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47地下の道

正門をくぐる直前――。

ホンドーラ中佐が、アッシュへ声をかけた。

「アッシュ様。申し訳ありませんが、駐屯地内では武器をお預かりする規則となっております。」



アッシュは、きょとんとした。

「え? 俺ら武器なんて持ってないけど?」



「いえ。魔法使いなら、持っているはずです。」

そう言って、ホンドーラ中佐はミオへ視線を向ける。



ミオは袖の中から、一本のワンド型の杖を取り出した。

(普通の魔法使いに見せるための、フェイク用の杖なのですが……。)



そして、ミオは何も言わず、ホンドーラ中佐へ手渡した。



ホンドーラ中佐は、杖を見てわずかに顔をしかめた。

(こんなちゃちな杖で、一番隊と聖騎士を全員眠らせただと……。信じられん……。)



アッシュは、思わず声を上げた。

「え? ミオちゃん、なんでそんなの持ってんの?」



「しーっ!」

ミオは人差し指を口元に当てた。



アッシュは一瞬だけ目を瞬かせた。

そして、何かを察したように口を閉じた。



その直後――。



――ギィィィィ……。

巨大な正門が、ゆっくりと左右へ開いていく。



その先には、広大な軍用施設が広がっていた。

正門から続く大通りの両側には、整然と兵舎や倉庫が並んでいる。

大通りの先にも、いくつもの建物が見えていた。



「おお〜……。」

アッシュは、ミオを乗せたまま馬を進めた。

「でっけぇなぁ、ラムーダ駐屯地。」



ミオは周囲を見回す。

(再びこうやって軍の基地に潜入するとは……。)

(やはり、だいぶ雰囲気は変わりましたね。)



グレーの軍服を着た兵士たちが、あちこちを行き交っていた。

書類を抱えて歩く者。

数人で話しながら歩く者。

馬を引いて歩く者もいる。

行き交う兵士たちの多くが、アッシュとミオの姿に気づき、振り返った。



「誰?あのイケメン。」


「ばっ!新貴族だよ!連絡あっただろ!」


「それと、一番隊を全員倒した子どもらしいわ。」


「んな訳ないだろ。聖獣がやったんじゃねーの?」


「ばっ!聖獣が本当にいるわけないだろ!」


「それより、なんで捕まえないんだ?」


「知らない〜。上の判断待ちなんじゃない?」



小さなざわめきが、あちこちから聞こえてくる。



アッシュは気にする様子もなく、笑顔で手を振った。

「やっほー。」



「……。」

ミオは、思わず額に手を当てた。



「アッシュ様。」

ホンドーラ中佐が、馬を寄せてくる。

「このまま来賓用の部屋へご案内いたします。」



「もう腹ペコだよ〜。」

アッシュは気楽に答えると、ふと思い出したように尋ねた。

「ところでさー、聖騎士はもう帰ったの?」



ホンドーラ中佐

「はい。貴方の連れの魔法使いによって、全員が戦闘不能となりましたので。」

そう言って、ミオへ冷たい視線を向ける。


「現場で事情を確認した後、聖騎士の方々はそのまま帰投しております。」

「軍に編入されて以降、聖騎士も人手不足のようでして。」



アッシュの表情が、ほんの一瞬だけ緩んだ。

(ディノス兄ちゃんは無事に本部へ帰ったんだな……。)



ミオは顔を上げる。

「……あの魔法は、しばらくすれば解けます。皆さん、お怪我はなかったのでしょうか?」



ホンドーラ中佐は、ミオを睨むように見た。

「当然、無事だ。」

「そうでなければ、貴様をこのような待遇で駐屯地内へ通すことなどできん。」



「そうですか……。」

ミオは、ほっとしたような表情を浮かべる。

そして、何気ない様子を装って尋ねた。

「それと……あの場にいらした大佐も、ご無事だったのでしょうか?」



ホンドーラ中佐は淡々と答える。

「パトリオット大佐も問題ない。今は医務室で治療中だ。」



「……。」

ミオは、ほんの一瞬だけ表情を止めた。

(医務室……。)



