな時間が流れています。」
ーカリンは最終確認をとる。
カリン「ミオは今日、一日編入生として授業に参加してもらうわ。魔法の授業はないと思うけど、いつも通りに。よろしくね。」
ミオ「はい。魔法は絶対に使いません。ヴィスタの授業、楽しみです。」
ミオはニコッと笑った。
ヴィスタの中心部で馬車が止まる。
馬車の扉が開き、カリンが姿を現すと歓声が湧き上がる。
ワー!
ワー!
キャー!カリン様よ!
カリン様ー!
ようこそ!ヴィスタへ!
カリンはお辞儀をし、人々を見渡す。
ヴィスタほどの小さな街では要人が訪問する際、街全体で歓迎する風習がある。
カリン様、とても可憐だわ!
なんて優しい眼差し!
フェナード様の赤い髪よ!
こんな近くでお目にかかれるなんて!
歓声に潮の香りが混ざる。
シルフィがカリンの肩に止まる。
ミオ「まー!凄い歓声です。カリン様。」
カリン「みんないい笑顔をしているね。私も嬉しいわ。」
歓声の中からチェスタ司祭が現れる。
ふくよかで、おおらかな司祭である。
チェスタ「お待ちしておりました。カリン様。ヴィスタまでご足労いただきありがとう御座います。」
カリン「ご無沙汰しております。チェスタ司祭。街民による温かい歓迎、感謝致します。」
二人は笑顔で握手を交わす。
そしてチェスタの横に眼鏡をかけ、髪を結んだ女性が並ぶ。
チェスタ「こちらが今日の全視察の案内役、
アイ先生です。」
アイ「カリン様、本日はお会いできるのを本当に楽しみにしておりました。」
そう言ってお辞儀をした途端、
眼鏡が地面に落ちる。
アイ「きゃっ、ーやってしまった。」
慌てふためくアイ。そして何も見えない。
カリンはそっと屈み、眼鏡を拾う。
そして真っ赤になってしまったアイの顔に眼鏡をかけてあげた。
カリン「こちらこそ。アイ先生の授業を楽しみにしておりました。どうぞ、よろしく。」
アイはパニックになり息が荒くなる。
「な、な、な何てご無礼を…申し訳ありません。カリン様。」
そして勢いよくお辞儀をした途端、
また眼鏡が落ちる
ーそしてミオがキャッチした。
ミオ「一日編入生のミオです。アイ先生、今日はよろしくお願いします!」
そう言ってアイに眼鏡を差し出す。
アイ「アナタが本部の編入生さんね。どうもありがとう。」
アイは照れながら眼鏡を受け取った。
その時、ミオの目が一瞬鋭くなる。
ミオ「……」
チェスタ「それではまずヴィスタの教会へ案内致します。アイ先生、よろしくお願いします。」
街民の歓声の中、一行はヴィスタの教会へと移動する。
ー教会、ヴィスタ支部。
礼拝堂の中は静寂に包まれていた。
潮風と歓声は聞こえない。
ひんやりとした空気。
そして祭壇の奥には、女神メイデス様の像が置かれている。
千年にわたり世界中で信仰され続ける慈愛の象徴。
カリンは祭壇の前へ進む。
そして両膝をついた。
胸の前で指を組む。
瞳を閉じる。
ー祈りの時間
皆もそれに続くように祈りを始める。
ー大いなる女神メイデス様への感謝の時間
カリンの祈りの時間はまるでー
まるで女神の慈愛に包まれているかのようだった。