アッシュも、ほんのわずかに口元を緩めた。









***









「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

必死に呼びかけるアメリの声がした。



「……う……。」

カリンは、ゆっくりと目を開けた。

辺りは、真っ暗だった。

ただ、ベレットだけが、赤々と光を放っている。



その光で、アメリの姿が浮かび上がった。 小さな手で、カリンの身体を一生懸命さすっている。

「お姉ちゃん……! 大丈夫……? ねぇ、お姉ちゃん……!」



「アメリ……。」

カリンは、徐々に思い出す。



地面が、突然崩れ落ちた。

落下しながら、カリンはアメリの手を掴んだ。

そして、背負ったジールを固定していたベレットの柄からクレイドをロープのように伸ばし、自分たち全員を何重にもぐるぐると巻きつけた。

最後には、全員を包み込むように丸い形になった。



「……そうだ!」

カリンはハッとして起き上がった。

「ジールさん!!」



ジールは、すぐそばの地面に横たわっていた。

カリンは慌てて駆け寄り、呼吸を確認する。



ジールの呼吸は安定していた。

顔色も悪くない。



カリン「よかった……。ちゃんと息をしてる。」



その近くでは、二羽のシルフィも地面に落ちていた。

「ピ……。」「ピィ……。」



カリンが手を伸ばすと、シルフィたちは慌てて飛び上がった。

「ピィ!」「ピィピィ!」



「ふぅ……。あなたたちも無事だったのね。」

カリンは、ようやく胸を撫で下ろした。



そして、アメリを抱き寄せる。

「怪我はない?」



アメリは、カリンの胸元で小さく頷いた。

「うん。どこも痛くないよ。」

「よかった。お姉ちゃん……。」



カリンは、アメリの頭をそっと撫でた。



そして――。

辺りは暗く、よく見えない。 けれど、頭上から僅かに光が差し込んでいる。



カリンが見上げると、そこには崩れた土の穴があった。

「……私たち、あそこから落ちたのね。」



アメリも上を見上げる。

「つばさの子たちは……?」



カリンは耳を澄ませた。

先ほどまで聞こえていた翼竜の鳴き声は、もう聞こえない。


「……いないみたい。」



カリンは立ち上がると、ベレットで辺りを照らしながら、周囲を見回した。



その時――。



「……あれ?」

カリンの足元に、わずかな水が溜まっているのが見えた。

よく見ると、水はゆっくりと暗闇の奥へ流れている。

カリンは、その流れを目で追った。

「……水が流れてる。」



その周囲の土は、ところどころ崩れていた。

カリンは、先ほど落ちてきた穴を振り返る。

「もしかして……。」



アメリ「どうしたの、お姉ちゃん?」



カリンは崩れた土を見つめた。

「この下……ずっと空洞になっていたのかもしれない。」

「地下を流れていた水で、長い時間をかけて土が少しずつ流されていたのかも……。」

「それで、こんなに広い空洞が……。」



アメリが小さな声で言った。

「じゃあ……。」

「つばさの子たちが降りてきたから……?」



「たぶんね。」

カリンは、崩れた穴の縁を見上げる。

「あれだけの魔獣が一斉に降りてきたら……弱くなっていた地面が、耐えられなくなってもおかしくないわ。」



カリンは、もう一度水の流れへ目を向けた。

水は、暗闇の奥へ向かってゆっくりと流れている。

「水は、低い方へ流れていくはず……。」

「だったら……。」



カリンは、ふと上空から見た景色を思い出した。

「ハーブルも、丘の斜面に広がっていたわよね。」



アメリが首を傾げる。

「あの大きな街?」



「うん。」

カリンは水の流れていく先を見る。

「もしかしたら、この水もハーブルの方へ流れているのかもしれない。」



アメリの顔が、少し明るくなる。

「じゃあ、このお水についていけば……ハーブルに行けるの?」



カリン「分からないけど……。少なくとも、手掛かりにはなりそうね。」



カリンは、ジールを背負い直した。

そして、水が流れていく暗闇の奥を見つめる。

「行ってみよう。」











赤く光るベレットだけを頼りに、しばらく歩き続けた。

カリンはジールを背負ったまま、額の汗を拭う。

「まだまだ続くわね……。」



その時――。

「ぐぅ~~。」



アメリは、恥ずかしそうにお腹を押さえる。

「お姉ちゃんのポトフ、食べたいよ~。」



「ピィ……。」「ピィィ……。」

シルフィたちもお腹を空かせているのか、しょんぼりと羽を垂らしていた。



「朝から何も食べていなかったものね。」

カリンは少し申し訳なさそうに笑う。

「ハーブルに着いたら、みんなで美味しいものを食べようね。もう少しだけ頑張ろう。」



アメリは小さく頷いた。

「うん……。アメリ、頑張る。」



アメリはカリンの横を歩きながら、ふと顔を上げた。

「ねぇ、お姉ちゃん?」



カリン「なぁに?」



アメリ「お姉ちゃんは、なんで魔法使わないの?」



「……うん。」

カリンは少しだけ目を伏せ、切なげな微笑みを浮かべた。



「私には……魔法を教えられないって言われたの……。」



アメリは驚いたように目を丸くする。

「えっ!? どうして? 誰に言われたの?」



カリンは、少し遠くを見るように視線を逸らした。

「父さんと……昔亡くなった、ルノーっていうお兄さんによ。」

そして、少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「どうしてなのかは……わからない。」



「そんな……。」

アメリは、不思議そうにカリンを見つめる。

「お姉ちゃん、大きいクレイドを持っているのに……。もったいないよ……。」



カリンは、そんなアメリに優しく笑いかけた。

「だけど、代わりにベレットをもらったわ。」



「そっか……。」

アメリは、納得したように頷いた。

「だから、お姉ちゃんにはベレットがあるんだね。」



「そういえば……。」

カリンは、ふと思い出したようにアメリを見る。



「?」

アメリがカリンを見上げる。



カリン「私、ずっとアメリを見ていて思っていたの。」

「ウィンさんと戦った時のこと、覚えてる?」



アメリ「お姉ちゃんと一緒に、ベレットでやっつけたやつ?」



「そうよ。」

カリンは頷いた。

「あの時、私が何も説明していないのに……アメリは、どうすればいいのか分かっていたでしょう?」



「だって……お姉ちゃんが危なかったから。」

アメリは、当たり前のことのように答えた。


「それに……」

アメリは、少しだけ首を傾げる。


「お姉ちゃんがどうするのか……なんとなく分かったの。」

「アメリがどうすればいいのかも……。」



その言葉に、カリンはアメリを見つめた。

(やっぱり……。)

(あの時、アメリが選んだことは――)

(私が選ぶことと、同じだった。)


(この子は……私と同じなんだ。)

(だから……。言葉にしなくても、同じように動けたんだ。)



カリンは、アメリの頭を優しく撫でる。

「アメリは、本当に小さいのによく頑張っているわ。」

「それに、もう魔法まで使えるようになったものね。」



アメリは少し得意そうにしながら、照れたように頬を緩めた。



カリンは、少しだけ歩く速度を緩めた。

「だからね。」

「これからは、ベレットの使い方をもっと教えてあげたいなって思ってるの。」



「……ほんと?」

アメリの目が輝いた。


「うん! やりたい!」

「教えて! お姉ちゃん!」

「アメリも、いろんな形にできるかな?」



「ええ。できるわよ。」

カリンは笑った。

「それにね。私がアメリくらいの頃は、ベレットに振り回されて、身体中アザだらけだったの。」

「でもアメリは、もうクレイドの鎖を自在に伸ばせるでしょう?」



アメリ「お姉ちゃんも、最初は上手に使えなかったの……?」



「そうよ。」

カリンは、まっすぐアメリを見つめた。


(そして……この子には、私にはないものがある。)

(感情が大きく動いた時、一瞬だけクレイドの出力が跳ね上がる。)

(あの時も、そうだった。)

(あの力を、自分でコントロールできるようになったら……。)

(ベレットは、私が知っている以上のものになるかもしれない。)



カリンは、もう一度アメリの頭を優しく撫でた。

「あなたは、私以上の使い手になるかもしれないわ。」



「……え?」

その言葉が嬉しかったのか――。

アメリは、目を輝かせながらカリンを見つめた。



(お姉ちゃんと、これからもずっと一緒にいたい……。)


(そのためには……そのためには……。)



アメリは、小さく拳を握った。











しばらくすると――。



「……あれ?」

カリンが足を止めた。



今まで土と岩ばかりだった足元に、平らな石が現れていた。



「これは……。」

さらに進む。



すると、土の中から大きな石の柱が姿を現した。

その上には、太い石が横に渡されている。



「……な、何これ……? 柱……?」

カリンは思わず足を止め、頭上を見上げた。



「……?」

アメリも石の柱を見上げた。

「……おっきい。」



カリンは辺りを見回した。

土や岩の間に、同じような柱がいくつも並んでいる。

その先には、平らな石の床が続いていた。



「……誰かが造ったのね。」

カリンの表情が、ほんの少し明るくなる。



アメリが、カリンの腕を小さく引いた。

「ハーブルについたの?」



カリンは頷く。

「もしかしたら……。」



二人は、石柱の並ぶ先へ目を向けた。

その先は、暗闇が続いている。

カリンは、ベレットを前へ掲げた。

赤い光が、暗闇の奥を照らす。



すると――。

そこには、小さな鉄の扉があった。

人が立ったまま通るには、少し低い。



アメリが、扉を指差す。

「お姉ちゃん、あれ何?」



「なんだろう……?」

カリンは扉へ近づいた。

しゃがめば、なんとか通れそうな大きさだった。



「……入れるかしら。」

カリンは、そっと取っ手に手をかける。



――カチャッ。

鍵はかかっていなかった。



カリンがゆっくりと扉を押す。

――ギィ……。



カリンは、扉の隙間からそっと中を覗き込んだ。

その先には、石造りの通路が続いていた。

壁には、小さな明かりが等間隔に並んでいる。



アメリも、カリンの後ろからそっと覗き込む。

「……中、入れるの?」



カリンは扉の大きさを確かめるように見つめた。

「……いけそうね。」

そう言って、ジールを背中から降ろす。

「アメリ、手伝って。」



アメリ「うん!」



カリンとアメリは、ジールの身体を支えながら、扉の向こうへ運んでいく。

先にカリンが中へ入り、アメリと一緒にジールをゆっくりと引き入れた。

「よいしょ……。」

無事にジールを通すと、カリンは再びジールをベレットで背負い直した。



シルフィたちも、その後に続いた。

「ピィ!」「ピィ~!」



アメリは、嬉しそうに地面を踏みしめる。

「わぁ~。ここ、歩きやすそうだね、お姉ちゃん!」



カリンも、辺りを見回した。

「ええ。明かりがあると、全然違うわね。」


(明らかな人工物……。)

(でも、水路ってわけでもない。)

(もしかして……都市へ続く地下道なのかしら。)



カリンは、通路の奥へ目を向けた。

「もう少しよ。アメリ。」


そう言って、背負ったジールの様子を確認する。

「ハーブルへ着いたら、まずはジールさんを病院へ連れていきましょう。」



「わかった!」

アメリが元気よく頷いた。



二人が歩き出そうとした、その時――。



「ピィピィ!」「ピィピィ!」

後ろから、シルフィたちの鳴き声が響いた。



「シルフィちゃん、どうしたの?」

アメリが駆け寄る。



シルフィたちは、石造りの壁の一角で羽根をぱたぱたと動かしていた。

「ピィ!」「ピィピィ!」

まるで、何かを見つけたことを知らせるように、壁の前を飛び回っている。



アメリが壁を覗き込む。

すると――。



「わあ……。」

古い配管の脇に、ぽつんと綺麗な結晶が埋め込まれていた。



「お姉ちゃん、見てみて!」

アメリが嬉しそうにカリンを呼ぶ。



カリンも近づき、結晶をじっと見つめた。

「……これは、超小型のクレイドバッテリーね。」

「結構、昔の型だわ。」

「こんなところにはめ込んで……何に使うためのものかしら?」



カリンは、結晶の表面を指先でそっと確認する。

「珍しい形……。」

「それに……普通のものより、ずっと澄んでる……。」



カリンが首を傾げていると――。

アメリが、壁に手を伸ばした。

「えいっ。」



ぽろっ。



「あっ。」

小さな結晶が、壁から抜け落ちた。



「アメリ!?」

カリンの眉が、驚きに跳ね上がる。

「なんてことするの!」



「へへ。アメリね、おんなじのもう一つ持ってるんだ。」

そう言うと、キュロットのポケットから、全く同じ小さな結晶を取り出した。



カリンが目を丸くする。

「……アメリ、これ、どこで?」



アメリ「ジールさんがいたところで拾ったんだよ!」



カリン「それって……朝、目を覚ました場所?」



「うん!」

アメリは、こくんと頷いた。

「屋根裏部屋から出たあとに拾ったの!」



「いつの間に……。」

カリンは呆れたように息を吐く。

改めて、二つの結晶をじっと見た。

「だけど、こんなに珍しい形のクレイドバッテリーが、あんな場所にあったなんて……。」


そして、ふっと表情を緩めた。

「ふたつも揃ったなら、大事なお宝ね。」



アメリは、二つの結晶を光にかざすように持ち上げた。

「お姉ちゃん。このふたつ、きれいだから……アメリ、アクセサリーにしたい。」



「そうね……。」

カリンは少し考える。

そして、ふっと笑った。

「だったら――。」



カリンは髪を結ぶためのヘアゴムを二つ取り出した。

それぞれのヘアゴムに、小さな結晶を一つずつ結びつける。



カリン「ほら。」



アメリ「お姉ちゃん、それ何?」



カリンはアメリの髪を左右に分けると、結晶をつけたヘアゴムで、それぞれを結んだ。



カリン「できたわ。」



二つの小さな結晶が、アメリの左右の髪でキラキラと揺れる。

アメリは、目を大きく見開いたまま、自分の髪を見つめていた。

「わぁ……。」

指先で結晶をそっと揺らしてみる。

「……きれい……。」



シルフィたちは、羽をパタパタと動かした。

「ピィピィ♪」

「ピィ~♪」



カリンは、アメリの姿を見て、満足そうに微笑んだ。

「うん。すっごく似合ってるわ。アメリ。」



「ほんと……?」

アメリは髪に触れながら、少し照れたように笑った。



カリン「ええ。街に着いたら、鏡で見てみようね。」



「うん!」

アメリは、笑顔で頷いた。








明かりが灯る通路を、二人は並んで歩いていった。



アメリは、時々髪の結晶に触れては、嬉しそうにしていた。



やがて、通路の途中に一枚の大きな扉が見えてきた。

さっきの小さな鉄扉とは違う。

人が何人も並んで通れそうな、大きな扉だった。



カリンは、ゆっくりと近づいていく。

「……何の扉かしら?」



扉には、ところどころ錆が浮いている。

長い間、使われていないようにも見えた。



カリンは、少しだけ警戒しながら扉に手を伸ばす。

「……開けてみるね。」



「うん……。」

アメリは、こくんと頷いた。



――ギィ……。

重い音を立てて、扉がゆっくりと開いた。



「……え?」

カリンは、その場で立ち止まった。



扉の向こうには――。

今までの狭い通路とは比べものにならないほど、広大な空間が広がっていた。

頭上には高い天井があり、太い鉄骨が何本も組まれている。

床も、壁も、どこまでも続いている。



そして――。



カリン「……なに、これ……。」



広大な空間の中には、巨大な結晶がいくつも並んでいた。

一つ一つが、人の背丈を遥かに超える大きさだった。

それらは透明で、光ってはいない。



奥を見る。



まだある。



さらにその奥にも――。

倉庫を埋め尽くすように、巨大な結晶が並べられていた。



カリンは、言葉を失った。

「……これ、全部……クレイドバッテリー……?」



「……ここは、一体……。」

カリンは、ゆっくりと倉庫の中へ足を踏み入れた。

アメリもカリンの袖を掴み、その後に続く。



「こんなに……大きいの……いっぱい……。」

アメリの水色の瞳に、巨大な結晶が映っていた。



「ピィ?」「ピピィ!」

シルフィたちも、結晶の周りを飛び回る。



「これほどの数……一体、何のために……?」

そう言ってカリンは、一番近くにあった結晶へ手を伸ばした。



指先が触れた――

しかし――



「…………え?」



何も起こらない。

カリンは、思わず手を止めた。

「……反応しない?」



もう一度、結晶に触れる。

それでも、結晶は沈黙したままだった。



カリンの表情が変わる。

「クレイドに……反応しない……?」

「でも、これ……クレイドバッテリーよね……?」



その瞬間――。

カリンは、背後の気配に気づいた。



「……え?」

振り返る。



そこに立っていたのは――。

グレーの軍服を着た軍人。



「…………ッ!」

軍人の顔が、凍りつく。



「――カリン・フェナード!?」



「――ルクセリア兵……!?」

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